前回は資産運用のノウハウとして「ロスカット」について解説しました。今回は、運用手法のひとつである「リバランス」について紹介します。

リバランスとはなに?

投資信託,リバランス
(画像=billionphotos-com/stock.adobe.com)

リバランスとは、資産運用で当初決めた資産配分の割合(アセットアロケーション)が相場変動で大きく変わった際、資産比率を見直し元の割合に戻す手法を指します。

例えば自分が当初決めたアセットアロケーションのうち、株式資産(株式型投資信託を含む)が50%、債券資産(債券型投資信託を含む)が50%にし、リスクは高いけれども長期でリターンも期待できる株式資産と、リターンは低いがリスクも低い債券資産を50%ずつにして運用を始めたわけです。(アセットアロケーションの考え方については連載第7回「リスク管理は『資産全体の何割を投資に振り分けるか』でほぼ決まる」で詳しく解説しています。知識に不安がある人は是非ご覧ください。」

当初、「株:債券=50:50」ではじめたポートフォリオが、数年後に株式が大きく上昇したために、配分比率が「株:債券=70:30」になってしまったとします。当初判断したよりも、リスク資産の配分比率が高くなりすぎていることになります。これを元の割合に修正する動きがリバランスです。株式資産の一部を売却して利益確定して、その分、債券資産を買い増して「株:債券=50:50」に戻します。もしくは、株が値下がりして、「株:債券=30:70」になっていたとします。その時には、債券を売って株を買うのもリバランスですが、資金に余裕がある場合は新規資金で株式を買い増して、「株:債券=50:50」に戻すこともリバランスです。

ここでは株式資産と債券資産の2資産で解説しましたが、株式資産の中でも日経平均連動型のパッシブファンドとハイリスク・ハイリターンのアクティブファンドを半分ずつで投資していた場合に、どちらかのファンドが大きく上昇したことで資産比率が大きく変わってしまう場合の修正もリバランスです。(アクティブ投資信託について、復習したい場合は連載第12回「アクティブ投資信託ってどんな商品?投資時の注意ポイント」をご覧ください)

リバランスは一般的に、アセットアロケーションを戻すことだと解説しましたが、それ以外のケースもあります。30代の若いときに長期運用で「株:債券=50:50」で運用をスタートしたものの、50代になって運用を保守的にしたいので「株:債券=30:70」にする。これもリバランスです。また、株式相場がショック安で大きく下げたときに、長期の買い場と判断して株の比率を上げる。これもリバランスです。これは「リアロケーション」とも言います。

リバランスのメリット、デメリット

リバランスのメリット

リバランスのメリットは、自分が希望するアセットアロケーションをキープ出来る点です。リスク分散の見地からは理にかなった投資行動でしょう。それから、ルールを用いてリスク過多の投資を防ぐことができる点、運用成績が安定する点にあります。

リバランスのデメリット

リバランスのデメリットは、まずは手間がかかること。また、ある程度の金融リテラシーも必要となります。さらに、資産を売り買いすることには手数料が発生します。税制優遇の口座でなければ売却時にはキャピタルゲイン課税もかかります。コスト面でも多くのリバランスをすることはデメリットになることでしょう。

リバランスの注意点

株式が値上がりしている時は、「早く株を売って債券を増やさないと、リスクが高くなるのでは?」と心配しがちですが、こまめにリバランスしすぎると逆にいいところを取れずに投資効果が落ちることもあるので、注意しましょう。

リバランスをしたほうが良い人、しなくてもいい人

リバランスをしたほうが良い人

リバランスの一番の目的はリスクコントロールです。したがって、リバランスをしたほうがいい人は、分散投資で複数の商品を保有している人です。特にリスクが高く、変動率(ボラティリティ)の高い商品を組み入れている場合は、大きな損失を防ぐためにも意識しておくべきでしょう。

日本国民の国民年金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、基本のアセットアロケーションを決め、それぞれの資産の上限下限の許容範囲を決め、その限度を超えたときにリバランスするようにしています。たとえば、今は日本株の比率は25%で、8%の許容範囲を決めています。したがって、日本株の比率が17%以下になればリバランスで買い増し、33%以上になればリバランスで売却することを決めているのです。こうした考え方は参考になりそうですね。

リバランスをしなくても良い人

リバランスをしなくてもいい人は、バランス型ファンドで運用している人です。投資信託のなかには、バランス型ファンドと呼ばれる自動でリバランスをしてくれる商品があります。その場合は、自分でリバランスをする必要がありません。できるだけ手間を省きたいという方なら、最初からバランス型ファンドを選ぶのも手です。ただ一般的にはバランス型のファンドはコストが比較的高くなっていることには注意してください。

リバランスの実行タイミングはいつ?

リバランスのタイミングも難しい問題です。こまめにリバランスしすぎると値上がりのチャンスを逃すことになり、逆に投資効果が落ちることもありうるからです。

リバランスの実行時期は、かい離率(株価が移動平均線からどれだけ離れているか
)を見て判断するか、一定期間を決めて実行するのが良いでしょう。かい離率を見て判断する場合は、「日本株、日本債券、海外株、海外債券」をそれぞれ25%のアロケーションで投資を開始した場合、たとえば「10%かい離」をリバランスの条件にします。いずれかの資産が15%もしくは35%のレンジから外れた場合にリバランスするなどです。前述のGPIFのパターンですね。

期間でリバランスする場合には、3年に1回、1年に1回、または4半期に1回といった具合で見直しの機会をもうけます。

NISAとiDeCoでリバランスする際の注意点は?

iDeCo(個人型確定拠出年金)の積み立てで運用している場合は、「スイッチング」「配分変更」が出来ます。

スイッチングはまさにリバランスで、比率が上昇した商品の一部を売って、その金額で下落した商品を買い増しすることです。

配分変更は、今まで投資した分はそのままにして、今後の新規投資先を変更することです。一気にリバランスせず徐々に比率を変えていく方法です。iDeCoは売却益に課税はされませんが売買コストが発生することはあります。売却予定の投資信託に信託財産留保額(売却時手数料)が設定されている場合は売却時に手数料がかかります。

NISAを利用する場合は、リバランスがしづらい制度設計になっています。年間の投資可能枠が決まっており、売却した場合でもその枠は戻らないからです。一般NISAの場合、年間の上限は120万円で最長5年です。120万円分の株を売っても120万円の枠は戻りません。枠を使い切っている場合、優遇税制で新規買いは出来ません。

つみたてNISAの場合は、毎月の投資商品を変更することは簡単です。ただ、これまで積み立てた投資信託を売却してスイッチングする場合は別です。つみたてNISA は年間の上限が40万円です。年間で消費した枠は戻りません。40万円分売っても新規買いの枠はないからです。実質スイッチングは出来ません。非課税枠を使ってしまってもリバランスするべきかを考慮する必要があります。

急落局面では追加投資も効果的

リスクコントロールのためには、アセットアロケーションのリバランスを意識することは大切です。また、株式の大きな下落局面では追加資金投入でリバランスするのは効果的なアプローチとなります。そのためには、ある程度の現金を準備しておくことが大事です。

いよいよ次回は連載の最終回になります。運用のノウハウのひとつとして、「中長期で保有したほうがいい投資信託の特徴や買い方」についてお伝えする予定です。

※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません(提供:Wealth Road