今回の記事では、富裕層の方向けのサービスでありながら、意外とあまり知られていない‘銀行’と‘信託銀行’の違いについてお届けします。

信託銀行は兼営法により銀行業務と信託業務の全てを行うことができます。そのため銀行業務では一般的な預金・貸出・為替等を取り扱っており、メガバンクや地方銀行と同様の業務を行っています。また、信託業務においては信託された金銭や有価証券や不動産を運用しています。さらに、併営業務として証券代行・相続関連等の業務を行っています。

一部では信託業務のみを行っている信託銀行もありますが、一般的に上記の銀行・信託業務の両方を行う銀行を信託銀行と呼んでいます。

【参考】

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①信託ってなに?

他人の財産を自己の名義に変更して預かり運用する仕組みであり、両者の信頼のもとに成立します。
財産を預ける人を委託者、預かり運用する人を受託者、財産運用の利益を受け取る人を受益者と呼びます。信託のしくみはこの三者によって成立しています。

信託では‘名義の変更’が特徴的であり、これにより「財産管理」「転換」「倒産隔離」の3つの機能が生まれます。
財産管理処分権が受託者に与えられることが財産管理機能です。これにより受託者は信託目的の範囲内で自由に財産を運用できます。
転換機能とは信託財産が信託受益権という権利になり、財産の属性や数の転換が可能になるものです。例えば金銭をまとめて運用しやすくしたり、財産を小口化して投資しやすくしたりすることができます。
また信託により委託者、受託者が倒産した場合にその影響を受けなくなります。これが倒産隔離機能です。

このように信頼のもとに委託し、受託することで財産を効率よく運用できるしくみが信託です。

②信託の歴史

信託の考え方は紀元前1805年にエジプトで書かれた書物に見られるほど、遥か昔から存在したと言われています。信託について理解して頂くために、ここで信託の歴史について触れておきたいと思います。

信託の始まり〜ユースの考え〜

中世イギリスにおいて信託は誕生しました。宗教信仰の強いイギリス人が自分の土地を信頼のおける人に譲渡し、譲渡された人がその土地から得られた収益を教会に寄進するという慣習がありました。これをユースと呼びます。
ここでは土地を譲渡する人が委託者、譲渡される人が受託者、教会が受益者になります。

ユースから信託へ

その後国の条例によってユースが禁止され、それを回避し潜り抜けるため二重のユースが生まれました。これが時代の流れを経て近代的な信託制度に発展しました。

日本における信託を利用した相続税対策の流行と衰退

日本での特徴的な信託の活用が相続税対策でした。以前の信託法では信託における相続の課税対象が受益者のみであったので、相続税回避が可能でした。具体的には信託された財産を収益受益権と元本受益権に分離して、相続税課税対象になる元本受益権の評価額を下げることで課税金額の圧縮を行いました。当時はこのしくみで相続税対策が行われていました。
しかし平成19年に施行された改正信託法により委託者と受託者に法人税課税や贈与税課税、譲渡益課税が課されるようになり、実質的に信託を用いた相続税対策が不可能になったという歴史があります。