◉ 他の一般企業と比較すると優秀

「大学発ベンチャーベンチャーの過半数が黒字」という記事を評価する際に最も重要なベンチマークとなるのが、民間企業一般における黒字割合でしょう。

以下の図1は、国税庁の発表による申告件数と黒字申告割合の推移を表していますが、最新データの平成23年度(2011年度)で24.3%、過去10年ほどで最も黒字申告割合が高かった平成19年度(2007年度)でも約34%となっています。

たけ1

図1:申告件数及び黒字申告割合の推移

出典: 国税庁『平成23事務年度における法人税等の申告(課税)事績・調査事績の概要』 より引用

これらの数値と比べると、大学発ベンチャー全体の黒字割合が54.6%というのは極めて優秀です。また、新設企業は赤字傾向にあるので、設立5年未満の大学発ベンチャー企業でも34.6%が黒字というのも驚異的な数字と言えるでしょう。

また、経済産業省委託「大学発ベンチャーに関する基礎調査」(日本経研究所, 2009)によると、2008年度において大学発ベンチャー企業の累積数1809社のうち1352社が生存(74.7%)しており、明確に民間企業と比較出来る数値が揃っているわけではないですが、生存率も高いと言えるでしょう。

◉ 大学発ベンチャーが利益を出しやすい理由

大学発ベンチャーの業績が全体として優秀である最大の理由ですが、一般企業なら事業当初にかかる筈の研究開発費が、大学発ベンチャー企業の場合は別予算である事があります。

最初の大学発ベンチャーの定義において、大学における研究成果を事業化する場合についてですが、その研究成果を事業化する以前に、大学予算や外部団体等から出された多額の研究費がかかっている場合が殆どです。通常、一般の民間企業が何らかの技術開発を行って事業を始める場合、その予算は自己資金であったり融資を受けたりする場合が殆どで、事業化して直ぐに黒字化するケースは少ないです。

しかし、大学発ベンチャーにおいては、その研究開発費が事業化以前に別予算で賄われている面が大きいので、スタートラインにおいて黒字化へのハードルが低いと考えられます。

大学では多種多様な分野に対して多額の予算が分配され、その中で事業化に繋がったものが累計で2000社程度しか存在しない(勿論、学生ベンチャー等統計で把握出来ていないものは多数あります。)という点からも考えると、大学発ベンチャー企業の投資効率が本当に高いかどうかは疑問であると言わざるを得ません。

但し、一投資家として見れば、大学発ベンチャーへの投資は悪くない選択である事は指摘しておきましょう。

◉アベノミクスの柱としては弱い?

アベノミクスの「第三の矢」の中の一つ「科学技術イノベーション総合戦略」があり、その中に「大学発ベンチャーの活性化」が明記されているわけですが、経済成長戦略とするには、今までの「事業化を望む研究者に対して予算を出す」という方式では効果が薄いでしょう。

一般に 開業率と経済成長率には正の相関関係 がある事が分かっており、イノベーション研究においてもイノベーションには多数の開業とその競争が重要であるというのが定説です。その理由を簡単に言えば、「何が成功するかは分からないが故に数が必要」というものです。MicrosoftとAppleの初期のOS競争で分かるように、高い技術であれば事業で成功するわけではなく、「国が技術を評価して予算を出す」方式では、国が万能でない限り非効率である可能性があります。

しかし、以下の図2を見て分かるように、日本は開業率が低い水準で留まっており、イノベーションの源泉が少ないと言えます。

たけ2

図2:日米英の開廃業率の推移

出典: 中小企業庁『中小企業白書(2011年版)』 p.185より引用

もし大学発ベンチャーを経済成長の柱とするなら、事業を起こしたい人と研究者とのマッチングのような政策が求められます。東京大学と経済産業省の「大学発ベンチャーに関する追跡調査」においても、大学発ベンチャーの中でも高い売上高を出している企業には「社内や社外ネットワークに経営経験者が存在する」傾向がある事が指摘されており、大学発ベンチャーの事業化において「経営スキル」がボトルネックになっている可能性があります。

その意味で、大学発ベンチャーを投資対象として見るならば、元の研究成果は勿論、経営陣なども含めた広い視野が必要になるでしょう。

© Jay Galvin 2012