3月2日、飲料業界大手のアサヒ飲料が、同業でもある大塚製薬と自販機飲料を相互に販売する業務提供を発表して話題になっている。アサヒの缶コーヒーの主力ブランド「ワンダ」と大塚製薬の主力商品「ポカリスエット」を、相互にお互いの自販機に供給するというのが提携の内容だ。この相互乗り入れは3月23日からスタートする。

アサヒサイドにはスポーツドリンク領域で強い商品がなく、大塚サイドには自販機で最も売上げを稼ぐ缶コーヒー領域に主力ブランドがないため、お互いに弱い部分を補完する業務提携となる。

自販機飲料市場の競争は激しく、あらゆる飲料領域でトップブランドを構築することは、かなり難しい時代となっている。缶コーヒージャンルで大きなシェアをもち、長年、飲料市場で莫大な広告費と大規模な流通でパワーマーケティングを繰り広げてきたアサヒ飲料といえども、それ以外の領域でトップブランドを1から構築していくことは時間的、コスト的に相当な労力を要する。その負荷を考えて今回のような提携に踏み切ったのだろう。

今後、各企業間で同様の業務提携が続くことも予想される。それほど自販機飲料ビジネスは岐路に差し掛かっているのである。

自販機市場は販売鈍化、飲料市場は競争激化

日本自動販売機工業会発表の2013年データによると、国内の飲料自販機の設置台数はおよそ259万3,000台。そのうち、缶コーヒーやジュースなどのいわゆる清涼飲料の自販機は221万7,100台で前年比101.7%。清涼飲料自販機の売上げは約1兆9,134億円あり、莫大な市場であるが、売上げの伸び自体は前年比100.6%と鈍化している。人口減少や消費税増税の影響で自販機での飲料販売は縮小傾向にあるといえるだろう。これ以上の大幅な増設も難しい状況となっており、1台ごとの売上げを増やしていくことが急務とされる状況なのだ。

飲料といえばコンビニやスーパーでの購入が一般的だが、リーチインに収容できる商品数は限られており、コンビニでは3ヶ月程度の週販が思わしくなければ、すぐに入れ替えの対象とされてしまう厳しい市場だ。せっかく3月からリーチインに導入されても、冷えた飲料の販売が動き始めるのは5月以降がほとんどであり、夏が来る前に退場を余儀なくされる商品も多い。また、スーパーでは値引き競争のあおりを受け、利益確保がしにくい状況である。

したがってスーパーやコンビニにおける飲料のこうした消耗戦に生き残れるのは、寡占化が進む大手企業だけになってきている。主力商品をもたない企業は依然、自販機の売上げに依存せざるを得ない。しかし自販機は販売価格を高めに維持でき、利益を取りやすいメリットもあるのだ。

今回のアサヒと大塚製薬の業務提供は、主力の商品ラインナップを同業者における業務提供という形で補っていく新たな手法としても注目されるところだ。

量から質へ、自販機マネジメント変革の時

すでにJT <2914> が9月をめどに飲料事業からの撤退を表明しており、同社が各地に設置している26万台ほどの自販機事業をどこが引き継いでいくのか、注目されている。自販機全体で221万台強の設置台数に対して、26万台といえば12%弱のシェアとなるため、引継いだ企業次第では、販売シェアを一転させる可能性もあるからだ。

いずれにしても、これまでのようなボリューム感で自販機の設置が進まない以上、他社の自販機を囲い込むのか、オペレーション効率を向上させ、1台1台の売上げを増やすことに注力するのか、各社模索が続くことは間違いない。自販機を増設せずに収益力をあげるためには、量から質へとシフトした自販機マネジメントが一層求められる。こうしたことから、市場環境の変化に伴う売上げの縮減を受け、さらなる業界再編もささやかれ始めている。

人口減少と高齢化による経済市場への影響はもう少し先といった印象がするが、リアルな消費財ビジネスでは、すでにその余波が出始めていることを示唆するマーケット状況だ。 (ZUU online 編集部)