アメリカではアップル(Apple)の新決済システムApple Pay(アップルペイ)が好調だという。Apple Payとは近距離無線通信(NFC)チップを搭載するiPhone 6、6 PlusおよびApple Watchで利用できる非接触型決済サービス。その使い方は簡単で、iPhone上でクレジットカードやデビットカードを選択して指紋認証を行い、店舗の決済端末にかざすか、ネットショップで決済を行うだけで支払いが完了する。

現在Apple Payが使える場所は全米で約70万ヶ所、対応する銀行は全米約7,000行あるうちの2,500行。対応する自動販売機は4万台あり、2015年末には10万台に増えるという。

利用者にも好評のようだ。小売分析のInfoscoutによると、実際にApple Payを使った人のうち「使いやすい」と答えたのが73.5%、「支払いが早い」が67.6%、「安全」が67.6%、「便利」が67.6%といずれも2/3以上が好意的な回答をしている。調査会社ITGによるとApple Payのリピーター率は60%。これは先行するオンライン決済システム・ペイパル(Paypal)の20%と比べて格段に多い。Apple Payは高い利便性を提供できているようだ。


日本の電子マネーが使えないApple Pay

Apple Payは現在アメリカでのみ利用できる。日本でのサービス開始が楽しみなところだが、Apple Payと日本の多くの電子マネーとは互換性がない。

日本の電子マネーにはソニー <6758> が開発したFeliCa(フェリカ)が多く用いられている。Apple PayもFeliCaもNFCという近距離無線通信のチップを搭載しているものの、Apple Payは『Type A/Type B』と呼ばれるセキュリティ仕様を用いており、FeliCaの『Type F』とは別のものなのだ。

ならばこれから日本で規格競争になるのかというと、すでにNFC関連チップのシェアでは大きな差が出ている。調査会社のABIによると、2012年のNFC関連チップのシェアのうち、74%はType Aを開発したメーカーの一つであるオランダのNXP Semiconductorsが握っており、iPhone6にも同社のチップが搭載されている。

一方、FeliCaを主導するソニーのシェアは5%に過ぎない。


ガラパゴスで繁栄を謳歌する日本の小売業

一方、日本ではFeliCaが広く普及している。日本銀行のレポートによると2012年6月に電子マネーの発行枚数は1億8,217万枚となり、前年比で15%増加している。決済金額も年々増加しており、2012年6月の月刊決済金額は1,981億円、件数は2億2,700万件になった。日本の電子マネーは規模も利便性も世界で突出し、独自の進化を遂げている。まさにガラパゴス状態だ。

これまで小売業が電子マネーを積極的に取り入れてきた理由は、利用者の利便性の他に、企業が詳細な顧客情報が得られることだ。この顧客情報は宝の山となる。

しかしApple Payではこの顧客情報を得るのは難しい。決済の際にやりとりされるのは、クレジットカードやデビットカードの情報ではなくDevice Account Numberという、それぞれの端末に割り当てられた番号だ。この番号には個人に属する性別も年齢も含まれていない。

つまり電子マネーを利用して強固な顧客関係管理(CRM)を築いて利益を上げてきた日本の小売業にとって、Apple Payは旨味が少ない。


ガラパゴスに閉じこもるか、それとも進化するか

とは言え、世界の決済サービスの流れにおいて、日本だけガラパゴスに閉じこもることができるかは疑問である。

上述の通りアメリカでApple Payは好評だ。また個人情報が危険に晒されるリスクも少ない。実店舗のみならずパソコンやスマートフォンで好きな時に、好きな場所で、好きな物を注文し受け取ることができるオムニチャネル型消費活動が活発化するなかで、このような快適で安全な決済手段を持つことは消費者にとって重要な要素になる。決済のたびにストレスを感じていては、進んで買い物をする気になれないだろう。

はたして、Apple Payという消費者にとってより優れた決済方法がある状況で、日本の小売業はこれまで築き上げてきた仕組みを変えようとするだろうか?

しばらくはガラパゴスで築き上げた仕組みで収益を上げ成長できるだろう。しかし、アップルのほかにグーグル、サムスンも決済サービスに乗り出してきている。これらの企業が日本独自の規格を用いることは、おそらくない。

じきに日本の小売業は、ガラパゴスに閉じこもり外からくる優れたイノベーションを締め出すか、それとも新しい姿に変化するかの選択を迫られることになるだろう。(ZUU online 編集部)

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