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(写真=PIXTA)

米経済が冬場の鈍化から回復しつつあり、市場は再びFOMCが9月にも利上げを開始すると予想し始めた。米利上げに伴い、新興国から米国への資金シフトが起きて新興国通貨は今後さらに下落する、と見る向きは依然として多い。

もっとも、2013年頃にこのテーマで取引が行われ始めてから既に2年程度経過し、サプライズの要素が弱まっている中で、米国市場の魅力もかつてほどではなくなっており、大量のマネーが更に新興国から米国に流れるとは想定し難い。

ひとたび米景気回復と利上げペースが小幅で非常に緩慢なものにとどまることが明確化すれば、これまでの大幅下落で割安感の出てきた新興国市場に再び資金が流入し、新興国通貨が特に対円で回復軌道に乗る可能性が高まっている。


2013年以降の暗い過去:内憂外患

まず新興国市場を見ると、確かに為替市場では、さかのぼれば米国の量的緩和縮小、いわゆるテーパリングへの懸念が高まった2013年半ば以降、ブラジルレアルやトルコリラを中心に新興国通貨が軒並み対ドルで下落し、同年初めから直近までで下落率は3割超となっている(図表1)。

米景気の回復期待を受けた米2年債利回りに代表されるドル金利の底入れ・持ち直しやそれに伴うドル高が一因だが、それだけでなく、新興国全般に見られた経済成長率の低迷、経常赤字体質、高インフレに加えて、主な新興国に固有の悪材料も寄与した。

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例えばブラジルでは昨年10月の大統領選で変化を求めた市場の期待に反して左派のルセフ大統領の続投が決まった。トルコでは、エルドアン大統領の独裁色が強まる中、インフレ率が中銀の目標上限を超えているにもかからず、総選挙を控えて中銀に対するあからさまな利下げ要求が行われたことが国際投資家からの信認低下につながった。

また、6月7日に行われた総選挙では、長期にわたり単独で政権を握ってきた与党公正発展党(AKP)が過半数を取れず、政局不安定化への懸念からトルコリラは更に大きく下落し対ドルで最安値を更新した。


新興国市場のパフォーマンスは悪いのか?

もっとも、ブラジルレアルは米利回りの上昇傾向継続にも拘らず、対ドルで今年3月に底をつけて反発し始めている。トルコリラは対ドルでは総選挙直後に最安値を更新したが、足元ではやや落ち着きをみせ、対円では4月の安値を下回っていない(図表2)。

株式市場では、MSCIの地域別指数を見ると(各国通貨建て)、中東欧や中南米の新興国株価指数は2013年以降、上下に振れつつも下落トレンドとはなっておらず、アジア指数に至っては米国対比ではアンダーパフォームしているが明確な上昇基調となっている(図表3)。

金利・債券市場では、インフレ抑制のための利上げなどから金利は上昇、ドル建て新興国債利回りの対米国債スプレッドは昨年末にかけて大幅に拡大したが、今年入り後の米国の利回り上昇局面ではむしろ縮小に転じている(図表4)。

全体として見れば、為替市場やドル建て債で米利上げを織り込む動きから新興国は売られてきたが、足許はむしろ落ち着いてきており、既に内外の悪材料を相当程度織り込んだ可能性が示唆される。

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米国市場は十分に魅力的か?

翻って米国市場を見ると、米連連邦準備理事会(FRB)公表のドルOITP指数(主に新興国通貨に対するドルの強さを示す指数)は最高値水準へ上昇しているが、今年3月の高値からは反落している。

米経済のアウトパフォーマンスに伴って新興国から流出した資金の主要な受け皿となるはずの米株式市場は、株価収益率(PER)などバリュエーション面で割高感があり、米経済指標の改善や米企業決算の予想比上振れにも拘らず、5月末以降軟化している。

米債券市場は、例えば10年債利回りは今年1月末に底をつけて上昇基調となっており、利回り面では確かに魅力が高まっているが、流動性低下の中でボラティリティが高まっており、必ずしも安全な投資先ではなくなっている。

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利上げで増加する見込みの預金金利収入を狙うにしても、米景気の回復スピードの緩慢さに応じて、利上げは小幅かつ数年間にわたる非常に緩慢なものとなるため、金利水準が5%を大きく超える新興国と比べて妙味は高くない。

今年は米国が世界経済をけん引するといっても、エンジンの力は昨年想定されていたほどには強くないようだ。すなわち、米景気が回復し利上げに向かうといっても、米国市場の魅力が非常に高いため新興国から怒涛のように資金が流入する、といった事態は想定し難くなってきている。


楽観シナリオの大前提

新興国市場に対するこうした楽観シナリオは現在は少数派かもしれない。また、この楽観論には多くの重要な前提条件がある。

米国については、今後景気回復が鮮明となる中で、利上げが行われるものの十分に市場が織り込んだ上で実施され、かつ2回目以降も急激な利上げとはならず、米国をはじめとする株式市場の大幅な調整(=リスクオフ)にはつながらない、という前提がある。

新興国サイドでも、ブラジルやトルコで悪材料が既に相当程度市場に織り込まれており、今後は悪材料が出てくる可能性が低下しているという認識がある。更に日本についても、主要な円安要因である2%インフレ目標達成とそのための異次元緩和継続姿勢が維持され、少なくとも円高政策が採用されないことも重要な前提条件となっている。

逆にこれらの前提条件が崩れると、新興国への資金再流入がスムーズなものとはならず、通貨の底固めが遅延することになる。但し、6月FOMC結果と市場の反応はこうした楽観論の支持要因といえる。

FOMCは9月前後の利上げ開始をほぼ確認した一方、先行きの利上げペースを従来より緩やかなものへ下方修正したが、これを受けてドルが下落した一方、レアル、リラ、ランドなどの新興国通貨は上昇した。FOMCが利上げ開始の可能性を明確にしても新興国通貨が上昇する可能性がある、ということが示されている。


リスク:ギリシャや日本政府がもたらす円ショート巻き戻し

楽観シナリオに対するリスク要因としては、1トルコの再選挙リスクやブラジル格下げリスクといった新興国側の要因のほか、2ギリシャの債務不履行からくるリスクオフ、および3黒田総裁発言にみられる本邦政府の円安牽制が円ショート巻き戻しに繋がるリスク、などが挙げられる。

潜在的には、米景気回復が加速する場合の利上げペース加速が新興国通貨への資金流入を妨げることになるため、リスク要因ではあるが、現時点では米景気の急加速リスクは低く、仮にそうなっても利上げペースも同様に急速になるリスクは低いとみられる。

山本雅文(やまもと・まさふみ)
マネックス証券 シニア・ストラテジスト

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