ヒューマンウェブ
(写真=株主手帳2015年6月号)

業態を大きく転換し、オイスターバー運営から小売業へと重心を移したヒューマンウェブ <3224> を率いる吉田琇則氏は、エンタメ業界から飲食業界へ飛び込んだチャレンジャーだ。牡蠣というニッチな市場でありながら、扱いの難しさゆえに担い手のいなかった卸売事業が市場から高い評価を得て新規上場に至っている。一業態に囚われず、広い経営視野で目指すは生産から販売まで自社で行う6次産業化だ。今回は多数の新事業を準備中の吉田社長に迫る。

吉田琇則(よしだ・ひでのり)社長
1967年4月2日生まれ。(現在48歳)岩手県盛岡市出身。
1990年3月日本大学工学部卒業。1990年4月ノヴァインターナショナル入社。1994年7月エイベックスグループ㈱ヴェルファーレ入社。1996年8月エイベックス㈱に移籍。2000年1月㈱ヴェルファーレ・エンターテイメント代表取締役社長。2000年4月㈱ヒューマンウェブ設立。代表取締役社長(現任)


ベンチャーの突破力

岩手県大槌町。東日本大震災で甚大な被害を受けたこの地に新たな復興のシンボルができる。同じ岩手県出身のベンチャー経営者が、地域経済の活性化と雇用創出のため開設予定の食品加工センターだ。稼動開始を前に「三陸の牡蠣産業の一助になれば」と意気込むのは、ヒューマンウェブを率いる吉田琇則社長だ。

同社は3月に新規株式上場を果たしたばかり。主力事業は飲食店の運営だ。生牡蠣と酒類の提供をメインにした「オイスターバー」を28店舗展開する。(2015年4月末時点)だがフードサービスの企業として上場した訳ではなく、上場区分が「小売業」に分類される通り、大きく業績が伸長している卸売事業こそが同社の核だといえる。

2015年3月期第3四半期連結業績の売上高は28億800万円。内オイスターバーの売り上げは25億700万円で約90%、卸売事業の売上高はセグメント間取引を除くと2億3700万円と10%程度だ。

しかし、通期での売上高及び経常利益は年約10%増という安定成長を続けている。そんな中卸売事業の売上高は2013年度で2億3000万円、これまで毎年前年比2倍と好調だ。現在の同社の供給能力では、卸売事業の売上高は20億円が上限だ。全国でアルコールを取り扱う飲食店は約1兆円(日本フードサービス協会調べ)あるが、その1%、100億円が当面の目標だという。

上場によって得られた資金は、新規店舗出店費用に使われる計画となっている。また、生産~販売まで自社での一元管理体制を目指しており、1次産業、2次産業、3次産業と一貫する言わば6次産業化である。そうなれば、同社を呼ぶには飲食業や小売業ではなく『牡蠣の専門商社』と呼ぶべきだろう。


未経験から始めた安全性確保への戦い

吉田氏は1967年岩手県盛岡市生まれ。日本大学工学部卒業後、在学中のアルバイト経験から有名ディスコを運営するノヴァインターナショナルに入社。その後エイベックスグループの大型クラブ立ち上げに参加、代表取締役も勤めた。親会社であるエイベックスの会長秘書等も経験した。

この時期におもむいた欧米でオイスターバーに興味を持ったことが起業のきっかけとなった。街中で小腹を満たそうと気軽に店に入っていく人々の姿を見たとき「日本にも生食の文化はあるのに、なぜ日本国内にオイスターバーがないのか」と疑問に思った。

「日本と欧米で決定的に違ったのは、牡蠣があたったときの責任の在処でした。海外では自己責任の風潮が強いのです。対して日本は提供した店、レストランや小売等が責任を負わなくてはけない、こんなリスクを犯してまで扱う必要は無いというのが日本での認識でした。しかし私は、リスクこそあれ誰もやっていない事業だからこそ成功の可能性があると思いました」

吉田氏は2000年にヒューマンウェブを起業、2001年に1号店を赤坂にオープンさせた。ビジネスモデルは欧米の形態をそのまま持っては来ず、「オイスターバー」文化を日本に根付かせようと試行錯誤した。始めの5~6年は直営店を増やす事に注力した。関東圏を中心に新店舗やブランドを出店した。