(写真=PIXTA)
示された新3本の矢
9月24日、安倍首相は、アベノミクスの第2段階となる新3本の矢を示した。安倍首相は「一億総活躍」社会を目指し、少子高齢化に歯止めをかけ、50年後も人口1億人を維持することを目標に掲げた。
3本の矢として①希望を生み出す強い経済、②夢を紡ぐ子育て支援、③安心につながる社会保障を示した。数値目標として①に「GDP600兆円」、②に「希望出生率1.8の実現」、そして③には「介護離職ゼロ」を掲げている。
旧3本の矢は①に集約され、今回は特に②「子育て」と③「介護」を矢として前面に押し出している。ただ、実現に向けた道筋が示されなかったのに加え、②と③については実現に時間がかかるため、金融市場からの反応はいまひとつだったかもしれない。しかし、実現できれば中長期的に日本経済の潜在成長率を引き上げることが可能である。
社会保障改革や労働市場改革など、痛みを伴う改革も避けては通れない
実現に向けた道筋はこれから示されるだろうが、新たに示された②と③を実現し「一億総活躍」社会を目指すには、社会保障改革や労働市場改革など痛みを伴う改革も避けては通れない。今後、②と③に対する具体策として、保育所の無償化や待機児童対策の拡充、介護職員の待遇改善などが示されると予想される。
ただし、それら支援拡充策には財源が必要となる。国際公約にもなっている財政再建を掲げる中で、思い切った手を打つには政策経費の制約となっている社会保障制度の改革に着手する必要がある。そもそも一体改革では社会保障の重点化や消費増税による安定財源確保に主眼が置かれており、社会保障費そのものを抑制(給付範囲・利用者負担の見直し)する改革は不十分なままだ。
また、支援策の拡充だけでなく仕事と子育て・介護の両立がしやすい環境作りも必要だ。既に20年以上前から「雇用者の夫婦共働き世帯」は「専業主婦世帯(*1)」より多い状況だ。それでもなお、「夫が外で働き、妻が家を守る」という旧来の雇用慣行のもとで築かれた制度と慣行が残っており、その一つが長時間労働だ。このため、子育てや介護といった仕事以外の時間制約がある労働者は働きにくい雇用環境が続いている。
働き方の改革により長時間労働を是正し、共働き世帯・単身世帯でも仕事と子育て・介護が両立しやすい環境を整える必要がある。子育て世帯において夫婦が家事・子育てを分担できれば、出生率は大幅に改善する可能性がある。実際、夫が家事や子育てへの参画時間が4時間を越えると、妻の出産前後の同一就業継続率や第2子以降の出生割合が7割を超えるというデータもある(図表)。
近年では、官民あげての働き方の改革を意識した様々な取組みは行われている。ただし、仕事と子育て・介護の両立がしやすいという観点からは、職種によっては時間で賃金を払う労働法制が阻害要因になっている。柔軟な働き方ができるように裁量労働制や高度プロフェッショナル制度(*2)の適用範囲拡大などを進めていくべきある。
今回のアベノミクス3本の矢は、「子育て」「介護」といった家計に身近なテーマを掲げている。有権者を意識しているかどうかはわからないが、3本の矢として重点を置いて着手するのであれば、痛みを伴う改革は避けては通れない。小手先の支援拡充措置とならぬかどうか今後の実現に向けた具体策の提示が待たれる。
(*1)厳密には「男性雇用者と無職の妻からなる世帯」
(*2)職務の範囲が明確で一定の年収要件(少なくとも1,000万円以上)を満たす労働者が、高度な専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、健康確保措置等を講じること、本人の同意や委員会の決議などを要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。(厚生労働省「労働基準法等の一部を改正する法律案の概要」より)
薮内哲
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
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