◇フィリピン

フィリピンはマルコス大統領の開発独裁下、1970年代から輸出指向工業化を進めたが、1984年の債務危機で頓挫した。他のASEAN諸国への投資が拡大する一方、同国への投資は停滞した。

1990年代は積極的な外資誘致策を打ち出したことで電機産業を中心に企業が進出し始め、電気機械や精密機器、一般機械など一部の産業で競争力が大きく上昇した。一方、それまでの主要輸出産業であった繊維製品やパルプ・紙・木製品などをはじめ幅広い産業で競争力が低下した。

2000年代以降はITバブルの崩壊に伴う電機関連の製品価格の低下や先進国の需要鈍化の悪影響を受けたものの、2012年以降は賃金上昇率の低さや英語人材の確保の容易さから「チャイナ・プラスワン」の候補としての評価が高まっており、投資が拡大した電機関連の競争力はRCA、TSI共に対象6カ国中では最も高い水準にある。

今後、政府は電子部品や自動車など既存の製造業を強化しつつ、ガラス、電力機器などの新興産業の育成を進める方針である。また当面はチャイナ・プラスワンとしての投資が進むと見られ、電気・電子産業の競争力は上昇していくと思われる。

なお同国の場合、これまでの経済成長の牽引役は海外送金や英語力を生かしたコールセンターをはじめとするBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)産業であり、中国やタイなどのように製造業主導の輸出指向型成長を遂げてきた訳ではない。

従って、本稿における財の貿易に限定した国際競争力の議論は、同国の経済成長との関係が薄い点には注意を払う必要があるが、人口の自然増が続いて失業率が高水準にあることから雇用の受け皿として製造業の振興が重要であることには違いはない。

ASEAN 貿易 図12-13

◇ベトナム

ベトナムは、1986年にドイモイ(刷新)政策の導入を決めて市場経済化をスタートしたが、実際に海外の投資が流入し始めたのは米国がベトナムへの禁輸措置を解除した1994年頃からである。

1980・90年代においては、同国の安価な労働力を利用した繊維製品と雑貨・玩具など軽工業のRCA、TSIがそれぞれ上昇した一方、それまで主力の輸出産業であった食料品とパルプ・紙・木製品のRCA、TSIは相対的に低下する結果となった。

2000年代以降は、ACFTAの発効によって中国と地理的に近く、依然として安価な労働力が魅力となってベトナムへの投資が拡大した結果、電気機械を中心に技術集約型産業の競争力が大きく上昇した。また繊維製品と雑貨・玩具の競争力も引き続き上昇しており、特に繊維製品のRCAは他の国内産業やASEAN6カ国に対して最も高い水準にある。一方、石油・石炭製品や鉄鋼・非鉄金属などの資源関連の競争力は低下傾向が続いている。

同国はチャイナ・プラスワンやTPP加盟を見越し、国内外から投資が流入している。当面、軽工業の競争力は高水準を維持し、電気機械や一般機械など技術集約型産業も育つと見られるが、産業集積が形成されるなかで地場企業への技術移転が進むかどうかは高成長の持続性に関わるポイントだ。

ASEAN 貿易 図14-15