加藤暠

(写真=PIXTA)

ついに「兜町の風雲児」が司直の手に落ちた。1970年代から数々の相場を手掛けた仕手集団の元代表、加藤暠(あきら)容疑者を、東京地検特捜部が17日に金融商品取引法違反(相場操縦)の疑いで逮捕した。もっとも、翌18日の株式市場は、加藤の過去の逮捕劇で陥ったような混乱には至らなかった。むしろ、何事もなく進行する取引を横目に、改めて時代の変化を実感する投資家もいたようだ。

「誠備ショック」――。古参の読者なら聞き覚えがあるかもしれない。加藤が最初に脱税の容疑で逮捕された81年2月、当時率いていた投資顧問会社「誠備」の影響力が及ぶ銘柄に売り物が殺到。余波は広がり、一時は東京市場が全面安となる事態に発展した。

まだインターネットが普及していない時代。顧客の豊富な資金を後ろ盾にする「仕手筋」は、ある意味最強の買い主体だっただけに、"本尊逮捕"のショックの大きさは想像に難くない。しかし、バブル崩壊と、その後登場したヘッジファンドやデイトレーダーの勢いに押され、仕手筋の存在感は急速に低下していく。

そうした中、加藤がみせた起死回生の動きが、今回の逮捕にもつながった「般若の会」設立だ。2011年を起点に、ファクスや同会のホームページ(HP)「時々の鐘の音」を通じ新日本理化 <4406> 、日本カーバイド工業 <4064> 、明和産業 <8103> 、ルック <8029> を断続的に推奨。特に新日理化は当初の200円台から、半年足らずで1297円に値上がりする暴騰を演じた。

「加藤復活に市場は沸いた」。ある市場関係者は振り返る。実際、「時々~」のHPには一時期アクセスが集中し、更新のチェックはマーケットの日課となった。だがその力には限界があった。神通力は急速に薄れ、中途半端に株価が上昇した推奨銘柄は逆に容赦のない売りを浴びる始末。そこにかつてほどの勢いはなかった。

「誠備ショック」は隔世の感

伝説的人物とはいえ、もはや時代にそぐわなかったということだろう。例え当局が動かなかったとしても、再びその名をとどろかせる機会が訪れたかは疑問だ。18日、加藤が相場操縦をしていたとされる新日理化の株価がわずかばかり値下がりした。失脚のインパクトもまたしかり。宮地鉄工所(現・宮地エンジニアリンググループ <3431> )など幾つもの関連株が一斉に急落した81年当時を思うと、隔世の感を禁じ得ない。(11月20日株式新聞掲載記事)

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