(写真=PIXTA)

経営再建中のシャープが全社員を対象に、自社製品の購入を呼び掛ける運動を始めると報じられた。取締役や執行役員は20万円、管理職は10万円、一般社員は5万円と役職に応じて目標金額を設定し、売り上げ増を目指すのだという。「目標」とはしているが、会社側がどの社員がいくら購入したか把握する以上、従業員にしてみれば「ノルマ」と感じるはずだ。

こうした自社製品の買い取り義務は、アパレルでも珍しくない。シーズンごとに商品が入れ替わることは家電と同じかもしれないが、アパレルは点数も多い。会社ぐるみではなく店長からの指示かもしれないが、在庫の買い取りを強いられている店員の声は小さくない。

こうした自社製品の買い取り強要は、違法ではないのだろうか?


ノルマ不達の購入義務付けは「違約金」や「損害賠償」と同じ

結論からいえば、自社製品購入呼び掛けが“強制”だとすれば違法になる。

労働基準法16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償を予定する契約をしてはならない」と規定している(賠償予定の禁止)。このため、企業が、ノルマを達成できない社員に違約金の支払いを義務付けたり、当該社員の給料から損害賠償相当額を差し引いたりすることは、この規定に違反することになる。

ノルマが達成できなかった場合に社員に購入を義務付けることも、実質的に違約金を定めたり損害賠償を予定したりするのと同じ効果を生じることから、やはりこの規定に違反することになる。

このような民事的な効果とは別に、刑事的な効果として、そのような取り決めを行った経営者は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金となる可能性があるし(同法119条1号)、企業自体も30万円以下の罰金となる可能性がある(同法121条1項)。


自社製品の現物支給と同じ効果になるため違反

次に労働基準法24条1項本文は、原則として、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と規定している。

このため、社員がノルマを達成できなかった場合に購入を義務付けることは、企業が賃金の一部を現金ではなく自社製品という現物で支給することと同じ効果を生じることから、「通貨で」という点と「全額を」という点に違反する。

そのような取り決めは民事上無効となるだけでなく、刑事上も、経営者は30万円以下の罰金となる可能性があるし(同法120条1号)、企業自体も30万円以下の罰金となる可能性がある(同法121条1項)。


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