広告やグラフィック、プロダクトなどの業種での代表的な職種であるデザイナー。現在世界で最も多くのデザイナーを抱えている企業はどこかご存じだろうか? それは広告代理店でもデザインエージェンシーでもない。正解はIBMだ。IBMは今や世界有数のデザインカンパニーといえる。

一方、日本の広告代理店の最大手であり世界有数の規模を誇る電通は、広告ビジネスから経営コンサルティングにビジネス領域を拡大しようとしている。

IBMは世界最大級のデジタル・エージェンシー?

1億ドルを投資して2014年に米国で発足したIBMインタラクティブ・エクスペリエンス(IBMiX)は、1000人規模のデザイナーを抱える世界最大級のデジタル・エージェンシーを標ぼうしている。これほどのデザイナーを自社で採用している広告代理店やデザインオフィスは他にはない。

その業務は従来のコンサルティングやシステム構築の先にある、クリエイティブ、デザイン、デジタル、コマース、モバイル、ウェアラブル・プラットフォームなど多岐にわたり、それらの戦略立案から表現、統合システム開発までを手がける。

IBMが抱える人材の職種は幅広く、従来のコンサルティングに携わる戦略コンサルタントや組織変革プロジェクトマネージャー、情報アーキテクトはもちろん、人間工学の専門家、マーケティングオートメーションのエキスパート、UIデザイナー、グラフィックデザイナーなど様々だ。IBMはビジネスの軸足を大型汎用コンピュータなどのハードからソフト、さらには経営コンサルティングに移行させて久しいが、その先の「デザイン」の領域へビジネスを展開しようとしている。

他の経営コンサルティングファームも「デザイン」を武器として取り込む動きを見せている。2013年には世界最大の経営コンサルティングファームのアクセンチュアが、デジタルデザインコンサルタントのFjordを買収している。業界の雄、マッキンゼー&カンパニーは2015年、シリコンバレーで最も歴史のあるデザインコンサルタントのひとつであるLunarを買収した。

電通が経営コンサルティングに本腰

広告最大手の電通が本格的に経営コンサルティングに進出していることはあまり知られていない。

2006年にはすでにグループ内に電通コンサルティングを設立していたが、2010年に本社内に電通マネジメント・インスティテュートを設立し、経営論、組織・人材論、グローバリゼーション、ロジカルシンキング、アカウンティング、ファイナンス、投資・M&Aなどを幹部社員に学ぶ環境を整えている。一橋大学大学院国際企業戦略研究科と提携し、講師に野中郁次郎教授や楠木建教授を招へいするなど、その内容は本格的だ。

5年間で約200人の経営の人材ベースを作ることを目指している。また5年間で500人の現場社員に経営に関する知識、スキル、ノウハウを習得させるために電通マネジメント塾を開講している。

これまでも広告代理店にはマーケティング機能は備わっていたが、それはあくまでもコミュニケーションやセールスプロモーションの分野に限られたものだった。だがデジタルメディアの台頭などによって、従来型の広告ビジネスモデルは転換を迫られている。マスメディアの扱いや広告クリエイティブだけでは成長の余地は大きくない。

特に広告最大手の電通の危機感は半端ではなく、広告だけに留まらず、経営戦略、事業戦略、商品開発、製造・生産、チャネル開発、アフターマーケティングなど、クライアントのバリューチェーンの川上から川下までを一貫して手掛けることで利益を確保しようとしている。そのためには経営に関する知識、スキル、ノウハウを習得した人材を現場の第一線に配置しておく必要があり、幹部研修と組織の体制を整えている。

その成果は未知数だが、製品やサービスの顧客価値を目に見える形で表現するエキスパートである広告代理店には、消費者をよく理解し、消費者の行動を促すことに長けている。電通はその点を突破口に経営コンサルティングのビジネスへ挑戦し始めている。

新たな「デザイン」の概念とは?

「デザイン」という言葉には大きく2つの意味がある。狭義ではグラフィックデザインやプロダクトデザイン、Webデザインなど、形を定めたり色を塗ったりといった造形に関する作業や作品を指す。

だが広義の「デザイン」は、ビジネスモデルづくりから顧客価値の決定、製品・サービス・販売チャネル開発など、ビジネス全体のプロセスを「設計」したり、ビジネス上の課題を明らかにし解決策を導く「課題解決プロセス」のことを指す。このプロセスを進める上では、関連する要素を俯瞰し、抽象的なアイデアから具体策をアウトプットすることが必要だ。

そこでは、製品やサービス、コンテンツが顧客の期待どおりに機能し、新しい価値を提供することを目指す。

そしてそれらは、言葉や見た目の造形デザインなどによって表現されることで具現化され、誰にでも認識できることが必要だ。すなわち、課題を解決するためにプロセスを構築し、最終的なアウトプットを表現すろことが「デザイン」なのだ。「デザイン」はいまや、ビジネスをリードするために取り組むべき経営課題である。

目指すは最良のカスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)

いまやテクノロジーは十分に成熟しており、性能の高い製品やサービスを提供するだけでは差別化はおろか顧客からの支持も集めにくくなっている。

ビジネスで最も重要な成功要因はカスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)である。そのためには高い製品やサービスのクオリティを高めることはもちろんのこと、製品やサービスの開発から最終的な顧客接点での表現に至るまでのプロセス全体をデザイン(設計)し、最良のカスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)を実現すること、表現することがますます重要になっている。

そのために各社とも、従来とは異なる職種の人材を集めることに躍起になっており、互いの知識や才能をぶつけ合うチームを編成することで新たな価値を創造することに取り組んでいる。これからの経営コンサルティングファームに求められる人材はデザイナーやクリエイティブディレクターであり、広告代理店に求められるのはストラテジスト、エンジニア、データサイエンティストなどだ。

これからは競合?融合?

より先進的な企業はカスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)を創造するための「デザイン」を重視し始めている。その要望に応え、また新たなビジネスを獲るために、経営コンサルティングファームと広告代理店、互いのパワーを取り込むためにさらなる提携や買収が起こる可能性は十分にある。自社の強みをベースにビジネス領域を拡大するために互いの方向からアプローチして競合することはこれからの時代の自然な流れだ。境界線はやがて消えて、両者の住み分けや区別は意味をなさなくなるだろう。(ZUU online 編集部)