地方銀行(以下、地銀)が窮地に追い込まれている。菅義偉首相が「地銀の数が多すぎる」と発言。実際に政府・日銀は地銀を追い込んでいる。これによって地銀再編は実際に起きるのか。そして低位を推移している地銀株は“買い”なのか考察してみた。

政府に追い込まれる地方の銀行

(画像=PIXTA)

自民党総裁選のさなかの9月2日。候補者の1人で、その後首相になる菅義偉氏は、異次元緩和の副作用への対応について聞かれ、「地方の銀行について、将来的には数が多すぎるのではないか」と発言。翌3日、今度は記者会見でさらに踏み込み「再編も一つの選択肢になる」と語った。これら一連の地銀に対する発言に、地銀関係者は震え上がった。

そして菅政権が誕生した11月に入ると、今度は政府・日銀が政策面で援護射撃を始める。

11月10日、日銀が突然、「地域金融強化のための特別当座預金制度」を発表。これは日銀と取引のある地銀と信用金庫を対象に、経費削減や経営統合に取り組むことを条件にして、日銀への当座預金に0.1%の金利を上乗せするというもの。これは、条件付きながら「マイナス金利政策」の実質的な転換を意味するだけに、インパクトが大きかった。

具体的な条件としては下記の通りである。

(1)経費を業務粗利益で割ったOHR(経費率)の改善率を19年度から22年度までに段階的に4%以上にする
(2)経費の改善額を19年度から22年度までに段階的に6%以上にする
(3)23年3月末までに合併や連結子会社化などの経営統合を決定する。

これら3つのうち1つを満たした場合、金利が付与され実質的に「マイナス金利政策」から外れるのだ。この条件を見れば明らかなとおり、日銀は地銀の経営課題である経費削減や、地銀の再編を促しているというわけだ。

それから2日後の12日。今度は政府が、地銀や信金の経営統合や合併に対し、システム統合費用などの一部を補助する交付金制度を創設する方針を固めたことが報じられる。統合規模にもよるがシステム統合の費用は大きく、統合に踏み切れない大きなハードルともいわれている。そのうちの30億円程度について補助することで地銀を再編させようという思惑だ。

まさに菅首相の意を受け、政府、日銀が一丸となって地銀再編を強烈に推進しようとの構図だが、実はこれより前にも「1の矢」「2の矢」が放たれていた。

「第1の矢」は、同一県内の地銀同士の経営統合を認める独占禁止法の特例法の制定。貸出シェアが高まるため、これまで独禁法で禁じられていた同一県内で経営統合をを認めるというものだ。そして「第2の矢」が、公的資金を注入しやすくするため「経営者の責任を問わない」「返済期限を設けない」など条件を緩和した金融機能強化法の改正だ。つまり、現在の地銀は合計4つもの矢を放たれて外堀を埋められ、再編へと追い込まれているのだ。

地方銀行の再編が進まない理由とは

もちろん、これまで地銀の再編が全くなかったかといわれればそうではない。特に、森信親元金融庁長官の時代には、具体的な財務データを用いて苦しい銀行をあぶり出し、再編を迫った。その結果、大手地銀が中心となってフィナンシャルグループを設立。その下に各地銀がぶら下がるというタイプの経営統合はかなり進んだ。

しかし、この40年間で規模が小さな第二地銀は71行から37行まで減っているものの、規模が大きい第一地銀63〜64行で大きな変化はない。金融当局が再編を呼び掛けてきたにもかかわらず、長きにわたってこのような状況が続いている。

金融当局が再編を迫るのには理由がある。大きい地銀から小さい地銀に至るまですべての地銀が、個人向けサービスから法人への融資までを扱う「フルバンキング」を手掛けるからだ。これによって、効率が悪くなり儲けが出なくなるのだ。

システムを始め、店舗やATMなどは開発や維持に莫大な費用がかかり、マイナス金利で利益が稼げないため、かなりの重荷となっていた。中には、経費率が100%を超える異常な地銀まで存在するほど。そのため、近隣の地銀と経営統合してシステムを共同化、重複するエリアの店舗を統廃合して削減を図れというわけだ。言い換えると、ビジネスモデルを転換して「稼げる銀行になれ」というメッセージとも受け取れる。とにかく銀行が破綻してしまえば金融システム不安が起きてしまう。それだけはなんとか避けたいというわけだ。

しかし、地銀は地元の“名士”。プライドも高く、日頃しのぎを削っているライバル行の軍門に降るのを嫌がった。顧客もリスク分散の観点から複数の地銀と付き合っており、統合して1つになるのを嫌がるといった事情もあった。だが最大の理由は、「自分の時代に銀行の名前が消えるのだけは避けたい」と考えるトップに決断力がなかったことだ。

地方銀行の株は本当に“買い”なのか?

とはいえ前述した「4つの矢」を受けた地銀幹部は、「菅首相は本気だし、忖度した政府・日銀も今が好機と捉えて本気で攻めてくるだろう。今すぐというわけにはいかないが、再編を生き残り策の選択肢の1つとして検討課題に載せると思う」と語る。確かに人口減少に伴う地元経済の縮小に加え、新型コロナウイルスの影響も加わり、さすがにこのままでは生き残れないと考える地銀が増えるのは必至。その結果、時間はかかるものの、再編は進まざるを得ないだろう。

では、地銀株はどうなるのだろうか。