特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。

株式会社JMは、2000年に準大手ゼネコン、前田建設工業株式会社の社内ベンチャーとしてスタートした。当時は政治資金と建設業界が絡んだ汚職事件が世間を賑わしており、新しい会社にはこれまでの業界を変える新しいビジネスモデルが必要だった。「ゼネコンのように大きなものばかりを追わず、小さなものを扱おう」。このような考えから生まれたのが、施設設備の小口メンテナンス事業だ。2001年には小売店舗や個人向けのメンテナンスサービス「なおしや又兵衛」をリリース。2007年には株式会社JMを設立し、前田建設から完全に独立した。現在では社員数1,300名、売上高300億円を超える企業となった株式会社JM。コロナ禍の経営戦略をトップに聞いた。

(取材・執筆・構成=長田小猛)

(画像=株式会社JM)
大竹 弘孝(おおたけ・ひろたか)
株式会社JM代表取締役社長
1956年東京都生まれ。名古屋工業大学卒。
大学卒業後、1980年に前田建設工業株式会社入社。ダム建設の施工管理業務を経て、総合企画部へ異動。総合企画部長であった2000年に新しいビジネスモデルで社内ベンチャーを立ちあげた。ゼネコン汚職事件を反面教師として始めた施設設備の小口メンテナンス事業は、セブンイレブンなどと提携することにより順調に成長。2007年には株式会社JMを設立し、事業を拡大。売上高300億円を超える企業に育てあげた。

大きなものばかりを追わず、小さなものを扱おう

――2000年の社内ベンチャー立ちあげ後、なおしや又兵衛、JMを設立されますが、その経緯をお聞かせ願えますか?

1993年から1994年頃にかけては、いわゆるゼネコン汚職事件が世間を賑わしていました。建設業界は世間の皆様から、かなりお叱りを受けました。私は1998年にそれまで所属していたダム建設の部門から総合企画部へと異動し、その2年後に社内ベンチャーを立ちあげる機会を得ます。ここで私は、業界の体質を変える必要があると思いました。ゼネコンのように大きな案件ばかりを追うのではなく、小さいものを積極的に扱ってはどうか? 新築ばかりではなく、古い設備をメンテナンスする事業を専門でやったらどうなるか? と考えました。そこで2001年に、小売店舗や個人向けのメンテナンスサービス「なおしや又兵衛」を開始したのです。

ただし1件5〜10万円の商売であるメンテナンス事業は、当時社内からかなり叩かれました。ほかの部署は億単位の仕事をしていますからね。ちなみに「なおしや又兵衛」の又兵衛は、前田建設工業の創業者(前田又兵衛)から取りました。社内の逆風を少しでもやわらげたかったので(笑)。

ですが幸いなことに私たちは、ベンチャーの立ちあげとほぼ同時にセブン-イレブン・ジャパン様と提携することができました。当時全国に9,000ほどあった店舗に、建物診断サービスを実施できたのです。これを機にメンテナンス事業が軌道に乗り始め、2002年に株式会社なおしや又兵衛を、2007年には株式会社JMを設立して前田建設工業から独立できました。

――その後、メンテナンス事業は大きく伸びていきます。

セブン-イレブン様をはじめ、日産様、出光昭和シェル様、マクドナルド様など、多くの企業と提携できたのが事業拡大の大きな要因です。今では提携企業が30社以上となり、商業施設78,000箇所、公共公益施設13,000箇所、住宅91,000戸が私たちのお客様です。

2009年には売上100億を突破、2011年には200億を、2018年には300億円を突破できました。売り上げ構成は保守メンテナンスが60%、予防保全・計画工事が20%、改装やエネルギー工事と設計、マネジメントが残り20%となっています。

そしてもう一つ、メンテナンス事業を大きく伸ばす“エンジン”となってくれたのが、全国に点在しているお客様の施設や住宅へ、迅速に確かな技術を提供するJMフランチャイズネットワークです。

――全国の工務店と契約するJMフランチャイズについてお聞かせください。

JMフランチャイズは2012年にスタートさせた仕組みです。各地域の工務店とフランチャイズ契約を結び、当社独自のITシステムと組み合わせることで日本全国の設備資産を保守・メンテナンスする全国ネットワークを作りました。協力会社は2,500社以上、私たちのサービスセンターで注文を受け、サテライトと呼ぶ工務店や職人さんに仕事を依頼します。代金の回収やITツールの提供などは我々の担当です。

JMフランチャイズの仕組み(画像=株式会社JM)

――ITツールも提供するのですか?

はい。当社はコンビニエンスストアなど、24時間営業の店舗を持つお客様と取引しています。つまり24時間365日、さまざまな場所へメンテナンスに向かうのです。例えば夜中のメンテナンスであれば、立会者や工事完了の確認者もおりません。このような場合には、IT機器を使ってエビデンスを保存しておく必要があります。当社では業務の効率化や生産性向上を図るITツールを、自社で開発・運用しています。点検から作業の完了報告ができる「Matabee-iReporter」や、スマホの写真から3D図面を作ってしまう「Matabee-INSIDE」などです。デジタル変革のためのプラットフォームとも言えますね。当社はこれからも、「職人とIT」にこだわっていくつもりです。

ネットでメンテナンスを買える時代に

――主力事業のほかにも多くの事業を手掛けられています。

近年力を入れているのが、ライフサイクルマネジメント事業とエネルギーマネジメント事業、地域創生事業です。

ライフサイクルマネジメントとは、データによる建物の管理です。VR、AR、IoT、AIといった技術を使い、建築計画やデザイン、施工や保守メンテナンスを効率化していきます。例えばメンテナンスをしていると、他社さんが作った建物の問題点がわかったりするのです。そのデータを次の新築時に3Dデータとしてお渡しし、ご理解をいただいて設計に反映してもらう。これを進めるとメンテナンスフリーが実現でき、コスト低減が可能になるのです。当社は仕事が減ってしまいますが、お客様には喜んでいただけます(笑)。

エネルギーマネジメント事業は、2011年の東日本大震災が契機となって始めた事業です。あの震災は、エネルギーの考え方に大きな変化を起こしました。この事業では太陽光パネルの設置サービスや、日産様と連携したEV充電設備の設置サービスを行い、スマートライフの実現とクリーンエネルギーの普及を目指しています。

地域創生事業は地方自治体や地元のビジネスパートナーと連携して、地域活性化の取り組みを積極的に行っていきます。国や地方も財政が悪化し、新規建築が少ないのが現実です。ここでもやはりメンテナンスが重要で、これも地域創生事業につながります。この事業では、点を面に、そしてエリアに広げていこうと考えています。例えばセブン-イレブン様の店舗にメンテナンスで向かえば、その隣には出光様のガソリンスタンドがあるかもしれない。そして近くには、マクドナルド様や小学校や病院、公民館もあるでしょう。点から面、エリアと考え方を広げていけば、包括的な公共施設の管理につながります。これは地方自治体と相談しながら進めていきたいです。

――コロナ禍は事業の拡大にどのような影響を及ぼしましたか?

売上面では確かに影響があります。提携先の企業や店舗によって状況は違いますが、行動が制限されていますからね。当社としては、メンテナンスに向かう職人さんの感染防止策に一番気を使っています。もちろんこれはお客様のためでもあり、コロナ後にジャンプアップするためでもあります。

提携先の企業は各社それぞれ、すでにコロナ後の事業拡大を考え始めています。そして、そうそうたる提携企業の中心に当社がいます。「職人とIT」を大事にすれば、コロナ後も業績は伸びていくと信じています。

――今後はどのように事業を発展させていきたいとお考えですか?

現在はBtoBが主ですが、今後はBtoG(Government:政府や地方公共団体などの行政府)も強化していきたい。地域創生事業がこれに当たります。そしていずれはBtoC。政府にEV普及に舵をきっていただいたので個人の住宅にEV充電器の設置が増大しています。今後は、このような充電器も、ネットで購入できるような時代にしたい。まるで通販で物を買うように、ネットでメンテナンスを買える時代に。私たちは、地域を見守り、人の暮らしに寄り添い、ずっと住み続けられるコミュニティを実現したいのです。