特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。

終戦直後に尼崎市で創業し、昭和36年に法人設立をした山口電気工事株式会社。関西電力の元請け業者として発電所や変電所の電力工事を長年にわたって行う一方、再生可能エネルギー事業、電設工事事業の新たな立ち上げも行っている。会社の着実な発展は、現場で働く「人」を大切にするため直営体制をとってきたことが大きい。新型コロナ拡大下の逆風はあるものの、時代の流れを確実に見据え、高いビジョンと目標を掲げながら、さらなる発展をめざしている。

(取材・執筆・構成=高野俊一)

(画像=山口電気工事株式会社)
山口 寛(やまぐち・ひろし)
山口電気工事株式会社 代表取締役
1977年兵庫県生まれ。
大学卒業後に電気工事会社に入社。その経験を生かして2009年、家業の山口電気工事会社に入社。2014年に専務取締役に就任、そして2018年に、創業家2代目社長である父親・節夫さんの後を継ぎ、代表取締役に就任 した

「ピラミッド型」の組織を構築

――山口電気工事株式会社の創業から、現在に至るまでの変遷をお聞かせください。

昭和21年に、まず祖父が鹿児島から出てきて、その後兄弟を呼び寄せ、尼崎市で山口電気商会を立ち上げました。昭和36年には山口電気工事株式会社を設立しています。祖父に感謝しているのは「よくぞ電力会社の仕事に入り込んだな」ということです。電気工事会社は全国に3万社以上あります。それらの会社のほとんどは、建物やビル、住宅などの電気工事を行います。それに対して当社の強みは、関西電力から元請け業者として、直接仕事を受注していることです。設立後、高度経済成長の波に乗り、会社は発展してきました。ただし利益重視というよりも、電力のライフラインを守ることを重視し、保守的・堅実に仕事をしています。

平成9年に父が2代目として代表になりました。それから23年間、社内統制を確立するなど事業基盤をしっかりと固めたのが父の役割だったと思っています。事業を広く拡大するというわけではなく、20人ほどの社員でずっとやってきています。電鉄系の電気工事会社に勤務していた私が入社したのは2009年で、その後2018年に3代目として代表に就任しました。

――3代目代表として、どのようなことを意識していますか?

組織を「文鎮型」から「ピラミッド型」へ変えることです。入社して、「この会社はもっと伸ばせる」と思いました。長年培われた技術や知識・ノウハウが、私から見て「非常に高度」と思えたからです。電気工事会社の社員が、溶接や土木などをこなすことは少ないです。「こんな電気屋はほかにいないな」と思いました。ところが、それだけの技術がありながら、「社長の指示がないと動けない」と私には見えました。そこで、社長が一人で指示を出す「文鎮型」から、縦型の構造を持つ「ピラミッド型」へと組織を変え、事業を発展させることが私の役割だと思いました。

具体的には、それまであった役職は「名ばかり役職」といえるもので、役割が規定されていませんでした。そこで2016年、3人のベテランを抜擢し「幹部」を作りました。次に、その下に「リーダー」を選出し、「チーム」のマネジメントを任せました。そのようにして、ピラミッド型の組織構造を徐々に作っているところです。

(画像=山口電気工事株式会社)

現場の人を大切にする直営体制

――御社の事業は電力工事部、再生可能エネルギー事業部、および電設工事部の3部門ですが、それぞれの事業内容について教えてください。

電力工事部は関西電力の発電所・変電所で機器の交換工事を行っています。再生可能エネルギー事業部は、太陽光発電や風力発電に関する工事を行うとともに、将来的には当社が発電事業者となることも考えていきたいと思っています。電設工事部は一般電気工事を行い、大手ゼネコンと組んで建物を作っていく仕事です。再生可能エネルギー事業部と電設工事部は、私が立ち上げました。私の前職が電設工事であったため、電設工事部をまず立ち上げ、2019年に再生可能エネルギー事業部を立ち上げました。

――御社の特長や強みはどのようなところになりますか?

まず電力事業部の強みは、これは祖父の時代からですが、直営体制であることです。建設業・製造業は下請け業者を使って仕事をすることがほとんどです。しかし当社では、ある現場の監督は別の現場では、ペンチとドライバーを持って走り回ります。関西電力の元請けであること、およびこの直営体制により、電力事業部の利益率は圧倒的に高いです。また、下請けに仕事を出せばコミュニケーション不足などにより、事故が起こる可能性がどうしても高まります。電力事業は社会の基幹インフラ整備ですから「守るべきもの」であり、一貫して自社でやることにより確度も高まります。

私はその強みを肌で感じていますので、再生可能エネルギー事業および電設工事についても、いずれは直営体制を作っていきたいと思っています。もちろん、直営体制は人を抱えるため固定費が膨らみます。しかし、これからの時代は「人が財産」であり、安易に外注するのではなく、自社ですべてを完結させていくことが重要だと考えています。実際に手を動かし、汗水たらしているのは現場の人間です。現場の人間を大切にしなければ、企業、特に建設業は、これから伸びていかないのではと思っています。当社では、現場の人間を自社で抱え、育てていくことを重視しています。

――昨年から新型コロナウイルス感染症拡大が発生しました。さまざまな業界が大きな影響を受けていますが、御社にはどのような影響がありますか?

影響は部門ごとに違います。一番影響があるのは電設工事部です。電設工事の顧客である民間の事業者は、新型コロナの影響で設備投資を先延ばしするようになっています。そのため電設工事の仕事は減り、これは数年続くと思っています。その一方、電力工事部ではそれほどの影響はありません。発電所・変電所などでの電力工事は基幹インフラの整備ですから、止めるわけにはいきません。したがって、電力工事の仕事が途切れることはまずありません。

再生可能エネルギー事業については、一時的に影響があったとしても、中長期で見れば大きく伸びると思っています。なぜならば、経済産業省が2050年の電源構成を「再生可能エネルギーの割合を5~6割にする」との目安を発表 し、これから社会全体がそちらへ向けて大きくシフトしていくと見られるからです。

(画像=山口電気工事株式会社)

高い目標とビジョンを掲げ、新社屋でシナジー効果を生み出す

――今後の目標を教えてください。

今後については、2026年、36年、46年までのそれぞれについて高い数値目標を掲げています。また、ビジョンは「我々はエネルギー革命を成し遂げる」という大きなものを掲げています。若い社員からすれば「社長が何を言っているのかよくわからない」となるのかもしれません。しかし、人はゴールを設定しないと、そこにたどり着けないのではないでしょうか。2026年までに「電気工事グループ会社」をめざします。次に2036年までは「エネルギー事業会社」です。そして、2046年には「エネルギー創造会社」をめざします。ホップ・ステップ・ジャンプのように成長していきたいと思っています。

また、現在新社屋を建設中で、今年7月に完成予定です。点在しているグループ会社を1ヶ所にまとめ、グループ会社間のシナジーを高めたいと思っています。グループ会社を1つの社屋にまとめる場合、フロアごとに分けるのが一般的です。しかし当社では、グループ会社を全てごちゃ混ぜにします。3つの会社の人間が同じフロアに入り乱れることになります。

これからの時代は、物事を単体で考えるのではなく、大局で考えることが要求されると思います。強みや弱みの補完、あるいは2つのものが合わさって足し算以上の結果になるなどのシナジー効果は、人と人との関係から生み出されると思います。グループ会社のフロアが物理的に異なれば、コミュニケーションは生まれにくくなるでしょう。そこで、グループ会社間の仕切りを失くし、さまざまな業態の社員同士が同じフロアでシナジー、化学変化を生み出していけるような、そういう組織にしたいと思っています。