特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。

74年の歴史を持つ日昭電気株式会社。創業者は、文部省(現:文部科学省)の技官を務めたのち電気工事業を立ち上げた。エンドユーザーであるメイン3社との密接なつながりを築いてきており、直接、電気工事の発注を受けている。このため、サブコンでありながら、ゼネコンからの下請け工事の比率は低い。そうしたエンドユーザーの電気工事以外の要望にも応える形で、事業の多角化を進めてきた。現社長の地球環境保護に対する情熱から、太陽光発電事業や省エネ関連事業にも注力している。

(取材・執筆・構成=大久保賢一)

(画像=日昭電気株式会社)
池田 秀基(いけだ・ひでき)
日昭電気株式会社代表取締役社長
1955年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院卒。

つながりの深いエンドユーザーのニーズに応える形で事業を多角化

――昭和22年(1947年)に創業されました。

私の祖父が創業しました。祖父は、文部省で電気関係の技官を務めていたのですが、「これからは、もっと多くの国民が電気の恩恵を受けられるような事業をしていきたい」との想いから電気工事会社を設立したのです。今でいう、スピンアウトのようなものでしょうか。また電気設備学会の初代会長や日本電設工業会の初代技術委員長を務めるなど、数々の日本初の電気工事の基準・規則作りに貢献してきました。

創業当初は、文部省関係の電気工事の仕事をいただき事業を立ち上げていったのですが、やがて民間の企業ともつながりができて、仕事をいただけるようになりました。その民間の企業というのが、今もお取引をいただいている凸版印刷様、東急様、東洋インキSCホールディングス様です。この3社様はグループ企業も含めて、70年以上にわたって直接、電気工事のご発注をいただいています。私たちのようなサブコンは、ゼネコンから下請けとして電気工事の仕事をいただくのが通常のスタイルです。しかし、当社では上記の企業から直接、電気工事の発注をいただいていており、電気工事業者としての当社の最大の特長です。

――顧客のご要望に応える形で事業を多角化していきました。

仕事としては、主力となっている企業3社の割合が高く、ゼネコンの仕事を積極的に取りに行って業績を伸ばすということが難しい状況にありました。そういった中で、私たちはエンドユーザーである企業と密接なつながりを持ち、ご要望をお聞きすることができました。それにお応えする中で、電気工事以外の分野での仕事も手掛けるようになり、事業が多角化していったのです。

例えば、照明器具や電気・空調機器の販売などは、いずれもお客様のご要望にお応えする形で始まった事業です。また、凸版印刷様のご要望を受けて、世界最高速のラベラーの開発にも成功しています。 電気工事会社としては、いささか異質な不動産事業ですが、これは私の父である二代目社長の時から始まった事業です。父は、北青山に本社ビルを新築したのですが、当時バブルの絶頂期で、ビルのフロアーを高く貸し出すことができました。そこで、青山通りの裏に別の土地を買って本社を移し、道路に面したビルをテナントに貸し出すことにしたのです。そこから不動産事業が始まりました。その後、都内に複数の不動産を取得し、運用しています。不動産業も景気変動の動きを受けますが、その影響は電気工事業ほど大きくなく、またタイミングもずれています。そのため、バランスの取れた事業ポートフォリオになっていると考えています。

(画像=日昭電気株式会社)

充実の研修制度で高い従業員定着率。ECの拡充にも力を注ぐ

――従業員の3年以内の離職率はわずか1%だそうですね。

電気工事業は、かつて3K(キツイ・キタナイ・キケン)の仕事と言われていました。しかし、当社では早くから社内に「働き方改革委員会」を立ち上げると同時に、現場での安全性を高めて働きやすさを実現。3Kイメージを払拭してきています。

人手不足は業界全体の課題ですが、当社では採用活動と社員研修に力を入れており、従業員の定着率も高くなっています。現在、3年以内に辞める社員は全体の1%程度です。

従業員教育は、294にも上る研修プログラムがあり、社員ごとにキャリアパスを形成しています。この結果として、当社の電気工事関連の有資格者率は80%を超えています。こうした充実した研修制度のおかげで、従業員の定着率が94%となっており、同時に工事の品質も向上しています。

社員との面接にも力を入れ、直属の上司との面談はもちろんですが、全社員が3年に1度は社長との30分ほどの面談に臨んでいます。今は、コロナ禍で中止になっていますが、新年会、忘年会、社員旅行などもあり、社員同士が肝胆相照らす仲になっています。

社員一人ひとりが自分の目標を達成できるようにサポートしていくことが経営者としての大きな使命だと思います。社員が成長した姿を見て得られる満足感に、勝るものはありません。

――人材の積極採用とECも強化されています

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、各企業の人材採用ニーズが緩んでいるように感じますが、当社では人材採用により一層力を入れています。この時期だからこそ、将来を担う有望な人材に出会えると考えています。

また、コロナ禍の影響でインターネットを経由したECも堅調に推移しています。取扱品目の1つに紫外線を使った除菌装置があり、体温測定機能や撮影機能が付いており、今の時代の企業の入退出管理に最適な装置でした。

今後は、地震などの際のご家庭のBCP対策の1つとして家庭用小型蓄電池の販売やウイルス対策の装置などもネット販売していく予定です。

地球環境保護への想いと従業員への想いが会社の発展を支えている

――大切にされている地球環境保護への想いについて、お聞かせください。

私は小学校高学年の頃、先生から「ローマクラブ」が発表した『成長の限界』というレポートの話を伺い、大変な衝撃を受けました。小学生ながら、地球環境の大切さを痛感し、その気持ちは今も持ち続けています。そのため、当社では太陽光発電事業やスマートソリューション事業など、地球環境の保護に貢献できる事業にも力を注いでいます。自社で太陽光発電所を建設し、売電する事業にも取り組んでいます。これには、自社の電気工事事業や遠隔電力監視システムなどが活用できており、相乗効果を上げています。現在では、各地に所有する東京ドーム約8個分のメガソーラー発電所で、合計14.259MWもの発電を行っており、CO2を削減して地球環境を保護しながら収益も得るという事業に取り組んでいます。収益面で言えば、1位が電気工事、2位がソーラー発電、3位が不動産賃貸、4位がEC販売という順位になっています。また、スマートソリューション事業では、電力監視システムや産業用太陽光発電システム、産業用エコキュート、LED照明などの事業にも注力しています。

(画像=日昭電気株式会社)

――今後はどのように事業を発展させていきたいとお考えですか

経済状況の変化に合わせて、今後とも、M&Aには引き続き力を入れていきます。また、地球環境保護への貢献をさらに高めていくため、新規のソーラー発電所の建設や小型風力発電事業などにも取り組んでいきたいと思っています。不動産事業に関しては、今は新たな投資をすべきタイミングではないと考えています。ビルがかなりの高値で売却できたという話もよく聞きますが、東京都心の不動産はもうこれ以上値上がりすることはないと見ています。

企業として利益を最大化していくことは重要ですが、私は、それだけを事業経営の目的にしていくべきではないと考えています。当社は、1つには地球環境を守ること、そしてもう1つは社員の一人ひとりが自己実現を果たして、充実した人生を過ごせるようになることを目標としています。その結果としてお客様に喜んでいただけて、売上が上がり、収益が上がるのであって、収益ありきの事業展開にはしたくないと思っています。