特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。

吉光組は1924年(大正13年)、石川県を流れる手取川の砂利採取から事業をスタート。その後、河川工事などの土木事業を開始し、1990年代からは土質改良事業、建築事業、住宅事業へと事業の幅を広げてきた。今や公共工事もICTを積極的に取り入れる時代となり、技術的な変革のできない企業は淘汰の危機にさらされる。激変する建築業界の中で、新たな技術や工法を取り入れながら事業を拡大させているトップに話を聞いた。

(取材・執筆・構成=長田 小猛)

(画像=株式会社吉光組)
吉光 岳文(よしみつ・たかふみ)
株式会社 吉光組代表取締役社長
1971年石川県生まれ。日本大学理工学部建築学科卒。
大学で建築を学び、卒業後は大成建設へ。数々の現場で現場管理を務め、大規模都市再開発や超高層ビル建設などの大型プロジェクトに携わる。31歳で祖父が創業した吉光組に入社。当時は公共工事の売上が全体の98%を占めていた同社に建築部門を発足させ、民間建築や住宅建築の事業を軌道に乗せた。2013年、代表取締役社長に就任。

100年の伝統事業に満足せず、次々と新規事業に参入

――公共工事から事業をスタートさせ、今では数々の事業を手がけられていますね。

平成14年に31歳で入社したときは、土木工事が事業の柱で売上の98%を占めていました。バブル経済が崩壊した平成3年頃から徐々に公共事業関係売上が右肩下がりに減少するとなる中で、未だに公共事業に頼った経営に疑問と不安を感じました。そこで、これまで培った経験を活かし全国展開と民間の仕事もやっていこうと建築部門を発足させました。今では従来の土木事業の他に、資源開発事業、建築事業、民間のアパートやマンションなどの様々な建築物の建設を手掛け、ています。売上の比率では土木・資源開発事業が50%で12、3億円、建築が住宅事業を含めて12億円くらいでやはり50%程度です。

社内では三本柱と呼んでいますが、土木事業、資源開発事業、建築事業が主な事業となります。

――それぞれの事業の強みは何でしょうか?

土木事業はもともとの主力事業で、約100年の歴史があります。創業時は手取川の砂利採取事業からはじまりました。手取川といえば当時は何度となく氾濫し周辺地域に多くの被害が発生していたのです。当時の内務省が土木関係の所管行政ということで暴れ川である手取川の河川改修に着手。河道掘削することで川の流下能力を向上させる工事が始まり掘った土砂は良質な川の玉砂利ですので加工して建設資材として販売をしていたのです。今ではしっかりと整備され安全な川になりましたが、その頃から弊社は海岸改修工事、道路工事、トンネル工事、大規模土地造成工事など様々な土木事業に携わり多くの難工事を完成させてきたお蔭で豊富な経験と施工実績、多くの信頼を得ることができました。

資源開発はこれから伸びていく事業だと思っています。今現在は二つの専門的工事に注力しています。そのひとつは「リテラ工法」です。この工法は1999年に株式会社小松製作所(以下、コマツ)のリテラという環境型の建設機械を導入してスタートさせました。平成に入ったあたりからこれまで何も考えずに捨てていた建設副産物の発生を抑制するために建設リサイクルの推進が提唱されはじめました。建設省の“建設白書”にて循環型社会の構築に向けて土のリサイクルについても強く推進することが求められるようになりました。それまでの土木工事では、現場で発生した土砂は強度などの要求品質基準に合致していないということで、工事に適した良質土を購入して現場に納品する設計となっていました。リテラは現地の土と固化材を撹拌し、ムラなく均一な強度の改良土にする機械です。つまり現地の土をリサイクルして使うわけですが、この工法なら建設副産物、廃棄物の減量化が可能になります。これはコストと環境に優しい工法ということでお客様にも好評で、今も静岡県の新東名道路建設や大阪府の新名神道路建設など各地の高速道路工事やトンネルの土砂崩壊防止など様々な建設工事で活躍しています。

もう一つは「TNF工法」です。こちらは建築物の基礎を特殊な改良体で構築する工法であり、杭を必要としないローコストな基礎を実現することが出来ます。低層建築物との相性が良くホームセンター、スーパーマーケット、倉庫などの低層大型建築物で設計採用が多いです。杭が無く、特殊な基礎コンクリートの作り方をする為に工期が大幅短縮、杭工法と比較してコストが安価。長大な杭が必要な超軟弱地盤であってもその効果を発揮します。また将来、建物を解体して更地にして売却したいといった時には杭と違って解体コストがほとんどかからないというメリットもあって日本全国から多くの引き合いを頂いています。

このように資源開発事業では新しい技術を取り入れながら事業を拡大しています。

建築事業は2004年に参入して、大型の民間建築物、公共建築物など実績を積んできました。石川県の土地柄、工場関係の増改築や耐震工事が得意分野です。石川県にはコマツさんがありますから、その関係で工場の営繕工事などを多くご発注いただいています。生産設備の増強や生産ラインの改築、工場の省エネを図り生産性を向上させることは、どの企業も重要なファクターであるため弊社は全力で期待に応える為に生産者側に立った建築提案を行っています。

住宅事業は、「住樂工房JURAKU」というブランドを立ち上げ、洗練されたデザイン設計と伝統的な建築材料のもつ素材感を感じて楽しい住まいを提供したいと思い事業展開をしているところです。平成16年に住友林業の全国ネットワークイノスグループに加盟しました。イノスグループは、住友林業と地方の優良建設会社が作る家づくりのネットワークで、デジタルフレーム構法などを使った、安全・安心な家づくりが可能であり、イノスグループとして連携する住友林業の熟成された品質などのノウハウを使えることが強みです。

(画像=株式会社吉光組)

――YOSHIMITSUBASEというコミュニティスペースを作り、地域イベントも開催されていますね?

YOSHIMITSUBASEは当社が公共工事などを行う中で、地域の人に何かお返しができないかと考えて社屋の一部に作ったコミュニティスペースです。定期的にカルチャースクールのようなイベントを開催して、公民館のように使っていただいています。このスペースは、住宅を建てていただいたお客様とのその後の交流にも使っています。

他にも地域の清掃活動や現場見学会などのCSRを実施し、当社の事業への理解を深めていただくようにしています。公共工事は地域の皆様の理解なしにはできませんからね。

進む建設のICT化。対応できなければ淘汰される

――今回のコロナ禍は事業に影響を与えましたか?

建設市場に一番影響を受けたのは民間建築と住宅であると思います。石川県内の話をすると、民間建築は150〜200億程度の案件が着工延期や中止となりました。住宅も対前年比で約1,300棟、着工件数が減りました。両方で450億円程度の影響があったと報告されていますね。当社も民間建築と設備投資が延期、もしくは中止になったりしています。住宅も件数は少ないですが、計画の見合わせなどがありました。影響を受けていないのは公共関連工事くらいなのではないでしょうか。

(画像=株式会社吉光組)

――今後はどのように事業を発展させていきたいとお考えですか?

コロナで営業にも行けない状況がいつまでも続くとは思えないので、コロナ後のことを考えて経営的にはいろいろと計画を立てています。今年度はコロナに影響を受けた民間建築も、今後は2020年にできなかった設備投資の山が来るでしょう。しかし、これまで計画していた建物の設計は大きく変わると考えています。コロナ前設計の建物ではなくポストコロナ時代の新設計となるでしょう。私たちは新型コロナウイルスという感染症によって経験のない恐怖を憶えました。“令和恐慌”とまで揶揄される如く混迷する時代になりました。今後のニューノーマルな社会秩序におけるすべての建築物の設計は感染症対策なしには成立しないということです。私は三つの感染症対策「密接・密閉・密集」から読み解くに「非接触・VR仮想現実・遠隔化」これらのキーワードを対策した設計の建築物へと変化していくと考えています。私たちはそれに備え、工場や倉庫などの設備投資に対応できる体制作りをしておかねばならない。

住宅も世帯数が減り新築住宅の着工件数も減少してくるので、リフォームの事業を充実させておかねばならないでしょう。先に紹介しましたが私たちは、一般消費者がお客様となる注文住宅「住樂工房JURAKU」をシリーズとして持っています。北陸は「高温・多湿」、「多雪・寒冷」の地域です。立地の特性を考慮し、街並みとのマッチングも考える。 屋根の傾斜や庇の深さ、屋根や壁の色や素材などすべてにわたって「風土と住まいの関係性」を流儀として重視したシリーズです。住樂工房の流儀は、新築はもとよりリノベーションやリフォームにも用いていきますので、こちらの磨きもかけておきたい。

政府が2020年度の骨太方針「経済財政運営と改革の基本方針2020」において、「時代の大きな転換点に直面している。思い切った変革を実行できるかが日本の未来を左右する」と警鐘を鳴らしています。思い切った変革として建設DX(デジタルトランスフォーメーション)デジタル化によって建設業界の生産性向上と担い手確保を目指しています。

具体的には2020年度から、建設現場の「遠隔臨場」の試行が始まっているのです。遠隔臨場とは、ウェアラブルカメラやネットワークカメラ等を活用して、工事発注者が離れた場所から材料確認や段階確認などの立会い検査をすることができ、発注者オフィスから遠隔地の工事現場状況を把握確認できるシステムです。コロナで普及した、リモートワークの建設現場版と考えればよいでしょう。具体的には現場作業者のメガネやヘルメットにウェアラブルカメラを装着して画像(動画)を撮影、インターネットを通じて遠隔地にいる現場監督などがそれを確認するというものです。今までのように建築資材に仕様通りの物が揃っているかどうかを検品したり、工事が設計通り行われているか現地に出向いて確認したりする必要がないのです。他にもネットワークカメラを定まった場所に設置しておけば、建築の進捗状況などの確認を定点観測することができます。まさに働き方改革にマッチした環境改善といえるのではないでしょうか

国土交通省は「i-Construction」というプロジェクトを推進していて、ICTを活用して建設現場の生産性を2025年までに2割向上させることを目指しているのです。遠隔臨場だけにとどまらず、今後は更にICT技術を用いた建築現場のイノベーションが進められていくでしょう。当社は積極的にICT技術を取り込み、生産性を上げてこれに対応していこうと考えています。時代の流れに順応できなければ、100年続いた企業であっても淘汰されてしまいますからね。