特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。

サン建築設計は2006年に札幌市で設立。RC構造の賃貸マンション建設を主軸として事業を展開する。年間およそ60棟を手掛け、売上高は70億円を超える。2020年には、注文住宅のホーム企画センターを譲受。事業の一部として空気清浄や換気能力の高い炭を用いた換気システムの営業エリアを拡大するため、東京への進出を計画している。

(取材・執筆・構成=不破聡)

(画像=株式会社サン建築設計)
中村 靖哉(なかむら・のぶや)
株式会社サン建築設計代表取締役社長
1974年7月29日生まれ。
1997年に札幌市の不動産会社に勤務後、2006年にサン建築設計を創業。前職では営業職が中心で、建築業界は未経験。北海道の建築は寒冷による閑散期と繁忙期の差が激しいが、その常識を覆す物流・建築ノウハウを構築し、急成長企業へと育て上げた。現在、買収したホーム企画センターの代表取締役会長も務めている。

注文住宅「炭の家」買収で売上高は130億円に

――2020年にホーム企画センターを買収しました。

当社はRC構造の賃貸マンション建設が収益の柱です。事業の幅を広げるために、買収を決めました。ホーム企画センターは「炭の家」というコンセプトで、空気清浄や換気効果の高い建材を使っています。消費者は、新型コロナウイルスの感染拡大によって空気に対する意識が強くなっています。「炭の家」は時代に合致した商品、サービスになると考えています。

今期(2021年3月期)の竣工数は94棟で、売上高は40億円です。サン建築設計の売上が77億5,000万円。連結でおよそ120億円となります。また「炭の家」で使う炭の換気システムの取扱数を増やそうと、5月に東京進出を計画しています。住宅以外にも、オフィス、商業施設など、人が集まりやすい施設への導入を進めようとしています。

――買収によるシナジー効果は?

職人やパートナー会社が獲得できたことは非常に大きいです。M&Aでグループ全体の協力会社数は150から220社となりました。職人は高齢化しつつあり、数も減少しています。そのような中で一息に拡大できたことは意義深いです。当社は工期を守って計画通りに進めることで発注元からの信頼を勝ち取り、成長してきた会社です。どれだけIT化が進もうとも、この業界のカギを握るのは人です。グループ全体で職人を動かせるようになったことで、無理なく受注数が増やせると考えています。年間およそ60棟のマンションを手掛けていますが、来期分の63棟はすでに受注済みです。そこからさらに10棟は上乗せできそうです。

――サン建築設計の最大の特徴は3PCと呼ばれる独自のシステムです。

これまで、北海道は寒冷期の工事ができないという常識がありました。それを克服したのが3PC(サード・パーティー・コンストラクト)というシステムです。建材を納入する倉庫や車両、物流パートナーとの協業体制を独自のシステムで強化しました。寒冷期の安定供給網を構築し、急激な天候の変更による再配送や狭小地に応じた小分け搬入など、当社がすべて集中管理することで工期に遅れが出ないようにしています。

海に囲まれた北海道は、発注してから届くまでに約2週間かかります。その上、天候不順で遅延が発生するのが当たり前となっていました。私はもともと不動産業界出身で、建築業界の課題がわかっていませんでした。常識にとらわれていなかったからこそ、構築できた仕組みだといえます。

またオールシーズンで協力会社に仕事が発注できるため、全体の建築コストを下げることができます。すなわち、オーナーはマンションを安く作ることができ、協力会社は繁忙期と閑散期の差がなくなるので、仕事がしやすくなる。当社は受注数を上げることができるという三方よしの状態ができました。

――パートナー会社との信頼や連携が欠かせませんね?

そこに一番気を使っています。建築の世界は、下請け会社への圧力が強い業界だといわれています。工期や金額面で不当に苦しめられている会社も少なくない。創業当時からその意識を変える必要があると感じていました。協力会社とのつながりを強くすることによって、安心して仕事が受注でき、質の高い建築物を計画通りにオーナーに引き渡すことができます。そして、信頼となって新たな発注につながる。このサイクルを重視しているのです。

――その考え方が2007年に発足した「太陽会」の下地となったのですね?

そうです。創業当時の想いを形にしました。「太陽会」は協力会社と安全意識や価値を共有するサークルです。安全知識の研修や講習会を定期的に開催したり、安全パトロールの実施などを行ったりしています。親睦を深めることも目的の1つです。ビジネスとしてだけではなく、人となりを知ってもらう機会になっています。会員専用のサイトを設け、情報の共有が即時できるようにもなっています。

(画像=株式会社サン建築設計)

事業の多角化を目指して人材育成に力を入れる

――今後はどのように事業を発展させていきたいとお考えですか?

最終的には不動産・建築業界の総合商社を目指したいと考えています。RC構造の賃貸マンションから、M&Aによって注文住宅事業へと幅を広げました。さらに「炭の家」で使う炭の換気システム販売へと事業を拡大しています。1つの事業に特化した方が舵を取りやすく、会社をある程度までは成長させることはできます。次のステップが多角化です。

人に置き換えて考えると、現場の仕事にだけ集中して、不動産だけの知識を持っている人は、どこかで成長の限界を迎えます。敷居を越えて総合的な視点で物事を見たり、判断したりできる人は青天井で伸びる。それが法人にも当てはまると考えています。

――事業の多角化は俯瞰的な仕事をする管理職の育成がカギになります。

そうですね、人を育てることが一番の課題です。これまでは、自分の背中を見せながら仕事を推進してきました。当社は離職者が非常に少ないですが、私が命令を下すのではなく、一緒に仕事をしてその喜びを共有していた結果だと考えています。しかし、事業が拡大した今、このスタイルを続けるのはもう無理でしょう。私が適切な経営判断をし、そのミッションを実現するためのマネージャーの育成が重要です。

育成する上で気を使っているポイントが2つあります。1つは待遇面です。建築業界は休みを削って現場に出るといった慣例が横行しています。そうした悪しき慣習を取り払って、社員がモチベーションの高い状態で長く働ける環境を作りたいと考えています。

もう1つは会社の理念やビジョンの浸透です。仕事の技を覚えることは簡単です。その一方で、協力会社との信頼を厚くすることや、業界の常識に疑問を持つ姿勢など、会社の底流にあるものを理解し、それを仕事に活かすのは非常に難しい。そこをうまく伝えることが私の仕事になると考えています。

――最近ではSDGsへの取り組みも強化しています。

企業市民として人や社会に何ができるか、未来のために何ができるか、ということを考えています。そのためにSUNグループでは「生活を豊かにする住環境の提供」を柱に、「良質な住まいの提供」、「次世代への社会問題の提案」、「職場環境の整備」、「サプライチェーンの構築」、「地域コミュニティとの共栄」、「地球環境への意識」、「良質な住まいの提供」の6つの方向性で持続可能な開発目標を設定しています。仕事と課題に真摯に向き合いながら、可能性と価値の領域を積極的に拡げているのです。

これからも持続可能な成長のため、社会的価値と経済的価値の同時創出を目的として、サステナビリティ課題を設定し、社会に寄与する事業価値を創造したいと考えています。