長期金利,マイナス金利
(写真=PIXTA)

日本の長期金利(国債10年金利)は、マクロのファンダメンタルズ要因と金融政策要因で説明できることを解説してきた。

ファンダメンタルズ要因としては、企業貯蓄率と財政収支の合計で貨幣経済の拡張を左右するネットの資金需要(トータルレバレッジ、GDP対比、マイナスが強い)と、失業率に先行する指標として知られ内需の拡張を左右する日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIである。

プラス金利モデルをマイナス金利に応用するには?

金融政策要因としては、イールドカーブのアンカーである日銀政策金利と、日銀の資金供給(マネタイズ、買いオペ)の力を示す日銀当座預金残高の変化(前年差、GDP対比)である。

これらに、グローバルな金利水準の代理変数としての米国債10年金利を加えれば、日本の長期金利がうまく推計できることが分かっている(1988年からのデータ、4四半期移動平均、98%程度の動きを説明)。

更に、マイナス金利政策の時の長期金利へのインパクトがプラスの時の何倍(1であれば同じ強さ、5であれば5倍のインパクトの強さを表す)かを表す調整ファクターを政策金利にかけることで、プラス金利下のモデルをマイナス金利下の推計に応用できる。

長期金利 = 0.189+ 0.022 中小企業貸出態度DI + 0.73 (政策金利X調整ファクター)+ 0.89 LN (米国長期金利)- 0.065 (ネットの資金需要+日銀当座預金残高変化)

調整ファクターが1・2・3・4と変化するに従い、2016年4-6月期の長期金利の推計値(米国の長期金利は1.7%程度を前提)は0.04%・-0.03%・-0.10%・-0.18%と変化する。

現在の-0.1%程度の長期金利は、調整ファクターを3-4倍程度とすると、マクロ・フェアバリューと考えることができる。しかし、問題なのは調整ファクターは何倍が適当なのか、判断ができないことである。

調整ファクターの大きな変動は長期金利の変動幅への影響も大

その時の、グローバルなマーケット環境、政策への期待、または国債入札や日銀国債買入れオペの結果により、調整ファクターは短期間に変動しても不思議ではない。調整ファクターが大きく変動すれば、推計値も大きく変動するため、長期金利の変動幅は大きくなるとみられる。

ファンダメンタルズに変化はなくても、調整ファクターが1倍から6倍に変化すれば、長期金利は36bpも変動することになる。2016年4-6月期のフェアバリューでみれば、長期金利は0.04%から-0.32%までの変動余地があると考えられる。

このように考えれば、マイナス金利政策により長期金利は低く抑制されているが、変動が高まっていることが説明できる。また、消費税率引き上げの見送りにより、財政規律の喪失による突然の長期金利の上昇への不安など、ファンダメンタルズを軽視する過度な警戒感も出てきてしまっている。

そのような不安感が長期金利に上昇圧力をかけているのであれば、マイナス金利政策による抑制効果を削ぐため、調整ファクターは低下するはずである。

しかし、そのような現象は今のところ確認されず、過度に長期金利上昇を恐れ、アベノミクスを再稼動させるために必要な財政政策の手を縛ることはよくない。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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