相続税,控除,配偶者控除
(写真=PIXTA)

相続税は個人的な事情などを考慮して、基準を満たせば一定額の控除を受けることができる。その1つが配偶者控除だ。相続税が控除されるための条件を紹介し、その中でも今回は配偶者控除に関して基礎から、控除額の計算方法、適用条件、見落としがちな注意点まで徹底解説する。

目次

  1. 相続税における控除の種類
    1. 1.贈与税額控除
    2. 2.配偶者に対する税額軽減
    3. 3.未成年者控除
    4. 4.障害者控除
    5. 5.相次相続控除
    6. 6.外国税額控除
  2. 配偶者控除とは
  3. 控除の適用要件
  4. 控除・減額措置の計算方法
  5. 適用する際の注意点

相続税における控除の種類

現行の相続税法においては、財産を承継した人の個別的な事情などを考慮して、全部で6種類の税額控除項目を設けている。その内容は次の通りだ。

1.贈与税額控除

相続や遺贈によって財産を取得した人が、被相続人から相続前3年以内に財産の贈与を受けていた場合、その財産の価額を相続財産の課税価格に加算されることになる。このことによる二重課税を排除するため、被相続人の生前に課された贈与税をその贈与を受けた人の相続税から控除を行う。これを「贈与税額控除」という。

2.配偶者に対する税額軽減

後述する一定の配慮により、被相続人から相続により財産を引き継いだ配偶者に対する相続税の軽減措置のことをいう。

3.未成年者控除

未成年の相続人の場合、その相続人には自力で稼得できる収入がないのが一般的だ。なおかつ、通常は成人して社会人として独立するまで教育費や養育費がかかる。そしてそういった必要経費は相続財産に頼らざるを得ない。こういった未成年者特有の背景を考慮して設けられたのが「未成年者控除」である。

4.障害者控除

ここでいう障害者とは、心神喪失の常況にある人、失明者その他の精神又は身体に障害のある人のことを指す。障害者が財産を取得した場合、社会的・福祉的な配慮から相続税法上でも税額軽減の配慮がなされている。これが「障害者控除」である。

5.相次相続控除

短期間で祖父、父と財産所有者が亡くなり、相続が相次いだ場合、子が承継する財産に過度な税負担がかかってしまう。場合によっては相続で最終的な財産の承継者の生活が破綻する恐れがある。これを避けるために設けられたのが「相次相続控除」である。

6.外国税額控除

海外資産を相続や遺贈などにより承継した場合、その資産所在地の国の相続税も課されることが多い。これによる二重課税を排除するために設けられたのが「外国税額控除」である。

なお、税額控除が2つ以上適用される場合はこの順序で控除していくことになっている。

配偶者控除とは

配偶者控除とは、被相続人の財産を相続によって取得した配偶者に対する税額軽減措置である。日本の民法では夫婦別産制を採用しており、「夫のものは夫のもの、妻のものは妻のもの」として扱われる。そのため、夫の収入によって得られた資産はすべて夫のものであって妻のものではない。たとえどんなに仲が良くても、資産を夫から妻に名義を変更した場合には、贈与税が課されるのもそのためだ。ただし、これは、あくまでも夫婦いずれもの生前中の話に限る。

夫婦いずれか一方が死亡した場合には、その資産に対する考え方が変わる。つまり、「夫の資産を作ったのは確かに夫の収入によるところが大きいが、同時に妻も家庭を守り、夫の働きを支えてきたからこそ形成できたもの」とみなすのだ。また、夫死亡後、収入が途絶える、あるいは激減するのが普通だ。これまで夫婦で助け合ってきた生活も、外部にサービスを委託するなどして費用がかさむことも少なくない。

こういった相続財産形成に対する配偶者の貢献や相続後の生活への配慮などから設定されたのが「配偶者控除」なのである。

控除の適用要件

配偶者控除は誰でも受けられるのが一般的だ。とはいえ、軽減される税額が他の控除に比べて圧倒的に大きいため、詐称の可能性も高くなる。そのため、配偶者控除の適用を受けるためには、次の要件を満たすことが必要となる。

(1)相続税の申告書に、軽減される金額の明細書を添付すること

(2)次のすべての書類を(1)と共に提出すること

①戸籍謄本(相続開始の日から10日を経過した日以後に作成されたもの)

②遺言書の写し、遺言分割協議書(共同相続人の全員が自署押印したもの)の写し(印鑑証明書を添付することが必要)、その他財産の取得の状況を証する書類

また、期限内申告の際に相続財産の一部を隠したり、ごまかしたりした場合で、後日税務調査でその事実が発覚した時は、その隠したりごまかしたりした財産についてはこの控除の対象から外される。

控除・減額措置の計算方法

配偶者控除による軽減額は、次の計算式によって算出された金額のうち、いずれか少ない方となる。


相続税の税額×(次の①、②のうちの少ない金額÷課税価格の合計)

①配偶者の想定相続分(1億6000万円未満なら1億6000万円)

②配偶者の課税価格

一見、複雑そうに見えるが、考え方は割とシンプルだ。配偶者が取得した財産の価額が遺産総額(課税価格の合計額)に対し、配偶者の法定相続分相当額以下ならば、たとえ遺産額が何十億円あったとしても、配偶者には一切相続税が課税されない。だからこそ、この適用を受ける場合の要件が厳格なのである。

適用する際の注意点

配偶者控除は、軽減される税額がきわめて大きいオトクな制度だ。しかし、どんな場合でもこの通りに受けられるわけではない。相続人が配偶者と子供1人程度ならまだいいのだが、相続人が複数いて、相続税の申告期限までに遺産の分割が確定しない場合には、この税額控除は受けられない。配偶者が実際に取得した財産だけが控除対象となるためだ。

申告期限は相続開始を知った日の翌日から10カ月以内である。数字だけ見ると長く感じられるが、実際は相続の手続きは煩雑であるため、社会人としての日常生活をやりくりしながら行っているとあっという間に10カ月は経過してしまう。ましてや複数人の相続人がいて、家族仲が悪かったり、仮に良くてもお金が絡んだ途端、険悪になったりもする。きちんと適切に適用を受けるためには、事前の対策が必須だ。

なお、分割されていない財産が申告期限から3年以内に分割された場合には、その時点でこの税額軽減の適用を受けることができる。ただ、この場合の手続きは申告ではなく「更正の請求」という手続きになり、実際には期限内に納付した相続税額から還付を受ける形となる。

相続税にも様々な事情に対する配慮から控除という税額軽減措置がなされている。しかし、これはあくまでも「正直で誠意のある納税者」に対してのみ適用される制度だ。申告期限を過ぎてしまったり、納税をごまかしたりすれば当然適用はない。

適正に納税を行い、かつオトクな制度を活用するためにも、生前からきちんと家族内で対策を行っておくことが望ましいだろう。

鈴木 まゆ子
税理士、心理セラピスト。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。12年に税理士登録。外国人の在日起業の支援が中心。現在、会計や税金、数字に関する話題についてのWeb上の記事執筆を中心に活動している。心理については、リトリーブサイコセラピーにて大鶴和江氏に師事。税金や金銭に絡む心理を研究している。共著「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)。ブログ 「経済DV・母娘問題からの解放_セラピスト税理士のおカネのカラクリ」