「ブロックチェーンの人気・寿命は今年いっぱいで終わる」--。関連ビジネスを手掛ける人が聞いたら卒倒しそうな意見を述べるのが仲津正朗Orb共同創業者兼CEOだ。日本オラクルとの営業連携も果たし、独自の分散型台帳技術「OrbDLT」で地域経済の活性化を目指すという仲津氏に聞いた。(経済ジャーナリスト 丸山隆平)

ブロックチェーン,Orb,日本オラクル
(写真=筆者)

なかつ・まさあき
2000年亜細亜大学経済学部卒。投資顧問会社・TGキャピタル(NY)と日本支社で投資アナリストを務める。セブン-イレブンのネットショッピング会社オムニセブンのプロダクトマネージャーとして様々な新規事業開発に携わる。2010年にサンフランシスコでキュレーションサービスのスタートアップMusvy設立後、2012年に帰国。クリテオのグローバルRTB・APACディレクターなどを経て、2014年にビットコイン決済サービスのコイン・パスを設立。2017年4月に独自の分散型台帳技術「Orb DLT」リリース。金融庁のフィンテック有識者会議メンバー。

「ブロックチェーンが金融分野への応用に向かない」と思う理由

――以前からブロックチェーンは金融分野へ応用するには向かないとおっしゃっているが、その理由は?

インターネットも時とともに変化・進化し、原型は今とどめていません。ブロックチェーンも同様に原型のままでは実用性がありません。現在、出回っているプライベート・ブロックチェーンは取引を最終確定する「ファイナライズ」という概念がない。それと拡張性に限界があります。ブロックチェーンを処理するサーバーが増えると処理速度が落ちるのです。

ブロックチェーンのアーキテクチャーでは、参加している全ノードが常時、全ブロックのデータを保持することになっています。そして各ノードが保持しているブロックチェーン自体が絶えず分岐と収束を繰り返すため、新しい取引データを特定口座に更新をかける際、過去のデータのうちどれが最新のものなのかをリアルタイムに特定できない構造になっています。これではデータの一貫性が保てません。「口座残高の確定」という金融業務に不可欠な性能要件を満たすことができない致命的な欠点です。

このブロックチェーンの問題点については、分散コンピューティングについての国際標準化会議であるICDCS2016に論文を提出し、学会でも認められています。

――御社の技術である「Orb DLT」はどのようなものですか?

我々はこうした難点を解消するため、「Orb DLT」を開発しました。ブロックチェーン技術からは高い改ざん耐性と非中央管理型トランザクションシステムという特長を引き継ぎ、1970年代から研究開発が続けられている分散トランザクションの領域からはファイナリティ、強い一貫性、高いスケーラビリティ、高い可用性などの特長を引き継いだハイブリッドモデルです。現状のブロックチェーン系の技術を活用したプラットフォーム技術と比べると、世界で最も実用性が高い性能を誇っていると自負しています。

地域経済活性化のためのフィンテック・ソリューション

――「Orb DLT」を使ったビジネスはどのように進めています?

不動産取引やBtoBの電子手形などアプリケーションを簡単につくれるAPIやソフトウエア開発キットなどを用意し、「Orb DLT」をプラットフォームにした地域経済を活性化するためのフィンテックソリューションを提供していきます。

ビジネスオーナーや金融機関、個人に至るまでだれもが簡単に、独自の通貨やポイント、クーポン、電子手形などの発行、支払ネットワークを構築できるようになります。ビットコインに比べ、相場が1コイン=1円と固定されることで為替変動を気にすることがなく、独自の認証アルゴリズムによるリアルタイムでの決済も可能です。

地域企業のビジネスマッチングなど経済圏のハブ的な役割を果たしている地方銀行や信用金庫などの地域金融機関のビジネスに、低コストで実装してもらうことが重要だと考えています。

金融機関はパブリッククラウドに対してはプライバシーやセキュリティ面での不安を感じています。とは言え、独自に導入するのはコストがかかり過ぎます。そこで「Orb DLT」は最適なソリューションと言えます。

――日本オラクルと連携したのはそうした実情をにらんでのことですか?

(写真=筆者)
(写真=筆者)

日本オラクルは国内の地方銀行と信用金庫などを対象に、顧客のデータセンター内にオラクルのクラウド環境を構築する「Oracle Cloud at Customer」をつくっています。弊社が開発した分散台帳技術Orb DLTを組み合わせ、地域通貨システムへ応用するといった提案活動を始めています。

「Oracle Cloud at Customer」は金融機関が求めるFISC基準に対応したクラウドソリューションであり、低コストで金融サービスを提供したい地域金融機関に最適ですが、このソリューションとOrb DLTはきわめて相性が良い。

その点について、日本オラクルが4月25日に開催したイベント(Oracle Cloud Platform Summit Tokyo)で、弊社が取り組んでいる電子版藩札システムがFinTechにおいていかに重要な役割を占めるのか、なぜ分散型台帳を電子版藩札システムに適用することが有効なのか、「Oracle Cloud at Customer」と相性がいい理由について詳しく説明しました。

――具体的に進めている地域金融機関との連携は?

山陰合同銀行とは昨年11月からブロックチェーン・分散型台帳技術を利用した電子マネーの実証実験を行いました。同行本店の行員食堂・売店での決済に「Orb DLT」の技術を活用しています。食堂利用者は事前にiPhoneに専用アプリをダウンロードし、QRコードを表示させ、食堂に設置されたタブレット端末にQRコードをかざすことで、利用代金を決済します。その他も複数の金融機関、事業会社、システムベンダーと実証実験を実施しています。( FinTech online

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