「ゴトオ日」の銀行員は忙しい。そこに月末や週末が重なると、さらに忙しくなる……未だにそう考えている人が少なくない。確かに昔の銀行はそうだったが、今日の状況は様変わりしている。若手銀行員の中には、もはや「ゴトオ日」という言葉を知らない者さえいる。実際に銀行の窓口が最も混み合うのは「偶数月の15日」つまり年金支給日なのだ。

ゴトオ日ってなんですか?

「今日はゴトオ日で忙しいでしょうけれども、時間を取っていただけますか?」
「大丈夫ですよ。いまどきの銀行員にゴトオ日なんて関係ありませんから」

取引先のお客様と電話でそんな話をしていると、「ゴトオ日ってなんですか?」と若い行員からたずねられた。時代は変わった、そう思う。

5、10、15、20、25、30……末尾が5や10の日を俗に「ゴトオ日」という。地域によっては「ゴト日」と呼ぶところもあるが、意味は同じだ。こうした切りの良い数字の日には企業の決済が集中する。給料日だってそうだし、手形の期日も「ゴトオ日」であることが多い。だから、一般的な感覚として銀行の「ゴトオ日は忙しい日」と思われがちだ。

件の電話のやりとりのように、古くからのお客様の中にはゴトオ日に銀行員を拘束するのは申し訳ないと思い、気を遣ってくださる人もいる。だが、実際はそんなことはない。いまどきの銀行員にはゴトオ日が忙しいという意識などない。それどころか、ゴトオ日を知らない銀行員だって増えているのが実態だ。

事実と異なる「知らないと損する情報」

ところで、銀行から上手に融資を引き出すためのノウハウ本やブログの中には「ゴトオ日の銀行は忙しいから避けた方が良い」といった類のアドバイスもあり、実際にそれを信じている人も少なくないようだ。それらの情報を提供しているのはコンサルタントや元銀行員である。

繰り返しになるが、銀行ではいまや「ゴトオ日」は死語となりつつある。もちろん、先のコンサルタントの情報源が「現場を知らない」銀行幹部から聞いた話であることも考えられるし、元銀行員の現役時代の「ゴトオ日が忙しかった」のも事実かも知れない。ただ、どんな理由にせよ、書籍やネット上で現状と異なる話が「知らないと損する情報」として独り歩きしているのを見過ごすわけにはいかない。融資を希望される人にとって「切実な問題」であることを考えればなおさらだ。

時代の変化は彼らが考えている以上に速い。たとえば、キャッシュレス化の進展だ。

かつては銀行の窓口で振込を行っていた企業の経理担当者も会社のパソコンで振込手続きを済ませる時代になった。決済日に大量に持ち込まれる手形や小切手は窓口が混雑する大きな要因だった。窓口で預かった何十枚という手形や小切手を預かるだけでも大変な時間が必要だった。振出人の押印が漏れていたり、不鮮明であったり、暦に存在しない日付が記載されていたり、そんな形式的な不備をチェックしている間に窓口に並ぶ人の列はどんどん長くなっていった。

しかし、今では電子記録債権の普及で手形の枚数は圧倒的に減少しているのだ。今後、仮想通貨の利用が普及すれば、ますます銀行の窓口に並ぶ人など少なくなるに違いない。

「ゴトオ日」はもちろん、週末や月末は「融資の案件が立て込むので融資担当者は忙しくて話を聞いてくれない」なんて情報もいまや都市伝説に過ぎない。そもそも、いまどき月末に実行しなければならない融資案件に、その直前までかかり切りになるようでは銀行員としての資質を疑われるというものだ。

昔「ゴトウ日」、いま「年金支給日」

意外に思われるかも知れないが、銀行が最も混雑するのは「年金支給日」である。銀行だけではない。世の中の多くのビジネスは高齢者のニーズを取り込もうと知恵を絞っている。

高齢者は安く映画を観ることができるし、JRのグリーン車だって安く利用できる。銀行も年金受給口座を獲得しようと様々な知恵を絞っている。年金受給者に対しては特別金利の定期預金を設けたり、年金受給日に来店されたお客様には特別なプレゼントをお渡しするというサービスを行っているところもある。だから、年金支給日の銀行窓口は高齢者でごった返している。なかには銀行のシャッターが開く前から並んでいる人だっている。

昔「ゴトウ日」、いま「年金支給日」。銀行が混雑するのはいつかという単純な話だけでも、かつてとは様変わりしている。将来、「生活保護費の支給日」がもっとも混雑するなんてことにはなって欲しくないものだが。

現在の常識が1年後には非常識になる?

AIやFintechによって、銀行業務はハード面でも変わろうとしている。しかし、もっとも大きいのは監督官庁である金融庁の変化であろう。それは森金融庁長官の「顧客本位を口でいうだけで、具体的な行動につなげられない金融機関が淘汰されていく環境を作っていくことが我々の責務だ」との言葉が象徴している。今後、銀行は変わらざるを得ない。いま、我々銀行員自身がどのように変わるべきなのかを模索している時なのだ。

恐らく、これからの銀行は未だかつてないスピードで変貌を遂げることになるだろう。現在の常識が1年後には非常識になっている可能性だってないとはいえないのだ。なればこそ、銀行でいま何が起きているのかを率直に伝え続けなければならない。現役の銀行員である私は、著名なジャーナリストやコンサルだって知らない「ナマの現場」を知っているのだから。(或る銀行員)