近世バルト海貿易を専門にする著者が、経済史家ならではの知見を織り込みつつ、経済史学の専門的テーマを一般の読者にとって「面白くてためになる」ように語った1冊。

前著『先生も知らない世界史』の続編である本書は、全4章(各章5つのトピック)からなる。ただし、聞いたこともない驚愕の新事実や新説が満載というわけではなく、タイトルにある「先生も知らない」の文言には、あまりこだわらないほうがよい。

先生も知らない経済の世界史
著者:玉木俊明
出版社:日本経済新聞出版社
発売日:2017年9月8日

歴史のとらえ方を疑え

先生も知らない経済の世界史
(画像=Webサイトより)

第一章〈歴史のとらえ方を疑え〉は、大塚久雄と川北稔(みのる)氏の歴史学、新制度学派の経済学者ダグラス・ノースの理論(後述)、家庭内労働の取り扱いに見る勤勉革命論、イベリア半島を追放されたユダヤ人セファルディムとキリスト教徒アルメニア人の「ディアスポラ」について解説している。

第二章〈「アジアは後進地域」を疑え〉は、もともとはアジアのほうがヨーロッパよりも進んでいた理由を考察している。具体的には、秦・漢時代の経済成長、イスラーム勢力のアジア拡大と中国の海禁政策、モンゴル帝国の経済制度、中国の海運業軽視、江戸時代を「野蛮な鎖国」とみる誤解について解説している。

第三章〈「先進地域ヨーロッパ」を疑え〉は、教科書に書かれていないヨーロッパ台頭の理由を明らかにしている。ここでは、情報や数量化という「無形財」と、砂糖という「有形財」の関連性が鍵となる。また「プロト工業化」(=工業化以前の工業化)論の誤用のほか、強国プロイセンが覇権国家になれなかった理由を「財政国家論」とともに解説している。

第四章〈危機と繁栄の近現代〉は、イギリスが覇権を握ることができた理由、社会主義が失敗した理由、ガーシェンクロン・モデル(後述)、イギリスの帝国主義政策とアジアが持つ工業化の潜在力について解説している。

同章はまた、シュンペーターの「企業家(entrepreneur)」概念の再解釈を提起している。「企業家」を「全要素生産性の担い手の上昇」と解釈し直すことによって、より現実の経済や経営に近づけたモデルとし、経済史研究に活かせるようにすべきだという。「全要素生産性」とは、技術の進歩や生産の効率化など、資本と労働の増加によらない生産の増加を表す指標のことである。

「ダグラス・ノースの理論」
――なぜ近代ヨーロッパが経済成長率を高めることができたのか?