2017年、中国の不動産関連のニュースはめっきり減った。政治のニュースもしかりで「反日」も話題に上らなくなった。今年のニュースを席けんしたのは、BATJ(バイドゥ百度、アリババ、テンセント、ジンドン京東)である。彼らが金融やAIの世界で何をしようとしているか、世界の中ではどう評価されているか、このような話題一色に染まっていた。そのBATJ絡みのニュースでも不動産は出てこない。なにやら不気味な沈黙という感じの強い1年だった。そんな中国不動産市場は2018年はどう動くのだろうか。経済指標と代表的な不動産会社の動きの両方を参照しながら見通してみよう。(1元=17.1日本円)

不動産市況は抑制的

中国経済,海外不動産,BATJ
(画像=PIXTA)

今年の不動産価格は平穏

中国で不動産市況の目安となるのは、70個大中都市住宅販売価格変動状況という、毎月発表されるデータである。最新のデータは10月分である。各メディアはそれを分析し、次のように見出しを打っている。

「焦点となる大都市の新築住宅販売価格は、総体的に平穏だった」
「一線級都市の販売価格は下落傾向にある」
「一~三線級都市の新築ならび中古住宅販売価格は、上昇しているが、伸び率は13カ月連続で縮小している」

動きの乏しい安定的な状態のように見える。一線級都市とは、北京、上海、深セン、広州のことを指す。4市の新築販売価格の前年同月比は、北京99.8% 上海99.7% 深セン96.7% 広州107.1%だった。確かに広州以外は本当に下落している。不動産市場は本当に停滞しているのだろうか。

ところが3年前の2015年を基準にすると、様相は一変する。北京131.8% 上海137.5% 深セン145.6%、広州138.1%である。2年間で30~40%上昇しているのだ。その他の66都市でも、ほとんど105~120%の範囲にある。下落したのは、北朝鮮国境の丹東99.6%と、錦州市97.2%と遼寧省の2市だけだ。一線級4市の上昇分は、ほとんど2016年中に達成されている。その抑制のため、各市は2016年10月前後から制限政策を導入した。その効果が上がり、今年は値動きに乏しい状況が続いている。

不動産投資はどうなっているのだろうか。2017年1月~10月までの全国不動産開発投資は、9兆544億元、伸長率は7.8%のプラスだった。2016年通年は6.9%のプラスのため、今年は前年を上回っている。また開発不動産面積は、2016年のマイナス3.4%から、2017年1月~10月はプラス12.9%と大幅に増えている。

こうしてみると、中国の不動産価格は、政策的な抑制が外れれば、再び上昇するマグマを蓄えているといってよさそうである。

新旧不動産会社の動向

ここからは不動産会社の動きについて見ていこう。

大連万達集団 再上場はどうなる?

まず従来型の代表、大連万達集団である。同社は1988年創業、商業不動産、高級ホテル、観光投資、文化産業、百貨店チェーンの5大部門がある。それぞれの部門で大きな存在感を放ち、創業者の王健林は、中国不動産業界のシンボルだ。中国では誰一人知らぬ者はなく、2015年ごろまでは中国最大の富豪であった。現在その王健林に逆風が吹いている。派手に海外物件やエンターテインメント企業の買収を繰り返した王は、人民元安の元凶と見做されるようになり、資産売却を余儀なくされた。そして2018年は、早くも正念場であるというのだ。

万達は7月、「融創」に観光関連物件13件の株式の91%を売却した。合計438億4400万元だった。また「富力地産」にはホテル資産を中心に、199億60万元を売却している。8月以降はグループ会社の整理に手をつけた。複雑なので割愛するが、香港市場に上場している「万達酒店(ホテル)発展」という会社のコントロールを強化し、王健林自身の資産管理のプラットフォームとすること、後はグループ全体を軽資産化することである。軽資産家問題の焦点は、海外不動産と「万達商業」という子会社にある。5月時点の資料によると、万達商業の負債は5446億300万元、負債率は70.61%だった。

同社は2014年12月に香港市場に上場したが、2016年9月には、非公開化(上場廃止)した。それを再び180度回転させ再上場させようというのである。実は非公開化したとき内外の投資者との間で、もし2018年8月31日までに内地市場(上海か深セン)に上場していなければ、万達集団が株式を買い取る契約になっている。これは利息だけで70億香港ドルと見積もられる。

しかし現在、証券監督管理委員会ではIPO申請案件が滞っている。万達商業は47番目ということで、10ヵ月以内に審査が終わることになりそうもない。さらに現在、不動産会社への審査は非常に厳格だ。実際に、先の「富力地産」は10月末に審査中止となってしまった。

再上場に失敗すれば、王健林はさらに資産の売却に迫られる。賢明な商人たちはすでにその状況に備え始めた。この2カ月間で5項目、50億ドル分の海外物件を手放したと伝えられている。ただし万達は全面否認している。国内では長白山国際旅游度假区の権益を、友好企業へ売却した模様だ。

軽資産化の効果は大きいと見られている。例えばホテルは売却したものの、万達酒店管理という子会社は、ホテル運営のビジネスを継続している。万達商業もそういう形を目指すのだろう。再上場に成功すれば、資金を得ることで自身への負債圧力は大きく緩和される。信用格付けは上昇し、銀行からの返済圧力も軽減できる。しかし失敗すれば万達集団と王健林は崖っぷちに追い込まれる。

碧桂園 合理的な価格設定で成功

もう一つ「碧桂園」という企業を取り上げてみよう。同社は1992年、広東省・広州市で創業、不動産営業、建築設計、内装、物件管理、ホテル開発管理、教育産業などを総合的に行っている。2007年に香港市場へ上場、2016年1月には、“最具投資潜力港股上市公司”(香港市場で最も潜在力を備えた会社)に選ばれている。

また“最具価値中国品牌”という企業ブランド価値を数値化したランキングでは、ブランド価値410億元と算定され、前年比で341%も伸びている。このところの評価は抜群に良い。建築設計や内装などソフト部門を備え、プロジェクトの設計、提案能力に大きな強味を持つ。

碧桂園の成功は、合理的な価格設定と不可分である。それは廉価でかつ整合性が高いのはもちろん、顧客への誠意、誠心を追求した賜物という。その算出法は単なる経費の加減法ではない。不断に付加価値を追加し、物件の価値を上昇させていく。一方、一定規模化、システム化、標準化によるコストダウンをはかり、消費者へ最大限の利益を提供しようとしている。碧桂園は、長期にわたりこうした開発モデルを維持している。この“一条龍式”という開発モデルは、前期計画、企画設計、緑化、配置、販売まで精鋭集団により、迅速に行われ、高品質とスピードを両立させたものである。こうして出来上がった碧桂園ブランド物件の最大の魅力は、人間に寄り添う、日本語にはない言葉だが“人性化”であるという。

強烈な個性の創業者が、華々しい売買を繰り返してきた会社がピンチを迎え、ソフト面で独自のノウハウを積み上げてきた企業が大きく伸びている。これは不動産業界の今後の方向性を、明確に指し示しているといってよい。

2018年の不動産業界、発展のチャンスはどこに?

2018年の不動産業界のポイントについて、ニュースサイト「捜狐」が展望している。2018年、地産人(不動産業界人)は、苦闘の日々を覚悟すべし!というタイトルである。

11月末、中国住房城郷建設部は、各省の不動産管理者を集めた会議を開いた。そこで強調されたのは、当面不動産バブルのリスクはない。これは最も重要なことである。しかし不動産市場の調整局面を、安心して見ていられる状況でもない。このことを念頭に置くようにということだった。続いて記事は3つのポイントを挙げている。

1) 供給の増加

押さえておくべきことは、不動産には強い“金融属性”があるということだ。これまでも通貨政策に大きな影響を受けてきた。しかし今、受けている影響は需給バランスによるものだ。供給が増加したからである。調整に入って以来、北、上、広、深、の一線級都市では、今年に入って供給された住宅用地は230カ所、前年比50%増加している。北京は特に多く、70カ所380%も増加している。これこそ価格安定の要因だ。

2) 負債の圧力

不動産企業の負債は増加した。上海、深センのA株に上場136社の今年第三四半期までの負債総額は、6兆400億元となり、前年比23.2%増えている。大手はまだしも、中小は非常に厳しい状況にある。例えばある中小不動産会社の負債は、税引き前利益の数十倍である。省の国有資産監督機構が機能していないのだ。中小は負債を減らさなければならず、新事業どころではない。

3) 一~二線級都市にはチャンス

一線級都市の不動産取引量のピークは2015年だった。二線級都市は2016年、三~四線級都市のピークは今年である。三~四線級都市が好調なのは、在庫を処分したからである。興業証券の調査によると、三~四線級都市住民の住宅購入資金手当てのうち、74%が住宅ローンその他の負債であった。過去、三~四線級都市住民の負債がここまで増えたことはない。したがって2018年の不動産市場で期待の持てるのは、一~二線級都市の方である。業界ではリスクもチャンスも共存しているとみている。

大切なことは、特色のある街作り、長期ローンマンション、産業用不動産等などゆったり資金の回るプロジェクトは、国家の支持を受けやすい。そしてREITなど新方式で集めた資金も入りやすくなる。碧桂園や万科など企画力のある会社であれば、十分対応できるだろう、とここでも碧桂園の名が出てきている。

以上のように、供給の増加と資金の不足から、不動産会社は当局受けのよい物件を開発していく。そして当局はバブルの芽をつぶす政策を続ける構えだ。こうした多少息苦しい状況の中で、企画力のある会社だけは、しっかり伸びていく。この辺りが2018年のイメージではないだろうか。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)