SUBARU <7270> のルーツは太平洋戦争までの航空機メーカーだった中島飛行機にある。創業期に元航空技術者たちが自動車の開発に携わってきたことから、同社の自動車は航空機に通じる機能性・合理性を優先しているのが特色だ。

とりわけ走行性能に特化した技術志向が強く、「四輪駆動」と「水平対向エンジン」といった技術は、スバリストとの異名を持つファン達から熱烈な支持を得ている。そのSUBARUの社長が、この6月には交代するという。ここでは、SUBARUに今何が起こっているのかを垣間見ることにしたい。

スバル,SUBARU,社長交代
(画像= Catrin Haze / shutterstock.com)

「中興の祖」と呼ばれる吉永泰之社長

現社長の吉永泰之氏は、2011年6月の就任以来、2012年には2月に軽自動車の生産を終了したか思えば、翌3月にはトヨタ自動車 <7203> との共同開発車を商品化、翌年3月にはSUBARU初のハイブリッド車を発売するなど、矢継ぎ早に業容を変貌・拡大してきた。

同社の業績を見ても、2010年には65万台弱だった年間世界生産台数は、2017年には107万3000台強と、実にこの間の伸びが165%に達している。同社の2017年3月期売上高は3兆3260億円で、これは5期連続の増加になる。そして2017年4月には、「富士重工業」だった社名を現在の「SUBARU」に変更している。

「スバルブランド」を揺るがす問題の発生

ところが2017年10月になって「スバルブランド」の信頼を揺るがす問題が発覚することになる。「無資格者完成検査問題」がそれだ。車両の完成検査をするためには資格を持っていることが必要なのだが、資格を与えられる前の従業員がこの検査に携わっていたというのだ。無資格検査の発覚は日産自動車 <7201> に次ぐ2社目となったのだが、その後完成検査の在り方自体にも検討が加えられているという。

さらに同年12月には「燃費データ書き換え問題」が発生する。前述の問題を受けて実施した聞き取り調査で、一部の完成検査員が燃費試験の計測値を書き換えていたと回答したのだ。この問題は事実関係の調査の結果、「抜き取り検査工程」の一部で測定値の書き換えがあったことを明らかする2018年3月2日の吉永社長の会見に繋がる。燃費が一定の範囲におさまるように、測定値を不正に改ざんしていたのだ。

経営トップの交代へ

こうした一連の問題の中、吉永社長を含む経営トップ4名が2018年6月の株主総会をもっていっせいに退任することになった。新社長となるのは、現在専務執行役員で海外第一営業本部長兼スバル・オブ・アメリカ会長を務めている中村知美氏だ。1959年5月生まれで、慶應義塾大学を卒業後、1982年に富士重工に入社、国内営業本部や経営企画部を経て、グローバルマーケティング本部、海外営業本部などで活躍してきた人物だ。

経営トップの交代は、上記の2つの問題の責任をとった格好なのだが、ここで注目されているのは、吉永社長が退任後に代表取締役会長(CEO)に就任することだ。この点について吉永氏は、一連の問題について「投げる」つもりも「逃げる」つもりもないと断言している。

期待される新体制

いずれにせよ、これからの自動車業界には電気自動車の台頭や自動運転技術の向上など、大きな変革が待ち受けている。SUBARUが衝突被害軽減ブレーキの分野で先鞭をつけ、今も高い知名度を誇っている「アイサイト」に関しても、自社開発を終了させ、他社製品に鞍替えするという。

技術の高さと走りへのこだわりで多くのファンを獲得してきたSUBARU。新体制が持ち前の技術力を存分に発揮して、来るべき「自動車新時代」に存在感を示し続けてくれることを期待したいところだ。(ZUU online 編集部)