2018年4月から、ビールの定義が変わることを御存知だろうか。2017年税制改正によって、酒税法が改正され、課税対象としての「ビール」の範囲が拡大することになった。これまでビールとされてこなかった酒もビールと称されることになる。

ビール,発泡酒,新ジャンル
(画像=PIXTA)

110年ぶりに麦芽比率を緩和

もっとも素朴なビールは、麦芽、ホップ、水という三種類の原料を用いる。今日では、発酵を助けたり、品質を調整したりする目的で、米、トウモロコシ等の副原料を加える。ビールの定義は、この副原料にかかわる。

酒税法は、主に2つの観点からビールを定めている。ひとつは「副原料の使用量」だ。これを麦芽比率という。もうひとつは「副原料の種類」だ。従来は、麦芽比率67%以上とされていたが、今回の改正で、麦芽比率50%以上と緩和された。許される副原料の比率を引き上げたのだ。

麦芽比率は、1905年に初めて77%以上と定められた後、1908年に67%以上とされ、今回まで変わらなかった。つまり麦芽比率の緩和(変更)は110年ぶりなのだ。

牡蠣や昆布を入れてもビール?

認められる副原料は、これまで米、麦、トウモロコシ等わずかな品目に限定されていた。

改正後は、果実、胡椒、山椒、ハーブ、野菜、そば、ごま、蜂蜜、食塩、味噌、茶、コーヒー、ココアなど、様々な品目が加えられた。中には、牡蠣、昆布、わかめ、鰹節といった、どんな味となるのか想像もつかないものもある。これらの追加された副原料は、香り付けや味付け目的で、麦芽の重量の5%までの使用が認められる。

これまでは、麦芽比率67%に満たないもの、米、麦、トウモロコシ等の限定された原料以外の副原料を加えたものは、ビールではなく「発泡酒」として取り扱われてきた。今後は大手を振って「ビール」と名乗ることができる。

改正の目的はビール市場の活性化

酒税法改正の目的は、ビール市場の活性化だ。「ビール」として販売できる範囲が拡大すれば、それだけ様々な商品を開発して売ることができる。副原料に果実、ハーブ、蜂蜜などが加わったことで、女性向けなど、これまでの「苦い」イメージから、ビールを敬遠してきた客層にアピールできる可能性が広がる。

そば、ごま、牡蠣、昆布などは、特産品を活かした「御当地ビール」を後押しするだろう。クラフトビールのメーカーは、鰹節のアミノ酸で発酵を促進する商品などを企画している。また、ビールのアルコール度数を上げると、アルコール臭などが弱点とされてきた。しかし、メーカーは、臭みをハーブで抑えた商品を販売するという。

新商品が、続々と発表されるだろう。消費者にとっては、多様な新ビールを楽しむ機会が増えることになり、うれしい限りだ。

ビールは減税 発泡酒と新ジャンル(第3のビール)は増税

ただ、喜んでばかりいるのは早計だ。2017年の税制改正は、ビールと発泡酒を含むビール系飲料の税率を統一することも内容としている。

ビールの歴史は、課税当局とメーカーの知恵比べの歴史とも言える。少しでも安くビールを届けたいというメーカーの思いが、低額でビールに似た味を楽しめる発泡酒を生み出し、発泡酒への課税が強化されると、麦芽を全く使用しない「新ジャンル(第3のビール)」を誕生させた。

改正前の酒税を見てみよう。350ミリリットル缶の販売価格の例(税込)とその酒税額の例を比較すると、ビール223円:77円、発泡酒165円:47円、新ジャンル144円:28円(いずれも前者が小売価格の例、後者が酒税額の例)である。小売価格に占める税額の割合は、ビール34.5%、発泡酒28.4%、新ジャンル19.4%と格差が著しい。この格差を是正するというのが、財務省の言い分だ。

今後の改正では、ビール系飲料3種の税率を、2020年、2023年、2026年の3段階に分けて、徐々にビールの税率を下げる一方、発泡酒と新ジャンルの税率を上げることで、最終的に同一の税率とすることが予定されている。

要するに、税率だけ見ると、ビールは安くなり、発泡酒と新ジャンルは高くなるのである。

本当の狙いは「税収の確保」との意見も

ビールと発泡酒の消費量は1994年をピークとして年々減少し、新ジャンルは増加している。しかし、全体の消費量も減少しており、新ジャンルの増加は、ビールと発泡酒の不振を穴埋めできていない。

課税当局からすれば、税収の低下を放置できない。当局は、この税制改正によって、増収を図る意図はないと説明しているが、額面どおり受け取るむきは少ないのではないか。

発泡酒や新ジャンルは衰退する可能性も

発泡酒と新ジャンルの税率がビールと同じになり、しかも、ビールの定義が広がり、ビール作りの選択肢が増えることから、今後、ビールの拡大に押されて、発泡酒と新ジャンルの先行きは不透明感がある。税率統一後もビールより低価格を維持できるという意見もあるが、価格差が縮まることは避けられず、存在感を示すことができるかどうか心もとない。

もしも、発泡酒と新ジャンルという分野が衰退すれば、結局、ビールを飲む経済的な余裕がある家庭には有利で、節約して発泡酒や新ジャンルを飲んでいた家庭には打撃となる可能性もある。これまでビールを主力としてきたメーカーにせよ、発泡酒と新ジャンルを主力としてきたメーカーにせよ、今後は、ビール重視にシフトすることは避けられないだろう。ビールが作りやすくなる以上、税率の低下以上に、手が届きやすい価格になる可能性がないわけではない。

そうなれば我々消費者は、今まで以上にビールを楽しめるようになるかもしれない。(ZUU online 編集部)