シンカー: 不安定なマーケットがもたらす不安が、米国の目先の景気腰折れへの懸念を拡大させているようだ。財政政策に支えられた家計のファンダメンタルズは、まだ貯蓄率が下がっていないことからみても、しばらくは堅調さを維持し、消費のペントアップ需要はあるとみられる。FEDの政策金利が中立水準に到達するのは来年であり、政策の効果ラグを考慮すれば、金融引き締めが景気を大きく減速させるのにはまだ時間がかかるだろう。冷静に考えれば、米国の景気減速が強くなるのは2019年ではなく2020年になる可能性が高い。しかし、米国の景気後退があったとしても、それは構造調整ではなく速度調整であり、ITバブル崩壊やリーマンショックとは異なるものとなろう。家計の貯蓄率は高水準であり、企業の貯蓄率でみたレバレッジも大きくはないからだ。よって、景気後退があったしても2四半期連続の若干のマイナス成長で、年を通してみれば若干のプラス成長となるようなものとなる可能性が高い。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

最新のSGグローバル・レポートと要約

●米国経済(11/30 ):FOMC議事要旨…徐々にギアを変更

11月FOMC議事要旨によるとFRBは、12月18・19日の会合で25BP利上げ(FFレート誘導目標引上げ)と共に、超過準備預金金利(IOER)を20BP引上げる意向だ。一方、11月FOMCでは声明文を将来変更することも議論されていた(特に利上げパスに関する「さらなる段階的な引上げ」の変更)。FOMCは「中立ゾーン」に入りつつあり、これは賢明な動きとみられる。しかし、これを「緩和的シグナル」と読まないようにしたい。投票権者の「ほぼ全員が」景気拡大の持続と、さらなる段階的な金利引上げは整合すると考えていた。最後に、FOMCでは様々な金利レジームが議論されてきた。その対象には、金融危機以前の準備金が限定的な状態と、現在の準備金が豊富な状態が含まれる。高官達は現在のシステムを好んでいた。またバランスシート縮小を早すぎる時期に終わらせることはない、とも示された。

●米国経済(11/29):パウエル議長: 初心者的な失敗の修正

パウエル議長のスピーチは市場でハト派的と受け止められたが、弊社はこれを何週間か前の初心者的な失敗を修正する機会に過ぎなかったとみている(つまり“中立からほど遠い:LONG WAY FROM NEUTRAL”という発言)。弊社は今年12月、来年の3月、6月にそれぞれ25BPの利上げを行い、そこで利上げをストップするという見方を続けている。

●英国経済(11/29):ブレグジットの現状…合意の可能性が依然高い

英国とEU27カ国の間で離脱協定案が合意に達した。これにより英国では不満の声が噴出しており、今週はメイ首相が指導力を問われる可能性が非常に高い。合意案を議会で承認させることは非常に困難で、否決される公算が(少なくとも第一案では)かなり大きい。だが最終的には、メイ首相は(離脱協定を議会に承認させることに)成功すると弊社は考えている。

本レポートでは、離脱協定で最も議論が起こっている部分を要約した後に、各シナリオの可能性を評価してディシジョン・ツリーとして示した。

●アセットアロケーション(11/28):景気サイクルが再同期化、米ドルから他に資金を分散

弊社は、数年にわたる異例の流動性供給の後にFRBの金融政策の正常化/引き締めが債券と株式の双方に打撃を与えるとみていたため、昨年9月(MAP 4Q17)と12月(MAP 1Q18)の2度にわたりマルチ・アセット・ポートフォリオ(MAP)のリスクを大幅に低減した。2019年後半には次の米リセッションに備えたポジションを取るのに最適なタイミングがより明らかになると思われるため、今のところグローバルなリスク量を引き上げる理由は見当たらない。

2019年も再びキャピタルゲイン獲得のポテンシャルは限られると弊社はみている。米国債とインフレ連動債、および一部の新興市場資産(特に中国)を除くほとんどの金融資産が依然かなり割高なこと、FRBが利上げを続け、世界経済から流動性を引き揚げるとみられる一方で債券価格はかつてないほど上昇していること、そして今回の中間選挙でトランプ大統領が下院で過半数を失い、新たな財政景気刺激策の可能性が極めて低くなったことなどの逆風が重なっていることがその理由である。

景気サイクルの再収斂とFRBに関する新たな非対称性:しかし、市場の状況はいくつかの点で2018年とはやや異なると予想される。2019年は景気の再収斂(RE-CONVERGENCE)の年となり、もはやG1だけのストーリーではなくなる(つまり、米経済が減速する一方で他の国々が回復)と予想される。FRBの政策の非対称性により、市場の期待は、一段の引き締めとイールドカーブのフラット化への不安から、(広範なボラティリティ上昇の明確な源泉である2020年のリセッションに備えた)引き締め抑制とブルスティープ化への不安の間で揺れ動くと思われる。一方、割高な米ドル(エクスポージャーを3ポイント引き下げて29%に)は2017年初に始まった構造的な下落軌道に戻ると予想され、グロース株のバリュエーションは引き続き切り下がり、新テクノロジーに対する規制厳格化と課税正常化(どちらも機は熟したと弊社はみている)からも打撃を受けると思われる。弊社は引き続き米10年国債に大きなエクスポージャー(13%)を維持するよう勧める。

我々は新たな形の「ポピュリズム」にやや慣れつつある:2016年6月のBREXIT国民投票と、その他欧州(特にイタリア)、米国、およびトルコの選挙以降、市場は「ポピュリスト」政党の台頭に対処してきた。それらの政党はほぼ全て大規模な財政支出を打ち出し、最終的には市場の力(MARKET FORCES)が例えば通貨(トルコ、英国)、金利(イタリア)、または株式(より最近では米国)への大規模なアタックを通じてそれらの政党の政策に明らかな制約を課している。

経済的な力として「ポピュリズム」はバランスを変化させ、財政支出の拡大が中央銀行に断固たる行動と引き締めを迫る圧力をもたらしている。米国以外でも、中央銀行が次の景気下降を前に政策余地を再構築している。2019年はポートフォリオをそれに適合させ、ECBと、その後に日銀が両地域の景気が回復している間にQEの巻き戻しを始めるのに備える必要があろう。弊社は主に株式を通じてユーロと円へのエクスポージャーを引き上げる(前者は+7.5ポイントの38.5%、後者は+5ポイントの15.5%)。バリュー・スタイルへのエクスポージャーは、ECBと日銀のQE脱却から恩恵を受ける有効な手段である。

●債券市場(12/3):トランプ 1、パウエル 0

債券市場はパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長のハト派的なコメントを称賛している。11月30日から始まる20カ国・地域(G20)首脳会議において、トランプ米大統領は市場をさらにハッピーな気分にさせてくれるだろうか? 最近のFRB高官発言に見られる微調整は、市場を危険なほどハト派寄りの領域へと押し戻した。利上げのスピードや引き締め局面の長さをめぐって一段と不透明感が増しており、短期金利のボラティリティーと比べて長期セクターのボラティリティーは相対的に上昇していくだろう。

欧州では、英国の欧州連合(EU)離脱問題はさておき、イタリアの銀行による資金調達難が高い関心を集めている。新型の貸し出し条件付き長期リファイナンスオペ(TLTRO)が12月中に発表されることはなさそうだが、ECBは2019年初めには決断を下さなければなるまい。しかし、それが来年後半の金利正常化を妨げることはないだろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司