2018年11月、ビットコインキャッシュ(BCH)のハードフォーク(分裂)問題で仮想通貨市場が揺れ、市場全体が急速に冷え込んだ。2017年8月の誕生時は約2万円だったビットコインキャッシュは、同年12月には約40万円まで高騰したが、1年後の2018年12月現在は約1万円にまで下落している。果たして今後はどうなるのだろうか。

ビットコインキャッシュはビットコインの問題解決を目指して誕生した通貨

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(画像=PIXTA)

ビットコインキャッシュは、2017年8月1日にビットコインのブロックチェーンからハードフォークして誕生した仮想通貨である。

ハードフォークした理由は、ビットコインが抱えていた「スケーラビリティ問題」を解消するためだ。ビットコインは、ブロックサイズが1MB(メガバイト)に限られており、増え続ける取引量に対して処理が追い付かず、送金が滞ってしまっていた。これが「スケーラビリティ問題」だ。

その問題を解決すべく、ビットコインのプログラムに携わる開発者と、マイニングでブロックチェーンを支える、中国の大手マイニングプールを中心としたマイナーとの間で議論が行われた。

開発者側は、ビットコインの取引データを軽量化して処理速度を速めるsegwit(セグウィット)と呼ばれるプログラムの導入を提案したが、マイナー側はそれを拒否し、ビットコインのブロックサイズを8MBに引き上げる提案をしたのである。

結果的には、開発者達の主導でsegwitが導入された。それに反発したマイナーたちは、ビットコインのブロックチェーンをハードフォークさせ、ビットコインキャッシュが誕生した。

ビットコインキャッシュのハードフォーク騒動の始まり

ビットコインキャッシュには、開発やアップデートに携わる複数の取引先(クライアント)が存在する。そのクライアント同士が議論を行い、ビットコインキャッシュのネットワークのアップグレードのために、年2回の定期的なハードフォークの実施を予定していた。

2018年に入り、1回目のハードフォークが5月15日に行われた。ブロックサイズが8MBから4倍の32MBまで拡張されたことにより、取引の処理スピードが向上した。

さらに、基本的なスマートコントラクトが実装され、決済だけでなく取引の中に条件や制約を組み込むことができるようになった。ハードフォークを重ねるごとに、ビットコインキャッシュは実用化に向けてより使いやすく、より便利になっていく予定だった(スマートコントラクトに厳密な定義はないが、「プログラム化された契約を自動的に実行させられるプロトコル」「ブロックチェーン上で契約をプログラム化する仕組み」などと解説されることが多い)。

BitocoinABCとBitcoinSVによる対立

騒動の発端は、2018年の2回目に行われる予定だったハードフォークのアップデート内容について、ビットコインキャッシュのコミュニティ中で意見が分かれてしまったことだった。

影響力が強いクライアントであるBitcoinABC(ビットコインエービーシー)の提案の中には、ビットコインキャッシュのブロックチェーン上でトークンを発行することができるWHC(ワームホールプロトコル)や、ビットコインキャッシュを決済以外で使えるようにするためのDSV(op_checkdatasigverify)が盛り込まれていた。

BitcoinABCは、大手マイニング企業であるBitmain社のCEOジハン・ウー氏と、仮想通貨のスタートアップに関わったロジャー・バー氏がスポンサーについている。

この提案に対して異議を唱えたのが、ビットコインキャッシュのクライアントのBitcoinSV(ビットコインエスブイ)である。BitcoinSVは、ビットコインキャッシュにWHCやDSVは不要であると指摘し、ブロックサイズを128MBに引き上げることと、オリジナルのOPコードを復活することを提案した。

BitcoinSVは、自称サトシナカモトのクレイグ・ライト氏や、大手マイニング企業であるCoingeek社のCEOカルヴィン・エアー氏がスポンサーになっている。

通常であれば、お互いの意見が合わなかった場合は、ハードフォークを行い、それぞれのブロックチェーンを独自に開発することで問題は終息する。しかし、今回はBitcoinSVがハードフォークを認めなかった。もし、BitcoinABCがハードフォークをした場合には、ブロックチェーンを混乱させる攻撃を仕掛けることを示唆したので問題が長期化し、市場に影響を与えたのだ。

結果的には11月16日にハードフォークが成功し、BitcoinABCの支持するブロックチェーンがビットコインキャッシュの看板を受け継いだ。一方、BitcoinSVが支持するブロックチェーンは「BSV」という仮想通貨として新規のティッカーを与えられ、この騒動は終息した。

ビットコインキャッシュに将来性はあるのか

ひと騒動あったビットコインキャッシュだが、実用化に向けた取り組みが世界中に行われている。

●仮想通貨取引アプリで取引できるようになった

2018年7月、仮想通貨取引アプリ「ロビンフッドクリプト」でビットコインキャッシュが取引できるようになった。このアプリは2018年2月にサービスが始まり、今ではビットコイン、イーサリアム、ビットコインキャッシュ、ライトコインの4種類をトレードできる。手数料が無料なので、多くのユーザーを取り込むことが期待されている。

そして、Facebookで有名になったウィンクルボス兄弟が運営する仮想通貨取引所「Gemini(ジェミニ)」もハードフォークの騒動で上場が延期されていたが、12月8日からビットコインキャッシュの取り扱いを開始した。

ロビンフットもジェミニもアメリカに拠点を置いている。アメリカでは、仮想通貨の上場が法律で厳しく制限されているので、これらのニュースはビットコインキャッシュの価値が認められていることを表している。

●ビットコインキャッシュを基軸通貨とした取引所の増加

ビットコインキャッシュを基軸通貨とした取引所が増えている。 中国の大手マイニングプールであるViaBTCは、ビットコインキャッシュを基軸とした取引所「CoinEX(コインエックス)」を2017年12月にスタートしている。

その他、香港に拠点を置く取引所「KuCoin(クーコイン)」や「OKEx(オーケーイーエックス」もビットコインキャッシュの基軸を採用した。

さらに、Bitcoin.comのCEOでもある前出のロジャー・バー氏は、ビットコインキャッシュを基軸とした仮想通貨取引所を出すことを計画しているとBloombergのインタビューで話している。

ビットコインキャッシュを基軸とした取引所が増加すれば、多くのユーザーが利用することで活況が期待できる。

●決済システムの導入——bitbayやBITPoint Pay

2018年8月、ビットコイン決済の大手「bitpay」がビットコインキャッシュ決済に対応した。ビットペイは世界中でビットコイン決済を展開している企業だ。今回ビットコインキャッシュ決済に対応したのは、ビットコインよりも決済スピードが速く、送金手数料が安いからだ。

しかし、ビットペイは日本でのサービスには対応していない。そこで、日本で名乗りを上げたのが「BITPoint」だ。

株式会社ビットポイントジャパンが展開する店舗決済サービス「BITPoint Pay」では、2018年6月からビットコインキャッシュ決済に対応している。ウォレットアプリの「BITPoint Wallet」にビットコインキャッシュを入れておけば、ビットポイントペイ導入店で簡単に決済ができる。

このように、ビットコインキャシュによる決済は世界中で増えているのだ。

著名人の動き

様々な業界の著名人も、ビットコインキャッシュの将来性に期待している。仮想通貨事業に熱心なSBIホールディングスのCEO北尾吉孝氏は、リップルのみならずビットコインキャッシュも支持する意向を表明している。

SBIグループのSBIバーチャル・カレンシーズ株式会社は2018年6月に仮想通貨交換所「VCTRADE(VCトレード)」のサービスを開始した。VCTRADEでは、ビットコインよりもビットコインキャッシュの取り扱いを先に行っている。

北尾氏は11月のハードフォーク問題に強い懸念があったが、この構造を改善するためにマイニングシェアを増やそうと意欲を見せる。

SBIグループは2017年8月にSBI Crypto株式会社を設立、2018年から海外でビットコインキャッシュのマイニングを行っている。北尾氏はこの事業を拡大し、ビットコインキャッシュのマイニングシェアの3割を獲得することを目標としている。

ビットコイン事業に多額の投資をしているロジャー・バー氏は、ビットコインキャッシュが本物のビットコインだと発言し、ビットコインキャッシュの誕生時から支持している。今回のハードフォークに対しては、BitcoinABC主導で行われたアップデート内容を肯定的に捉えている。

ビットコインキャッシュは発展途上

仮想通貨は誕生してから日が浅く、日々開発が進んでいる状況で、これはビットコインキャッシュでも同じだ。決済システムの導入や仮想通貨取引所の上場は日々行われているが、利用者が増えれば新たな問題にぶつかり、改善案が議論されることになるだろう。その時には、今回のハードフォークのような問題が出てくる可能性は十分に考えられる。

しかし、それが送金スピードの向上や利便性につながり、ビットコインキャッシュの将来性を担保するのかもしれない。ただし、価格に関してはボラティリティが高く、市場もまだ不安定。これから購入する人は、慎重に判断する必要があるだろう。(ZUU online編集部)