ファストファッション全盛の昨今、その対極に位置するのが、日本では絶滅危惧種と思しきテーラーメイドのスーツだ。1人の仕立て職人(テーラー)が生地選びのお手伝いに始まり、採寸、仮縫い、本縫そして仕上げまで精魂込めて、お客様にお届けする。稀にお客様自身が来店されることもあるが、テーラーが生地見本を複数持参して顧客宅を訪問するのが基本だ。彼らテーラーの仕事ぶりは、プライベートバンクの本質と実によく似ている。

一度テーラーメイドの着心地を味わってしまうと、もう他のスーツは着られない。人間の体型はA体だのB体だのといった型枠に沿って作られるわけでは無く、当然千差万別。左肩が下がっているとか、右手が長いとか、或いは猫背など、ひとつとして同じものは無い。その一つひとつにピッタリとフィットするように仕立て上げる。同じところで数着作れば、優秀なテーラーなら顧客の動作の癖まできっちり把握して、より着心地の良いスーツを作ってくれる。だから親子2代に亘って同じテーラーが出入りしているなんてことはよくある話だ。

何故テーラーは生地選びの時から顧客の自宅に赴くのか。かつて知り合いのテーラーにその理由を聞いたことがある。彼曰く、顧客の日常生活を垣間見ることで、顧客の好みなどより多くのことが分かるからだそうだ。一見のカウンター越しの僅かな会話だけでは、お客様の投資特性が分からないのと一緒。プライベートバンクの本質は、このテーラーがスーツの世界で提供している効用と同種のものを、資産管理や資産運用面で提供することと言える。更に言えば、一流のテーラーには、既成の型紙を100種類、いや1000種類用意しようとも適わないように、一流のプライベートバンカー(以下、バンカー)にはお仕着せのアセットアロケーションや、パターン化された運用では歯が立たない。その為に求められる資質などについては別途論じるとして、だからこそ前回述べた通りバンカーの物理的なキャパシティは一日2件の面談が精一杯となる。そこには生地は選べるが汎用の型紙を基本に仕立てるイージーオーダーや、いわんや吊るしのスーツとは別次元のクオリティがある。

一流のプライベートバンカーの年収は100万ドルを超える

プライベートバンカー,年収
(画像=taa / pixta, ZUU online)

実は、そうした一流のバンカーは、彼(彼女)自体も所得が高い。金融機関がラストリゾートと目してこぞって集まる以上、富裕層ビジネスの人材獲得競争は熱を帯びているからだ。一流のバンカーには相応なオファーレターが提示される。前回確認した「所得金額階級別世帯数の相対度数分布」で言えば、外資系なら上位1.2%には余裕で入るだろう。ただ外資系は所得に見合った分を稼がなかったら、簡単に席が無くなる場合もあるので、その分バンカーが顧客を見る目もシビアだ。またプライベートバンクの経営側から見るとコストが高いバンカーには相当に稼いで貰わないと困る。