前回は「ハウスビュー」などの取扱い方という視点からプライベートバンカー(以下バンカー)やプライベートバンクを見分ける方法などを論じた。今回は逆にバンカーやプライベートバンクから見たお客様(富裕層)について論じてみたい。ずばり「貴方は(大切な)富裕層顧客かどうか?」という問題である。もしこの自己認識と、相手から見た認識が違っていると、仮に取引が始まったとしても双方にとってハッピーな結果にはならない。

スチュワードシップ」がバンカーやプライベートバンクに求められる基礎的要件であり、それはどういう意味かはご理解頂いたと思うが、当然のことながら、それを相手に求めるならば、顧客側も相応の対価を払わなければならない。社会の公器と言われる金融機関も民間企業である以上は「Give and Take」であり、「Win-Win」でなくてはならないからだ。時々この発想が無い顧客側の「Take and Take」のような「あるべき論」を耳にすることもあるが、資本主義の総本山である金融機関に聞く耳がある筈がない。

勿論筆者も金融機関側の酷い話が山とあることは知っているし、だからこそ性悪説で見ているのだし、そこは全く否定しない。だが慈善事業を強いるような論調にも同調は出来ない。

映画『バットマン』に登場する執事(スチュワード)のアルフレッドも単なる善意の塊で私財を投じていたわけではない。当然生活の糧が得られていたからこそブルース・ウェイン少年が立派になるまで誠実に仕えてこられたのだ。それはプライベートバンクに限らず、全ての金融機関、いや全てのビジネスに共通して言えること。ボランティア団体を除いて、資本主義社会では民間企業は全て「利潤追求」が経営の第一課題だ。「顧客第一主義」を標榜する企業は多いが、それは「株主価値を最大化する」為には、その方が正解だからだ。もしやり方が間違っていれば、次の株主総会で社長は解任されるだろう。実はこの事が、今後も多くの議論の中で大前提となることを忘れないで欲しい。繰り返しになるが、金融機関は慈善事業ではなく、収益事業を行う団体だということだ。

富裕層ビジネスにとっての「富裕層」とは何か?

富裕層,資産運用
(画像= jm1366 / pixta, ZUU online)

さて、話を「貴方は(大切な)富裕層顧客かどうか?」という問題に戻そう。昨今、各方面で使われるようになった「富裕層」という言葉だが、実はこの「富裕層」という言葉ぐらい定義が曖昧なものはない。仮にインターネットで「富裕層」という単語を検索しても明確に統一された定義はみつからない。そもそもそれが「資産規模」なのか、「所得水準」なのかも判然としない。

はっきり言えば「富裕層ビジネス」にとっての「富裕層」とは、そのビジネスモデルに利潤をもたらすならば「富裕層」となる。どんなに大地主で固定資産税を沢山納めていようと、金融取引に投じられる金融資産が充分で無ければ、少なくともプライベートバンクやバンカーにとっては一義的にはターゲットとなる「富裕層」ではない。ただその土地を担保にして取引が出来るとか、或いは相続税対策が必要というような話になれば状況は全く変わって来る。

また企業オーナーの方で「自社株」が資産の殆どで、それは手放すに手放せないものだとすれば、時価換算の金融資産規模が幾ら大きくても不稼働資産なので、当面はターゲットとなる「富裕層」ではない。何故ならやはり金融取引が発生しないからだ。上場企業のオーナーで、自社株をお預かりして貸株に回すところから始めるなどの方法もあるが、それだけでは中々キャンペーンでも無い限りバンカーは動かないだろう。

年収ならば「最低ライン」は2000万円以上だが、実際は…

一方で所得金額の方から見てみよう。下記のチャートは厚生労働省が発表している「2019年 国民生活基礎調査の概況」にある、日本の「所得金額階級別世帯数の相対度数分布」だ。税制改正審議などの時に「年収1500万円以上の高所得者層への課税強化」などと言われる場合があるが、確かにそれより上のゾーンは全世帯の僅か3.3%程度しかいない。