この記事は2025年7月18日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「建築コストの上昇一服も、建設の遅れは今後も継続か」を一部編集し、転載したものです。

多くの建設計画が、建築コストの急増や工期の延長などに直面している。日本経済新聞の調査によると、全国の市街地再開発事業の8割が完了時期の延期や費用の増加に直面している。民間事業はもちろん、学校や病院をはじめとする公共的な事業でも、計画遅延や建設の断念が報告されている。福祉医療機構の調べでは、2023年度の病院の建築費単価は、12年度と比べて1.9倍に上昇したという。
着工統計における最近の特徴として、着工床面積の減少と、工事予定額の床面積単価の上昇が挙げられる(図表)。現在、建設専門人材の不足や、24年から適用された時間外労働の上限規制などにより工期が長期化している。そのため、22年から24年にかけて着工床面積は14%減少した。一方で、床面積単価はこの2年間で、1平方メートル当たり22万円から28万円に上昇(27%増)している。
なお、今年に入ってからも床面積単価は大きく上昇している。25年1~5月期の平均床面積単価は、全国で1平方メートル当たり33万円(24年平均から15%増)、東京都と大阪府で同45万円(東京都同17%増、大阪府同54%増)だった。
そうした中で、建設資材価格は頭打ちの傾向が見られる。企業物価指数における「投資向け用途(建設用材料、資本財)指数」は、24年半ばからほぼ横ばいで推移。「建設資材価格指数(建築、東京)」は、20年末から22年後半までに5割ほど上昇したが、その後は横ばいからわずかな下落傾向を示した。25年5月に生コンクリートの契約条件見直しなどで建設資材価格指数(同)が急上昇したが、これは数年ぶりの大幅な上昇だった。資材価格の頭打ち基調には、外国為替が円高方向に転換していることも要因の一つとみられている。
他方、建設業の賃金は大幅な上昇が続いている。14年から24年にかけて建設業の現金給与額は21%増(全産業では10%増)、公共工事の設計労務単価は46%増だった。
物価上昇が続くなか、事業者や投資家は、今後も建築コストがかなりのペースで増加していくと予想している。確かに当面、建築コストの増加傾向は続くと思われるが、各種統計を見る限り、一部のデータでは頭打ち感も出ており、今後は急上昇からなだらかな上昇へと多少なりとも落ち着く公算が大きい。とはいえ、この数年で建築コストの急増や人手不足が進行したことで、数年前に策定された建築計画や再開発計画の見直しは、これからも続く可能性が高いだろう。

大和不動産鑑定 主席研究員/竹内 一雅
週刊金融財政事情 2025年7月22日号