本記事は、中野 晴啓氏の著書『貯め方・使い方の不安がスッと消える! 女子が自分らしく生きるためのお金計画』(翔泳社)の中から一部を抜粋・編集しています。
どれくらいの知識で投資を始めていい?
(女性)投資について何も知らないと、いざ始めようと思った時に怖さが倍増してしまいます。
(中野)たしかに全く知識がない状態で投資に挑むのは、ハードルが高いですよね。
(女性)どのくらい知識を身につけたら、投資を始めていいのでしょうか?
(中野)知識を完璧にしてから……と思っていると、きっと一生投資できません。まずはその理由を説明します。
知識にゴールはない!
「投資は難しい」というイメージがあるからか、知識がないと始めてはいけないと考える人も多いです。特に、自分に不利なことが起きた時、例えば投資で損をした時にどのように対処していいかわからないと、不安になりますよね。
でも「知識をちゃんと身につけてから投資を始めよう」と思っていると、おそらく一生スタートできません。なぜなら、投資の勉強に終わりはないからです。知識を身につけようとして、どれだけ頑張ったとしても、「まだ知らないことがある!」と不安になって、次から次へと新しいことを勉強したくなってしまうもの。それを全部学んでいくのは、不可能です。そのため、どこかで区切りをつけることになるのですが、今度は「どこで区切りをつければいいの?」という話になりますよね。結局、ゴールが見えないまま時間だけが過ぎてしまうので、それなら知識ゼロで始めるのは避けつつ、ある程度学んだら一刻も早く投資を始めてしまったほうが時間を有効活用できますよ。
「とにかく教えて!」では身につかない
私も「とにかく投資について教えてください」と言われることがありますが、正直このお願いには応えることができません。なぜなら、あまりにも表面的すぎて十分なサポートができないからです。
例えばPCの調子が悪くなった時、誰かに「とにかく直して」と頼むこともできますが、それだけでは次に同じ不具合が起きても自分で直せませんよね? ところが、PCの基本的な仕組みを少しでも知っていれば、どうしてこの不具合が起きているのかがわかり、自分でもある程度対処できるようになります。その知識が少しずつ積み上がっていけば、トラブルも怖くなくなります。
大切なのは、わからないからといって誰かに丸投げしないこと。これは投資でも同じです。「とにかく教えて!」という姿勢は、何を教えてほしいのかさえも見えていない状態です。せめて自分が知りたいことを明確にし、他の人に聞くようにしましょう。
まずは、社会や経済の仕組みを知ろう
とはいえ、自分で考えるために何を学べばいいのかわからないと思います。でもここで諦めずに、まずはマクロの視点で物事を捉えるようにしましょう。簡単に言えば、「社会の仕組み」や「経済の基本的な流れ」を知ることです。
「経済」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、私たちは生きている限り、必ず経済に関わっています。例えば、「今はなぜ物価が上がっているのか?」「なぜ預金だけではいけないのか?」といった疑問に対する答えは、実は全て経済の仕組みの中にあるのです。それくらい経済は日常の中に溶け込んでいて、私たちに関係しています。
そして、投資は経済活動1つです。お金が経済に流れていけば、投資先の企業は設備や人材に投資ができ、業績がよくなれば株価も上がり、結果的にお金が増えて投資家も得をする……という流れになっています。お金が潤滑油となり、経済がどんどん膨らんで回っていくのです。逆に考えると、「どうすればお金が増えるのか?」を知りたいなら、「どうすれば経済がよくなるのか?」を考えればいいということです。ただし、経済がよくなるのを妨げるものもあります。それが実際の景気にそぐわない高い金利や悪性インフレなどです。
このような経済の仕組みを一連の流れにして考えると、経済のロジックも見えてきます。同時に、投資やお金が社会の中でどんな役割をするのかがわかるはずです。そうすれば、自分が行う投資の意味がわかり、投資を続ける意味にも思いをめぐらせることができるでしょう。
常に疑問を持っていれば自然に学びのモードに入る
このような経済の仕組みを知っていれば、自分で考えて、自分なりの答えが導き出せるようになります。そうすれば、目の前に不安なことがあっても、焦らずに自分で状況を整理して判断できるようになります。
経済の仕組みを学ぶといっても、教科書や参考書を読む必要はありません。入り口は、ふとした瞬間に出てくる身の回りの疑問でいいのです。先ほど、知りたいことを明確にする必要があると話しましたが、疑問とはまさに「知りたいこと」です。
例えば、「私たちは働くと給料をもらえるけど、会社はなぜそれを払えるのだろう?」という素朴な疑問でもOKです。ちなみにこの答えは、会社がきちんと利益を出して、従業員に還元できているからですよね。ではどうして、利益を出せているのか……と深掘りしていくと、企業活動や経済活動が自然と見えてきます。
また、よくインフレになると投資すべきといわれますが、その理由は意外とわかっていないかもしれません。ちなみに、インフレとは、お金の価値が下がることです。もう少しわかりやすく言うと、「同じ100円で買えるものの量が減る」ということです。
例えばインフレ下では、100円だったお茶が200円になるなど物価が上がってしまう現象が起きます。
値上げしても売れるなら、お茶を作っている会社は原材料費などのコストが上がっても、きちんと利益を出せます。値上げの分で、企業が製造にかかるコストをカバーできますからね。、つまり値上げをしても消費者に買ってもらえるような商品を作っている会社ならば、インフレに打ち勝つことができるということです。
逆に、インフレの中でも商品価格を上げられない企業は、利益を出すのが難しくなってきます。製造コストが上がっても、価格に反映できず、どんどん利益が減ってしまうからですね。これはインフレに弱い企業です。
これを投資の視点で見ると、インフレの中できちんと値上げができる企業に投資できれば、その企業の業績が上がり、いずれ株価が上がって投資での利益が出ることになります。つまり、インフレ時にこそ、本当に強い企業が見えてくるのです。
ただし、すぐに株価に反映されるわけではないので、実際に投資のリターンを得るまでには時間がかかるでしょう。会社に実力があっても、株価は短期的に見れば上がったり下がったりするものです。その間に心配になって焦って株を売ってしまうのは、おそらく経済の仕組みを理解していないから。投資のテクニカルな面ばかりを見ている投資家だと思います。例えば、日々の株価の動きだけを見て、売り買いの判断をする投資家のことです。
でも、経済の仕組みや企業の構造を理解していれば、目先の株価に振り回されなくなります。「この会社は、消費者が必要なものを作っていて、インフレにも対応できる体力がある」とわかっていれば、株価が上がっていくのをじっくりと待てるのです。
芯のある投資家になるために大切なのは、株価ではなく、その会社が経済の流れの中できちんと成果を出しているかを見ることです。長期投資をするならば、経済の流れを理解しておきましょう。
何度でもお伝えしたいのは、まずは疑問を持つことです。「なぜ?」と思って、その理由を調べていくうちに、気づけば経済の仕組みを理解している芯のある投資家になっているはずですよ。
1987年、明治大学商学部卒業。旧セゾングループ内投資顧問会社にて外債ポートフォリオを中心に資産運用業務に従事した後、2006年セゾン投信株式会社を設立、2023年6月に代表を退任。同年9月なかのアセットマネジメント株式会社を設立、2024年4月にアクティブ運用の長期投資ファンド「なかの日本成長ファンド」「なかの世界成長ファンド」の2本の運用をスタートさせた。全国各地で講演やセミナーを行い、長期投資の普及に尽力するとともに、積み立てによる資産形成を広く説き「つみたて王子」と呼ばれる。 公益社団法人経済同友会幹事他、投資信託協会副会長、金融審議会市場ワーキング・グループ委員等を歴任。
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