本記事は、上林 周平氏の著書『部下の心を動かすリーダーがやっていること』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。
「ハッと1on1」で部下の価値観を探る
「相手の前提を揺さぶる質問」で部下をハッとさせる
1on1は「雑談の延長」ではない
具体的にどのような方法で取り組むのか。まず有効なのが「1on1」です。
日本でもここ数年で一般化してきたこの取り組みを、リーダーとメンバーの関係性を深める時間として設計します。特にまだ関係性が浅い部下、転入してきたばかりのメンバー、新卒社員などとは、初期段階で1on1の機会をできるだけ多く設けていきましょう。
1on1はここ数年で一般化しましたが、「何を話せばいいのかわからない」「毎回、近況報告などの雑談で終わってしまう」という声は今も多く聞こえてきます。その理由の一つが、1on1の“目的”を誤解したまま進めてしまっていることにあります。
1on1の本質的な目的は、信頼を土台に「その人の内側に触れる対話」へ少しずつ踏み込んでいくことにあります。
もちろん、最初から重いテーマを切り出す必要はありません。
特に関係性が浅い段階では、簡単なアイスブレイクや近況の共有は大切です。緊張がほぐれ、「ここでは安心して話せる」という空気ができてこそ、本音の対話が生まれるからです。ただし、ここで終わってしまうと1on1は単なる雑談になってしまいます。
そこで初期の1on1では、近況に続いて次のような“価値観にハッと気づく質問”を差し込むことが効果的です。(私は「ハッと1on1」と呼んでいます。)
■「○○さんにとって、どんなときに“働く充実感”を感じますか?」
■「スキル・仲間・社会貢献など、特に大事にしたいのはどれですか?」
いきなり価値観だけを聞くのではなく、たとえば、
アイスブレイク→ 最近の出来事→ そこにある価値観の整理
という段階を踏むことで、自然に深い対話へ移れます。
近年では昇進よりも、スキルを身につけたい/社会課題を解決したい/良い仲間と働きたいといった「心理的成功(自分にとっての充実・幸福)」を軸にキャリアを考える人が増えています。これは「プロティアン・キャリア」と呼ばれる新しいキャリア観です。
だからこそ、この「価値観への理解」が早い段階でできると、その人への関わり方・任せ方・支援の方向性が格段に明確になっていきます。
1on1で「部下の深層価値観= インサイト」を読み解く
ここで、少し話がそれますが、「部下のインサイト」についてお話をさせてください。
突然ですが、あなたはコカ・コーラを飲んだことはありますか? 好きな人もそうでない人もいると思いますが、子どものころに飲んだ「コーラの味」をパッと思い出せる人は少なくないはずです。
1980年代に、コカ・コーラ社がペプシの猛追に危機を感じて、「ニューコーク」を開発・発売したことがありました。ペプシに勝つために「ペプシよりおいしいコーク」を目指して、大規模な試飲テストを実施したそうです。完成したのは「オールドコーク」よりも甘くまろやかな「ニューコーク」。
大勝負をかけて市場のオールドコークをニューコークにごそっと入れ替えたのですが、結果は目を覆いたくなるくらいの大惨敗でした。コークファンから大ブーイングが巻き起こり、結局、数か月後には以前と同じ「コカ・コーラ・クラシック」に再度置き換えたことで、最終的にファンは大喜び、期せずしてブランドの再構築に成功した、という話です。
コカ・コーラ社は「顧客はよりおいしいコーラを求めている」と思い込み、データを信じて甘くまろやかなニューコークを開発しました。ところがマーケットが求めていたのは味の革新などではなく、慣れ親しんだ「コーラらしさ」だったわけです。
このストーリーから学べるのは、顧客の深層心理、つまり顧客インサイトの理解がいかに重要であるか、です。
なぜこんな話をしたかというと、同じくらい「従業員インサイト」の理解が重要だと私は思うからです。
あなたは、チームのメンバーをどれだけ「理解」していますか? 性格や印象ではなく、「どんな考え方をする人なのか」「どんなときに力を発揮するのか」「何に不安を感じるのか」。
それらを、どれくらい具体的に言葉にできますか?
メンバーの考え方や価値観について聞かれてみると、意外とよくわからないというリーダーも少なくないはずです。実際に「部下が何を考えているのかわからない」という悩みを聞くことが多くあります。私自身も、かつては部下のことなど理解せず、逆に「俺を理解してくれ」「もっと会社のことを考えてくれ」と訴えてばかりでした。
それもそのはずで、「自分はこういう人間なんです」と説明してくれる人は、あまりいないですよね。面談などで自己分析を促すこともありますが、本音で話してくれているかわからないし、そもそも自分のことを言語化して正確に説明するのは難しいものです。そうこうしているうちに「辞めます」と言い出されたりする。
「なんで? あんなに話を聞いたのに」とやりきれない気持ちになりますよね。でも、こうした悩みが尽きないのは、部下が悪いのではなく、インサイトに辿りつくほど深い対話ができていないからなのです。繰り返しますが、部下のほうから「私はこういう価値観の人間です」と説明してくれることは滅多にありません。
だからこそ、リーダーが「理解する努力」をしなければ、関係は自然には深まりません。一見面倒に感じるかもしれませんが、このインサイトへの理解こそが、部下の行動を変えるための最短ルートです。
そして、この深い理解に最も適した場が1on1の対話なのです。
大阪大学人間科学部卒業。
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア入社)。BPRや民営化に関するコンサルティングに従事。
2002年株式会社シェイク入社。人材育成事業の立ち上げを行い、商品開発責任者として従事。2015年代表取締役副社長に就任。
2017年9月エンゲージメント向上支援を目的に、株式会社NEWONEを設立。
著書に、『人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書』(アスコム)、『組織の未来は「従業員体験」で変わる――人手不足の時代にエンゲージメントを高める方法』(英治出版)がある。
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