本記事は、上林 周平氏の著書『部下の心を動かすリーダーがやっていること』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

部下の心を動かすリーダーがやっていること
(画像=antusher/stock.adobe.com)

「Why話法」でビジョンを共有する
Howを教えるよりWhyを共有すれば納得度が高まる

「意味がない言葉は届かない」時代に、Whyが力を持つ理由

リーダーが掲げるビジョンに、メンバーが本気で共感し、行動に移すためには何が鍵になるのでしょうか。

それは、「なぜ、それを目指すのか」、つまり、「Why」です。
今までは「どうやるか(How)」「何をするか(What)」を提示すれば十分でした。

しかし、今の時代は、それだけでは人は動きません。やり方や事実の説明ではなく、それが「自分にとってどんな意味を持つのか」という背景が求められるようになっています。
人は、事実そのものよりも「それをどう解釈しているか」に強く心を動かされます。
スペックや数字といった事実だけでは、自分ごと化は起きません。しかし、「なぜそれをやるのか」「どんな価値があるのか」といった「意味づけ」が語られた瞬間、同じ情報でもまったく違う景色として立ち上がるからです。
事実は説明でしかありませんが、あなたの解釈は価値になります。

たとえば、リーダーや経営陣が、前触れなくいきなり「今期は売上1億円を目指します!」と言っても、メンバーは「いきなり何?」と戸惑うのは想像に難くありません。これは、単なる会社の理屈を説明しているだけだからです。
「今期は売上1億円を目指します!」「この新プロジェクトを3か月で完了させます」といった目標を掲げる場面はどの職場にもあるはずです。
そこに「なぜそれを目指すのか」が抜けていると、メンバーは「上がいうから聞いておくか」といった受け身のスタンスに終始したりもします。ビジョンとは「こうなりたい」を語るだけではなく、「なぜそれを目指すのか」という背景や意味をセットで語ることで初めて共感の力を持ち始めます。

心が動くのは「正解」ではなく、あなたの「物語」である

共感は「理解しました」という表面的な納得ではありません。受け手の心が動き、自分ごとのように感じられたとき共感が生まれます。そのために最も有効なのが、あなたの「Why」から語るというアプローチ・「Why話法」です。

ある企業で人事部長が「ありがとうと言われる日本一の人事部を目指す」というビジョンを打ち出したことがあります。そして、単にスローガンとして掲げるのではなく、彼はその背景にあった個人的な想いを率直に語りました。

「過去にM&Aで社内が大変な状況になったとき、どんな施策を打っても現場からは『人事部はわかっていない』と冷たい目を向けられ、悔しさと無力感を味わった。だからこそ現場から『ありがとう』と言われる存在に変わりたい…… その思いがこのビジョンには込められているんだ」

この話を聞いたメンバーたちは一様に心を動かされ、やがて主体的に行動し始めました。リーダー自身が過去と向き合って出てきた言葉だからこそ共感が生まれたのです。
ビジョンの共有においては、リーダーが一方的に語るだけでなく、「一緒に考える」プロセスを取り入れることも効果的です。
「このプロジェクトが実現したら、どんな価値が生まれると思う?」「これからのチームが大切にしていきたいことは何だろう?」といった問いを投げかけたり、簡単なワークを挟んだり、メンバーが「自分の頭で考える」機会をつくると納得度や内発的動機づけが大きく変わります。

部下の心を動かすリーダーがやっていること
(画像=部下の心を動かすリーダーがやっていること)

物語は「出来事」ではなく、「情景と感情」を伝えることから始まる

こうして物語の重要性をお伝えしてきましたが、「結局、どんな話をすれば“物語”になるのか」と迷う方もいると思います。
たとえば、事業の背景やチーム発足の経緯を語るとき、それが単なる説明なのか、それとも物語として機能しているのか? その境界は確かにわかりづらいものです。
物語化の肝は、聞き手の中に「その光景が浮かぶこと」です。
出来事の羅列ではなく、相手の頭の中に場面や感情が立ち上がるように語ること。
この「映像化」ができると、説明は一気に物語へと変わります。
そのために、次の2つを意識すると効果的です。

① 自分の原体験を素材にする
自身の経験から語ると、自然と具体性が生まれます。
■どんな状況だったのか
■誰が登場していたのか
■そのときどんな感情がわいていたのか
こうした描写が「情景」をつくります。
たとえば、
■新人時代の挫折とそこからの再起
■チームとの衝突から見えた「価値観の違い」
■リーダーとして腹を括った瞬間
こうした具体的なシーンがあるだけで、聞き手がその場に立ち会っているかのようにイメージできます。

② 感情の起伏を丁寧に言語化する
嬉しかった、悔しかった、迷った、視点が変わった…… こうした感情の動きは、物語を物語たらしめる大事な要素です。
「その場面がなぜ自分にとって重要だったのか」「そこでどんな気づきが生まれたのか」これらを丁寧に語ることで、聞き手は主人公の内面に入り込み、あなたの「意味づけ」に触れることができます。事実よりも解釈が心を動かすのはそのためです。

この2つを押さえるだけで、事業の背景やチーム発足の経緯といった説明的な話題でも、「物語」として機能するようになります。

つまり、「あなたがどう受け取り、どう感じたか」を挟むことで、あらゆる話は物語になり得るのです。

とはいえ、「自分の想いを語るのが恥ずかしい」と感じるリーダーも少なくありません。過去の失敗や弱さを言語化し、他者に見せることへの抵抗は自然な感情です。
しかし、ビジョンを「自分の言葉」で語れるリーダーは、間違いなく周囲を動かします。立派な言葉を並べる必要はありません。むしろ、飾らない言葉のほうが人の心に届きます。そこにあなたの体験と感情が宿っているかどうかが、共感を生む決定的な違いなのです。なお、これまでお話ししてきた通り、「推し活」も同じです。完璧な対象よりも、どこか未完成で、自分が貢献できる余白のある存在のほうが“推し”になりやすい。弱さや背景が見えることで、心は動かされます。リーダーの物語もそれと同じで、弱さも含めて語るからこそ、人はついていきたくなるのです。

物語を語るとは、等身大の自分を差し出す行為です。
そして、その誠実さこそが、チームの信頼をつくり、推せる職場の原点となります。

部下の心を動かすリーダーがやっていること
上林 周平(かんばやし・しゅうへい)
株式会社NEWONE代表取締役
大阪大学人間科学部卒業。
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア入社)。BPRや民営化に関するコンサルティングに従事。
2002年株式会社シェイク入社。人材育成事業の立ち上げを行い、商品開発責任者として従事。2015年代表取締役副社長に就任。
2017年9月エンゲージメント向上支援を目的に、株式会社NEWONEを設立。
著書に、『人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書』(アスコム)、『組織の未来は「従業員体験」で変わる――人手不足の時代にエンゲージメントを高める方法』(英治出版)がある。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます。
部下の心を動かすリーダーがやっていること
  1. 共感が組織を変える、論理では動かなかったチームが再生する瞬間
  2. 1on1は雑談じゃない、部下の価値観を引き出すハッと質問術
  3. HowよりWhyが人を動かす、ビジョン共有は意味づけで決まる
  4. 無関心に見える部下が変わる、意見を引き出す3つの設計
  5. 「このチームならやれる」を育てる、集団的効力感のつくり方
  6. 属人性を捨てる覚悟、誰がリーダーでも回るチームの作り方
  7. AIが数字を出しても動かない、管理職の仕事は心を動かすこと
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)