本記事は、上林 周平氏の著書『部下の心を動かすリーダーがやっていること』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

部下の心を動かすリーダーがやっていること
(画像=PB_Studio_Photo/stock.adobe.com)

「推せる職場づくり」はAIに奪われない管理職必須のノウハウになる

AIが職場に浸透し始めてから、マネジメントの風景は劇的に変わりつつあります。エンゲージメントスコアは自動で可視化され、部下の状態は「数字」として一覧できる…… そんな時代になりつつあります。

しかし現場では、予想外の“副作用”が起きています。数値を追うだけのマネジメントに、メンバーが冷めていく。人事部から「エンゲージメントの点数を上げろ」という指示が飛ぶたびに、チームは再び「管理される側」の空気に戻っていく。ツールは増えているのに、対話は減り、心理的距離だけが広がっていく…… そんな職場を私たちは幾度となく目にしてきました。

AIは現状を「見える化」する力は圧倒的です。ですが、その数字に「意味」を与え、背景を読み解き、メンバーの心を動かすことはできません。
そこに必要なのは、人間にしかできない「共感」と「関係性のデザイン」です。
実際、AI解析されたサーベイ結果に対して、「共感を起点にした対話の場」を設計し直した瞬間、沈んでいたチームが息を吹き返した事例をいくつも見てきました。
1on1は「評価の場」から「一緒に考える場」へ変わり、メンバー同士のフィードバックが自然に起こり、離職や定着にも明確な改善が見られるといった、そんな変化が現場で続々と起きています。

AIが当たり前になった今こそ、「人の感情を扱い、チームの意味をつくる力」は代替されない管理職の核心スキルになってきています。そして、その力を最も発揮できる土壌こそが「推せる職場」です。

ただし、「推せる職場」は現場の努力だけでは成立しません。
経営層や人事部門が方針として後押しし、仕組みとして開かれた対話と透明性を整えたとき、初めて組織文化として根づいていきます。
では、会社として何をすべきなのか。どのようにAIとHRテックを「管理ツール」から「共感を育てるインフラ」へ進化させるのか。
AI導入でつまずいた企業が、共感マネジメントによってどのように再起動したのか、そのリアルな事例を軸に、AI時代に求められる「強い職場づくり」を、経営・人事・管理職の3者の視点から紐解いていきます。

サーベイ活用の壁を越えるのは、「人との対話」に組み込む支援

ある大手企業に実際に起きたことです。
その企業では、エンゲージメントサーベイをAIで自動解析し、毎月スコアを算出・共有していました。

導入当初は「チームの状態が数値で見えるのはありがたい」と好評でしたが、数か月経つとマネージャーからは「結局、何をすればいいのかわからない」「点数が変わらないまま報告会だけが続いている」といった声が相次ぎました。
また、メンバーの間でも「回答しても意味がない」「どうせ上が決める」といった冷ややかな空気が生まれていました。
数字は見えているのに、その数字を上げること自体が目的化し、本来あるべき対話はどんどん失われていったのです。

このように、AIやデータの「管理的な使い方」は、適切に意味づけされなければ逆効果になります。数字は見えても、「なぜこの状態なのか」「どうすれば良くなるのか」という人の内側の物語を扱うことができないため、結果として“やらされ感”を助長してしまうのです。

そこで私たちは、サーベイを「評価の材料」ではなく、「対話を生み出す素材」として再設計する支援に取り組みました。チームごとに「どんな職場をつくりたいのか」「今何が妨げになっているのか」を率直に語り合う時間をつくり、マネージャーには、「エンゲージメントサーベイの結果の読み解き方」や「対話のファシリテーション」といったトレーニングを実施したのです。
また、1〜3か月の伴走期間を設け、日常業務の中に自然に対話が流れ込むよう導線を設計していきました。

このプロセスを経る中で、静かだったチームに少しずつ声が戻り始めました。
メンバー同士の意見交換が増え、フィードバックが自然に行き交うようになる。
1on1も「評価を伝えるための時間」から、「一緒に考えるための時間」へと変わり、上司と部下の心理的距離は明らかに縮まっていきました。
その結果、新入社員の定着率向上や離職率の改善につながったチームも現れるようになったのです。

AIが提供した数字は、そのままでは活きません。けれど、そこに「意味づけ」と「共感的な対話」が加わった瞬間、チームの生命力は見違えるほど戻ってくる。
この事例はその象徴的な例といえるでしょう。

部下の心を動かすリーダーがやっていること
上林 周平(かんばやし・しゅうへい)
株式会社NEWONE代表取締役
大阪大学人間科学部卒業。
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア入社)。BPRや民営化に関するコンサルティングに従事。
2002年株式会社シェイク入社。人材育成事業の立ち上げを行い、商品開発責任者として従事。2015年代表取締役副社長に就任。
2017年9月エンゲージメント向上支援を目的に、株式会社NEWONEを設立。
著書に、『人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書』(アスコム)、『組織の未来は「従業員体験」で変わる――人手不足の時代にエンゲージメントを高める方法』(英治出版)がある。

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