本記事は、上林 周平氏の著書『部下の心を動かすリーダーがやっていること』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。
最初からできる人はいない
新しくチームに加わった人が、初日から中心で活躍できることはほとんどありません。多くの場合、最初は何をしていいのかわからず、少し離れた場所から様子を見ているだけです。しかし、この「端っこ」での時間こそが、チームの文化をつかみ、成長していくための大切な第一歩になります。
このプロセスを理論として示したのが、文化人類学者ジーン・レイヴと社会学者エティエンヌ・ウェンガーの提唱した「正統的周辺参加」です。人の学びや成長は、知識を教わることよりも、共同体の一員として一緒に経験し、関わることで起こるという考え方です。人は教えられて変わるのではなく、共に場に関わる中で、自然と変わっていくのです。
たとえば職人の世界では、弟子が最初から技術を習うのではなく、掃除や道具の準備といった周辺的な仕事から始めます。そこで現場の空気や価値観に触れ、少しずつ中心に近づいていく。気づいたときには、共同体の一員として学びを内面化しています。これこそが正統的周辺参加の本質です。
現代の職場でも同じことが起きます。新人や異動してきたメンバーがすぐに成果を出せなくても、それは自然なことです。重要なのは、彼らが安心して「周辺から関われる」環境をつくること。たとえば会議の場で意見を聞いてみる、小さなタスクを任せてみる、気になる点を尋ねる。こうしたささいなアクションが、参加の入口になります。
共感型マネジメントにおいて、リーダーはこの「周辺からの参画」を支える存在です。すべてを指示するのではなく、一緒に考え、少しずつ任せていく。人は指示されて動くよりも、“巻き込まれて動く”ときに、本来の力を発揮します。
だからこそ、共感型マネジメントに求められるのは、正解を教える人ではなく、一緒に成長していける場をつくる人です。そのような関わりが積み重なると、チームは上から動かされる集団ではなく、互いに影響し合い、学び合う「生きた共同体」へと変わっていきます。
職場に無関心なメンバーから意見を引き出すための工夫
意見を出し合う場で、「意見を出して」と促しても、うつむいて何も言わない……。
そんな一見、「無関心に見えるメンバー」に対して、どう意見を引き出すかは多くの現場で共通する悩みかと思います。ただ実際は、無関心なのではなく、単に「どう話せばいいのかわからない」だけというケースがほとんどです。ここでは、現場で効果のあった「意見を引き出すための設計」を、3つのステップでご紹介します。
① クローズドクエスチョン→ オープンクエスチョンの流れを活用する
最初から「どう思う?」と聞かれると、多くの人が構えてしまいます。特に無関心に見える人ほど、突然のオープンな問いに戸惑いがちです。そこでまずは、選択肢つきのクローズドクエスチョンで思考のスイッチを入れます。
■「職場の雰囲気は100点満点でどれくらいですか」
■「この1年間のチーム連携、5段階でどれくらいですか」
といった答えやすい問いを入口にすると、多くの人が自然に考え始めます。
そのうえで、
■「なぜその点数にしたのですか」
■「あと少し良くするなら、どこを変えたいですか」
とオープンクエスチョンに移ることで、徐々に自分の意見を言いやすくなっていきます。
② 最初の発表者を戦略的に選ぶ
場の空気は、最初の発言者によって大きく左右されます。上下関係ではなく、話しやすく前向きな雰囲気をもつメンバーに最初を任せることで、場の温度が一気に上がります。
そして、その発言に対しては、否定せず受け止める姿勢が重要です。「なるほど、そういう見方もありますね」「共有してくれてありがとうございます」といった反応があるだけで、その場は「言って大丈夫」という安全な空気になります。こうした安心感は、その後の意見の出やすさを大きく左右します。
③ 大人数→ 少人数→ 大人数の往復
多くの人にとって、大人数の前でいきなり話すのは高いハードルです。そこで、全体でテーマを共有したあとに、二人組や三人組など少人数で話し合う時間をつくります。
少人数の場でいったん言葉にしてみることで、口を開くハードルが驚くほど下がります。そのあとで全体に戻して「少人数で出た意見」を共有してもらうと、普段発言しない人でも自然と声を出しやすくなります。
大阪大学人間科学部卒業。
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア入社)。BPRや民営化に関するコンサルティングに従事。
2002年株式会社シェイク入社。人材育成事業の立ち上げを行い、商品開発責任者として従事。2015年代表取締役副社長に就任。
2017年9月エンゲージメント向上支援を目的に、株式会社NEWONEを設立。
著書に、『人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書』(アスコム)、『組織の未来は「従業員体験」で変わる――人手不足の時代にエンゲージメントを高める方法』(英治出版)がある。
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