本記事は、門賀美央子氏の著書『この先の、稼ぎ方がわからない。50歳から考えるお仕事図鑑』(清流出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

お仕事は鼻歌まじりで探したい。でも現実は……
年齢はどう影響する?
中高年が被雇用者になる前提で仕事を探すとなると、まず思いつくのがハローワーク、正式名称「公共職業安定所」での求職です。高年齢層には“職安”の響きのほうが耳慣れているかもしれません。
昭和22(1947)年制定の「職業安定法」に基づいて設置された公共職業安定所は、厚生労働省が設置する行政機関で、国民の誰もが有する「勤労権」の確保を最大の目的としています。よって、高齢者対象の求人も取り扱っています。50代以降にはどんな仕事があるのかをチェックするには最適と言えるでしょう。
ところで、求人条件に年齢制限をつけるのは一部の例外を除いて原則禁止であることはご存じでしょうか。平成19(2007)年に「雇用対策法」が改正され、求人を出す事業主は募集や採用に年齢制限をかけることが禁止されました。理念上、求職者に対して「年齢に関わりなく均等な機会を与えなければならない」としたためです。
しかし、実態はというと応募条件に年齢制限がなくとも、書類審査の時点で足切りされることが多いそうです。「応募はお好きにどうぞ、でも採用するかしないかは別」というわけです。もちろん、不採用の理由として「あんたは年寄りだから不合格」と告げたらアウトですが、「適性がないと判断しました」であればOK。そう言われたら誰も文句をつけられません。あまりに露骨な違反を繰り返す企業は行政指導されることもありますが、罰則はないのでなあなあになっています。また、社則に定年がある場合はそれ以下に制限してもよいとなっています。まあ、企業側としては一から仕事を教えたって10年働けるかどうかもわからない人は採りたくないでしょう。気持ちはわかります。そんなわけで、今のところ求人の年齢制限撤廃関連の法令は有名無実です。
ですので、求人サイトなどの「年齢不問」を真に受けていると、いつまで経っても「お祈りメール(*1)」しか届かないなんていう悲しい事態に陥ることになります。
*1:お祈りメール:不採用通知のこと。不採用を知らせるメールの末尾が「今後のご活躍をお祈り申し上げます」の定型文で終わるケースが多いことから、就職活動する若者発のスラングとして流通するようになった。
そして、たいへん残念ながら、ハローワークでの求職も同様です。
ハローワークの求人情報はインターネットでも閲覧できます。そして年齢を正直に申告した上で検索しても、かなりの数がヒットします。けれどもそれは建前に過ぎません。年齢制限をかけたら法令違反になるからヒットする、だけです。
本気で中高年OKの求人を見たいならば、実際にハローワークに出向き、高齢者も対象であると明記されているコーナーをチェックするに限ります。
そんなわけでつい先日、ある自治体のハローワークに行き「高齢者向け求人」コーナーをチェックしてきました。そして、理解しました。案の定、50代以降はやりたい仕事ではなく、やれる仕事を探すしかないのだ、と。
「高齢者可」求人の現実
50代の求人はまだギリギリ正社員もあります。しかしそれ以上はほぼ見当たりません。もし何か特殊な技能や資格、かなりハイレベルな業務経験をもっているのであれば60代で正社員の求人を見つけることは可能でしょう。特に医療看護系の資格は強く、民間の中高年向け転職サイトでもかなり好条件の求人を見つけることができます。また建築施工管理の求人も比較的多いようです。
では「未経験可」はどうでしょうか。
この場合、職種は介護補助、調理補助、清掃、警備に限られると思って間違いはありません。店舗スタッフも若干見受けられますが、いずれにせよ体力が必要な仕事です。さらに言うなら雇用形態は非正規、給料はほぼ最低賃金です。
働く目的が「年金の補完」で、月に10万円もあれば御の字だったらこれでも十分でしょう。ですから、「働く場所」がないと悲観する必要はないかもしれません。しかし、基本的人権のひとつである「職業選択の自由」は相当の制限を受けることを覚悟しなければなりません。
残念ながら「職業選択の自由 アハハ~ン!」と鼻歌を歌えるのは若い人だけなのです。
鼻歌交じりで仕事を選ぶには
そんなのはいやだ!
何歳になってもやりたい仕事に就きたい!
いや、老い先短いからこそむしろやりたいことだけをやりたい!
もしくは、低年金/無年金だから正社員並みの給料でないと無理!
そう思われるのであれば、方法はひとつ。
自営業者になるしかありません。そして、自営業者になるには3つほど手段があります。
- (1)起業して法人経営者になる
(2)起業して個人事業主になる
(3)フリーターになる
まず(1)と(2)ですが、最近は「シニア起業」などという言葉も出てきているように、老年期のひとつの働き方として注目されています。
長い社会人生活を経て、現役時代に培った技術、あるいはやってみたかったアイデアを実現するために会社を始めるのは心躍るに違いありません。また、何か強い使命感を持って世の中を変えていこうとするなら、NPO法人を立ち上げて社会事業に進出するという手もあります。
もし事業計画を立てられるだけの豊富な経験や有意義な人脈があって、開業資金もしっかり用意できるならば、(1)の「法人経営者になる」はシニアになってからの法人起業は現実的な選択肢となるでしょう。逆に、これらがひとつでも欠けていれば残念な結果になるのは必定です。うっかりすれば老後破産が待っています。
(2)の「個人事業主になる」は、法人の形を取らないで事業を始めるパターンです。個人経営で店舗を運営したりするのもこの枠に入ります。税務署に開業届を出すだけですぐに「個人事業主」になれます。開業届を出さないでも事業を始めることは可能です。法人起業に比べたら比較的簡単でしょう。ちなみに私はこの枠で仕事をしています。一応個人事業主の届けは出していますが、社会に向けては「フリーランス・ライター」と名乗っています。
個人事業主として仕事をするならば思い切って「未経験だけれどもやってみたい職業」に挑戦するのもいいかもしれません。
しかし、まったくの徒手空拳で始めるのはさすがに無謀。やはり事前の情報収集は必要でしょう。収集手段としては書籍がもっとも手頃簡便ですが、業界を舞台にしたドキュメンタリー作品や、お仕事ものの小説/漫画なども参考になるかもしれません。さらに最近はインターネット上で情報収集する手もあります(ただしネットリテラシーが必要です)。
ですが、情報を利用するとして、たとえドキュメンタリーや情報提供を主目的とするものであっても、それが「表現物」である以上、必ず何らかの情報バイアスがかかっている、つまり表現者の主観、あるいは伝えたい方向性が影響しているのは理解しておかなければならないと思います。同じ仕事の話であっても、制作者のさじ加減ひとつでキラキラの夢物語になっているかもしれないし、現実以上の残酷物語になっているかもしれないわけです。
とはいえ、概観するにはもってこいです。「これはなんらかの意図に沿って整えられた二次情報である」と自分に言い聞かせた上なら、とても有益ではないでしょうか。それらを見てもなお未経験から起業しようと決心されたのであれば、それはとても尊いことだと心から思います。
なお、成功者の物語は自らを鼓舞するには役立ちますが、現実を見据えるにはマイナスになりかねないという気がしています。ああいう方たちは人生のオリンピック選手のようなものです。平均的な人間がいきなりまねすると大怪我しかねません。
もしあなたが未経験から市民マラソンに出るとして、いきなりトップアスリートの練習方法をまねたりするでしょうか。しないですよね。「いや、自分はするよ」って? …… 止めはしませんが、まずは年齢や体力に応じた練習方法を模索したほうがいいのではないかな、と私は思います。新しい仕事を始めるのも同じ。ゆめゆめ、いきなり退職金を突っ込んで趣味の手打ち蕎麦屋やオーガニック・カフェなど始めたりなさいませんよう。
(3)の「フリーターになる」ですが、これは単発や短期のアルバイトをいくつも兼業してお金を稼ぐ方法です。80年代に生まれた造語「フリーアルバイター」の略で、当時は新しい働き方のようにもてはやされました。それが単なる不安定雇用の言い換えに過ぎなかったことを考えるとうたた感慨に堪えないのですが、年金生活者になって、それを補うための労働形態としてならありなのではないかと私は思います。なにせ自分の好きな時間に、好きな仕事を(ある程度)選べるのは魅力です。今さら人生全体のキャリアを考えなくてもいい老境だからこそできる働き方かもしれません。
なお、時おりフリーターとフリーランスをごちゃまぜにしている方がいらっしゃるのですが、双方はまったく異なります。
フリーランスは案件ごとに業務契約を結び、業務達成の方法や労働時間は受注者に任されます。つまり、発注者の指揮監督下に置かれることは基本ないのです。ですので、労働基準法で言うところの労働者にはカウントされません。
一方、アルバイトは短期でも労働契約が結ばれ、契約の範囲内で雇用者の指揮監督下に置かれ、労働基準法で保護される立場になります。
また、今どきフリーターをするにもスマートフォンの所持と利用は必要不可欠です。そして、今後も新たなデバイスがどんどん出てくるでしょう。
もしついていけないと感じても国家が率先してICT化を進めている以上「年寄りは新しいものについていけない。年寄りにも優しい手段を!」と主張しても無駄です。地縁血縁口コミで仕事を得られるのでない限り、ある程度新しい技術についていかなければなりません。新しい言葉やムーブメントが出てきたら何事もまずは自分で調べてみる。21世紀も中盤に入ろうとする今、これぐらいのことはできないと仕事探しも難しくなるかと思います。

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