本記事は、門賀美央子氏の著書『この先の、稼ぎ方がわからない。50歳から考えるお仕事図鑑』(清流出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

家庭内労働をサービスとして代行する
一般家庭ではつい最近まで、家庭内で発生する諸々の労働は家族の誰かが無償で担当するものと相場が決まっていました。その多くは主婦と位置づけられる女性が担っていたわけですが、近年は夫婦双方がフルタイムで共働きをする核家族が増えたため、平均的なおうちでも家庭内労働を外注する流れが生まれてきています。
その流れを後押ししているのが、利用者とサービス提供者を結びつけるマッチングサイトの増加です。
以前は家庭内労働の代行というと家政婦派遣を専門とする家政婦紹介所に紹介してもらい、同じ人に継続して来てもらうものでした。しかし、現在はマッチングサイトを通してギグワーク(*2)的に受発注する方法が主流になりつつあります。
現在、サイトを通して提供されている家庭内労働代行サービスには以下のようなものがあります。
*2:ギグワーク:マッチングサービスを利用して、個人が自分のスキルや能力を提供し、案件ごとに報酬を得る働き方のこと。従来の日雇いに近いが、発注者と受注者の間に雇用関係はなく、仲介者が需給を案件ごとに結びつける形を取る。場所や時間にとらわれない自由な働き方ができるため、元々は小遣い稼ぎ程度の副業形態として始まった。しかし、現在はこれを本業とするケースも増え、それに伴い偽装請負問題などの社会問題も発生してきている。
家事代行
〈1〉掃除
家全体の清掃から、水回りだけ、庭だけなど場所を限定した案件、あるいはゴミ捨てだけといったケースまで。ただし、ハウスクリーニング業者ではないので、特別な技術を要する清掃はサービス外となる。
〈2〉洗濯
洗濯、乾燥、アイロンがけまで一式。染み抜きなどクリーニング店が提供する特殊技術が必要なものはサービス外。
〈3〉料理
食材の買い出しから始まることも、依頼先の家にある材料だけで作ることもある。毎日食事の支度をしに行くケースもあるが、数日分の作り置きをすることのほうが多い。
〈4〉買い物
家族に目の離せない幼い子や要介護者がいる場合、あるいは心身に不自由があって外出が難しい人が主な依頼主になる。食料品や日用品の買い物をする。
家事代行サービスの給与体系は、日給/時給制と案件ごとの報酬制に分かれます。時給制の場合はだいたい各地の最低賃金を少し上回る程度のようです。案件ごとの場合、内容によって変動がありますが、複数かけ持ちして1日1万円を超えるか超えないかぐらいが一般的でしょう。
ケアワーク代行
〈1〉育児代行
いわゆるベビーシッター。海外では学生のアルバイトだが、日本では育児経験者が多い。学齢期に入るぐらいまでの子どもの世話や見守りなど。
〈2〉ホームヘルパー(訪問介護員)
高齢者や障害者など、日常生活に介助が必要な人に、身体介護や生活援助を提供する。ホームヘルパーとして仕事をするには、厚生労働省認可の介護職員初任者研修課程修了以上の介護資格が必要。ただし、生活援助だけなら生活援助従事者研修を修了すれば、生活援助中心型の訪問介護サービスに携わることができる。
〈3〉ペットの世話(ペットシッター)
毎日の散歩や、旅行中の餌やり、トイレ掃除など。
ケアワークのうち、育児代行の平均時給は1,500円程度とされています。一般的な家事代行より少し高いですが、命を預かる仕事と考えれば特段高給とは言えないでしょう。
ホームヘルパーの給与も同程度です。生活介助のみの場合はこれより低くなります。
ペットシッターは案件ごと。1件につき、時給1,300円前後が相場です。ただし1件にかかる時間が比較的短いので、効率的に仕事を入れて完全フルタイム状態で週5日働けば月に20万円ぐらいは稼げるようです。
就業形態は業務委託から雇用契約を結ぶ形まで様々です。仕事の単価は業務委託のほうが高くなるものの、代わりに社会保険は自前になりますし、仕事中に事故が発生しても労災の対象外になります。少なくとも最初のうちはパートやアルバイトとして雇用契約を結んで働くほうが安心かもしれません。
また、いずれの仕事も、依頼者の自宅を訪れて仕事をすることになります。提供するサービスに習熟しているのは大前提ですが、他人のプライベート・エリアに立ち入ることの意味をしっかり理解しておくのも必須条件です。
家庭内労働も外注する時代に
昭和世代には、家事代行を依頼するのはよほどのお金持ちや有名人のお宅だけ、というイメージがあるかと思います。
しかし、今や時代は変わりました。これまで結婚や出産を機に専業主婦となっていた女性たちが、継続してフルタイムで働く道を選ぶのが当たり前になったため、家庭内労働の外注を視野に入れるようになってきたのです。背景には共働きでないと一定の生活水準を保つのが難しくなっていること、さらに自分の人生プランの前提を家庭のみに依存しなくなった女性が増えたことがあります。
また、自分で家事をする時間のない、あるいは家事技術がない単身者や、認定レベルの問題で介護サービスは利用できないものの家事や外出は体力的に厳しい高齢者が依頼するケースも急増しているそうです。
結果、無償労働とみなされていた家庭内労働にも、市場で取引可能な価値があると改めて認識されるようになりました。今のところ完全に一般化した、とまでは言えませんが、市場規模は急拡大中です。
これは、専業主婦の経験しかないために外で働くことに躊躇していた層にとっては朗報と言ってよいでしょう。これまで「換金」という意味では無価値とされていた経験を活かせるようになったわけですから。
とはいえ、当然ながら家事も賃金労働になれば一定以上のレベルが求められます。自宅では少々手抜きもできますが、お金をもらうならば許されません。また、提供するのはあくまで「代行」サービスであり、やり方は基本先方の希望に合わせるものと理解しておく必要があります。
マッチングサービスの提供者には事前研修をする業者もなくはないものの、内容と言えばほとんどが勤怠システムの使い方や働き方心得程度で、実際に提供する技術について時間をかけて学ぶような機会はありません。ですので、我流家事がお客さんの満足を得られるレベルにあるか、自己判断する必要があります(料理代行は事前に実技テストがあるケースもあります)。
ケアワークの場合は家事以上に家庭ごとの事情が違ってきます。また、育児や介護は数年前の情報でも古くなってしまうほど刻々とやり方が変わっていきます。
つまり、家事もケアワークも「私は今までこうやってきたから」だけでは通用しません。依頼者の望みを丁寧にヒアリングする必要があります。
マッチングサービスでは、利用者がサービス提供者の評価を直接書き込めるスペースが設けられていることがほとんどです。自分の仕事が即座に★いくつ、のような形で目に見えて評価されてしまうわけですから、それなりに緊張感を強いられます。
家庭内労働代行サービスも時代に合わせる必要性が
とかくIT化が急速に進み、“世の常識”の変化も激しい昨今ですが、家庭内労働代行サービスもその軛から逃れることはできません。
ITに関しては、最低限のIT機器、つまりスマートフォンぐらいは使えないと仕事を得るのは難しいでしょう。利用者とのマッチングサービスはスマートフォンやパソコン経由で行われるからです。働ける時間を登録するのも、仲介業者からのオファーを見るのも、ネット上に公開されたシステム上で行います。とはいえ、ほとんどの場合、画面を見たら直感的に使えるように工夫されているのでさほど難しくはありません。積極的に慣れようとする気持ちがあれば大丈夫かと思われます。
次に“世の常識”については、ポリティカル・コレクトネスやコンプライアンスといった、この10年ぐらいで一般化した概念に対応していく必要があります。
たとえば、もし育児代行で伺った先のお宅の娘さんが戦闘ロボットの玩具で遊んでいたとしましょう。それを見て「あら、女の子のくせにロボットなんかが好きなの? それは男の子のおもちゃよ。かわいいお人形のほうがよくない?」などと言ったら、今は完全にアウトです。
また、うちの子には乳製品と卵にアレルギーがあるので与えないでくださいと言われていたのに、「好き嫌いはいけないから直しましょうね」と好意のつもりで与えてしまう。これなどは下手すれば訴訟沙汰になりかねない致命的なミスです。
これらがなぜアウトや致命的なミスになるのかわからないのであれば、育児代行業をするのは難しいかもしれません。
また、個人情報保護について敏感な人が増えている昨今、おうちの事情をほかで漏らすなどもってのほかです。知り合いにだけ公開のSNSにおもしろおかしく、あるいは愚痴として書いてもどこかから漏れて訴えられる可能性があります。
ただし、コンプライアンスを理解しておくのは自分の身を守るためでもあります。
派遣先で無理難題を押しつけられたとして、明らかにコンプライアンス違反や契約違反である場合は、それを盾に拒否することができます。この場合、たとえ悪評をつけられたとしても、仲介業者に申し立てればきちんと対処してくれるでしょう。
いずれにせよ、普段から家事をしているのであれば、サービス利用者と同じ目線に立って先方の困り事を解決することができます。これは何よりのアドバンテージです。
- こんなタイプにぴったり!
- 家庭内労働のエキスパートたる自信がある。
- 時代に合わせられる柔軟性がある。
- 口が堅い。
- こんなタイプはやめておいたほうが……
- 何につけ自分のやり方が一番と思っている。 若い人には万事何事も教えたくなる。
- 「家政婦は見た!」に憧れている。

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