本記事は、門賀美央子氏の著書『この先の、稼ぎ方がわからない。50歳から考えるお仕事図鑑』(清流出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

昔ながらの在宅仕事
内職は、法人や個人から業務委託の形で手間賃仕事を受け、自宅での作業によって報酬を得ます。
作業内容は部品組み立てや梱包、シール貼り、簡単な裁縫、ゴム・ビニール製品のバリ取り(付着物や残留物などを取る作業)のような軽作業のほか、パソコンでのデータ入力などがあります。
内職の最大のメリットは、自宅で仕事ができることです。当然拘束時間や通勤時間は発生しません。また、作業に必要な物品や道具類は発注元の提供で、すべて自宅まで配送してくれるので、初期投資や継続経費はほぼゼロで仕事を始めることができます。
このため、子育てや介護など、なんらかの理由で家を空けられない人がスキマ時間で稼ぐにはちょうどよい方法と言えるでしょう。
また、自分のペースを乱されるのが苦手なタイプは、納期さえ守ることができれば、作業時間や休憩時間は完全にお任せ、自由に設定できるのが魅力です。
しかしながら、内職には見逃せないデメリットがあります。
それは異様なまでの単価の安さです。基本、内職は単純作業の出来高制のため、やればやるほど稼ぐことはできるわけですが、ひとつあたりの工賃が銭単位で設定されるのも稀ではありません。さらに、作業内容によっては仕事量の季節変動が大きく、収入が不安定になることもあります。
また、あくまで「業務委託」なので休業補償や労災保険など、雇用者なら受けられる保護などからも完全に外れます。つまり、作業中になんらかの事故が発生しても基本は自己責任になってしまいます。
よって、これ単独で生計を立てるには不向きな働き方と言えるでしょう。
おうちでのんびり、が可能
内職という言葉にどんなイメージを持っているでしょうか。
昭和の頃の漫画やドラマでは、割烹着を着たお母さんが薄暗い部屋のちゃぶ台の前に座って造花作りや封筒を折る、なんて光景が貧困家庭を表現する一種の定型だったりしました。
でも、実際の内職はそこまで暗いものではありません。家族や仲間たちと一緒におしゃべりしながら、あるいはラジオを聞きながらでもできる作業もあるので、気楽といえば気楽です。
私も、小学生の頃、幼馴染のおうちで時々靴下梱包のお手伝いなどをしたことがありました。ダンボールに入った靴下をきちんと2足揃え、透明のビニールに入れて、封紙を上から被せてホッチキスで留めます。またガチャガチャ用のおもちゃをカプセルケースに詰める仕事、なんていうのもありました。
単純作業ですが綺麗に仕上げるにはそれなりにコツが必要で、上手にできて褒められたりするとたいへんうれしく思ったものでした。ガチャガチャ作業のほうでは時々余ったおもちゃをもらえることがあり、役得気分を味わえました。ちなみにお給料はドーナツひとつとか、カルピス1杯だったような気がします。今考えると完全に労働力を搾取されていたわけですが、それでも友だち同士でワイワイやるのは楽しく、よい思い出になっています。
このように、基本は子どもでもできるような作業が多いので、仕事を発注する側もたいしてうるさいことは言いません。マニュアル通りに作業し、納期を守ることさえできれば、明日からでもできる仕事と言えるでしょう。
単純作業だからこその安さ
しかし、前述した通り工賃の安さはたいへんなデメリットです。
内職は出来高制の業務委託なので、取引先とは労使関係にはありません。つまり、最低賃金の適用外なのです。そのため工賃は時に非人道的と思えるほど安く抑えられます。
たとえば、ビニール製品のバリ取り ―― プレス加工したビニール製品を手でちぎりながら抜き出す作業などは100枚あたり40円だったりします。つまり1枚につき40銭です。お金の単位として「銭」がまだ生きているなんて、信じられませんね。でも、内職の世界では銭は十分現役です。
その結果、時給換算すると500円にも満たないケースが発生します。最安値だと1時間作業して数十円にしかならない、なんてことさえあるのです。作業への習熟度合いによって一定時間の作業量は変動しますが、それでも平均時給に達することはまずないでしょう。
では、これらよりも高給を期待できる内職はないのでしょうか。
パソコンを使った在宅ワークはもう少し単価が高いものの……
実はあります。パソコンを使ったデータ入力作業や文字起こし作業です。これらの仕事は「在宅ワーク」と呼ばれていますが、実質は内職と言えるでしょう。
データ入力作業は、クライアント(発注元の呼称はなぜか突然カタカナになります)から元データを受け取り、それを指定されたデータ・フォーマットで再入力するのが主な仕事です。だいたいの場合、入力1文字につき単価が決められており、1文字0.1円、つまり10銭ぐらいが相場のようです。作業用語はカタカナになっても単価は戦前のままなのですね。
とはいえ、当然ながら1文字だけ打つ、なんて依頼はありません。ある程度まとまった量を入力することになるので、ちりも積もればなんとやら、時給換算すると最低でも1,000円程度にはなるようです。入力スピードが速ければ速いほどたくさんの作業ができますから、本人のスキル次第ではもっと多く稼ぐこともできます。
一方、文字起こしの単価は1文字1円程度と、単なるデータ入力の10倍になります。
ただし作業にかかる時間と労力はデータ入力の比ではありません。なにせ、音声データを聞き取って、それを打ち込まないといけないわけです。
聞いた通りに入力する、と聞けば一見簡単そうですが、やってみるとなかなか大変です。私は仕事柄、インタビュー取材した音声を文字に起こす作業が日常的に発生しますが、全作業の中でもっとも骨が折れるパートであり、一番嫌いです。やらないで済むならやりたくありません。
また、音声の内容は必ずしも日常会話的なものばかりとは限りません。たとえば先端科学のシンポジウムなどでは、生涯で一度も聞いたこともないような専門用語がバンバン出てきます。人間の耳というのは不思議なもので、知らない単語はなかなか聞き取れないのです。
一般的な文字起こし作業の場合、聞き取れない部分はそのままにして、音声の経過時間を明記した上で聞き取り不能、などとして提出することは許されています。ですが、あまりにもそれが多いようでは次から仕事が来なくなるでしょう。逆に、完璧な文字起こし原稿を作成することができれば、高い単価で引き受けることも可能です。
ただ、こうしたパソコンを使った単純作業は今後どんどん減っていくと予測されます。
AI(人工知能)の急速な進歩が、人間の作業領域を侵食しつつあるからです。もちろん、AIによる音声起こしのレベルはまだまだ不完全ですが、作業補助としては十分使えるので、これまで外注してきた作業を内部でやってしまうことも増えています。おそらく、数年内には完全にAIに切り替わってしまう分野であると思われます。
その点、データ入力の需要はまだ残るでしょうが、スマホなどの普及によってデータそのものが最初からデジタル入力されることが増えています。よって、これらもまた今後は仕事量そのものが減っていくのは避けられないでしょう。
一方、靴下の封入やバリ取りがAIやロボットに取って変わられることは、少なくとも近い将来にはあり得ません。そうした作業を専門にさせる機械を作るより、低価格で人間にやらせたほうが経費を抑えられるからです。
21世紀も半ばになると、人間がパソコンに向かってやるような作業のうち、簡単なものはすべてAIに取って代わられていることでしょう。
けれどもアナログでしかできない作業は確実に残ります。技術の進歩は、人間から高時給の軽作業を奪い、昔ながらの低賃金な内職だけを残すことになりそうです。
最大のメリットは意外なところに
このように収入を得る手段としてはあまりメリットがない内職や在宅ワークですが、実はひとり暮らしの高齢者には見逃せない大きなメリットがあります。
それは「独りで死んでしまっても、長時間発見されない」リスクを減らすことができる点です。
物理の品をやり取りする内職は、必ず材料を持ってきて成果物を受け取る集配係の人がいます。少なくとも週に一度程度、多ければ毎日誰かが家を訪ねてきて、必ず会話が発生することになるのです。事は仕事に関わるので、応答がなければそのまま放置して帰る、なんてことにはなりません。必ずどこかにコンタクトを取って、結果的に安否確認をしてくれるでしょう。
高齢者の引きこもりは社会問題にもなっていますが、内職や在宅ワークで孤独死のリスクヘッジができると思えば、安い工賃でもやる価値はあるかと思います。
- こんなタイプにぴったり!
- 黙々と作業するのが好き。
- 同じことの繰り返しが苦痛ではない。
- お小遣い程度稼げればいい。
- こんなタイプはやめておいたほうが……
- 納期を守れない。
- 手先が不器用。
- 大金を稼ぐ必要がある。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます。
- 年金月10万円でどう生きる?「老後破産」から身を守る唯一の方法
- 「年齢不問」は嘘? 50代からの仕事探し、残酷な現実と賢い戦略
- 主婦の経験が武器に! 新しい働き方「ギグワーク」とは
- 孤独死を防ぐ? 低賃金でも「内職」を続ける意外な理由
- 立ち仕事は脚力が命! 50代からの接客業で生き残るには
- 趣味がお金になる? ハンドメイド作家で稼ぐという働き方
- 旅しながら働く! シニア向け「国内ワーキングホリデー」の魅力