本記事は、伊庭 正康氏の著書『リーダーの「任せ方」の順番 部下を持ったら知りたい3つのセオリー』(明日香出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

リーダーの「任せ方」の順番 部下を持ったら知りたい3つのセオリー
(画像=golubovy/stock.adobe.com)

部下のミスを恐れないリーダーになるために

失敗体験は、成功体験の「4倍のパフォーマンス向上効果」を持つ

部下が失敗すると、つい怒りや不安が先に立ってしまう。そんな気持ち、わかります。
でも、ここで一度立ち止まって考えてみてほしいのです。
「本当に、失敗は悪いことなのか?」

実は、そうではありません。
むしろ、失敗はチャンスです。
強いチーム、強い人材を育てる上で、“失敗からのサーチ行動”こそが、もっとも価値のある「学びの通過点」なのです。

アメリカのピーター・マドセンとヴィニット・デサイという研究者が、世界的な経営学術誌『アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナル』に発表した論文があります。
この研究は、なんとロケットの打ち上げを題材にしたもの。
成功か失敗かが明確に分かれる宇宙ロケットは、組織学習を研究する上で、絶好の素材です。
分析されたのは、世界9カ国、30の宇宙機関による4,646回もの打ち上げデータ。
驚くことに、その中で426回、約1割は失敗していたというのです。

そしてここから導かれた結果は、実に興味深いものでした。

発見① 成功体験は、確かに成功率を高める
確かに、過去に成功していると、その後の成功率も高まります。
組織は成功から学び、洗練されていく。それは当然のことです。
でも―。

発見② それ以上に、失敗体験のほうが学習効果は大きい
実は、失敗体験のある組織のほうが、次に成功する確率はぐんと高くなります。
たとえば、成功体験のパフォーマンス改善効果が「-0.02」とすると、失敗体験は「-0.08」。つまり、失敗のほうが、4倍も学びが深いという結果になったのです。

なぜでしょうか?
答えは、「サーチ行動」にあります。

サーチ行動とは、「新しい情報や視点、方法を自ら探す行為」のこと。
失敗を経験した時、人も組織も、「何がダメだったのか」「何を変えるべきか」と、
自ら問いを持ち、探索をはじめます。
その“問い”こそが、学習の入口なのです。

さらに、こんなデータもあります。

発見③ 失敗経験が少ないまま成功すると、その後はむしろ失敗しやすくなる
なんとも皮肉な結果です。
「成功ばかり」だと、実は危うい。
なぜなら、失敗に慣れておらず、失敗を乗り越える力を育んでこなかった代償が、のちに表れるからです。

部下の失敗を責めるのではなく、失敗から何を学んだかを問うこと。
そして、失敗をきっかけにサーチ行動を促すこと。


もう、おわかりですよね。

もし、あなたが部下の失敗に対して、ネガティブな印象を持っているなら、その考えは捨ててみてください。
強い組織、強い人材を育てるためには、仕事をどんどん任せ、時には失敗を経験させ、検証をさせることが、もっとも効果的なのです。

100点より70点のほうがいい?

自己決定感が、チームを動かす力になる

「完璧を目指すな。70点でいいから、任せろ」

かつて上司にそう言われた時、私は正直戸惑いました。
任せるって……それ、無責任じゃないの?
部下に投げっぱなしになってしまうんじゃ?
でも、今ならはっきり言えます。

「どんどん任せよう。口出しを控えよう」と。

1つの失敗談を、白状します。
ある日、私は販促プロジェクトのリーダーに任命されました。
部門の営業職100人の心に火をつけるキャンペーンをつくれ、というミッション。
6人のプロジェクトメンバーで、何度もアイデアをぶつけ合い、議論を重ねました。

キャンペーンのタイトルはどうするか?
インセンティブは?
ルールは?
デザインは?
私たちは会議を重ね、ようやく1つの企画にたどり着きました。
私自身も細かいところまで、口出しをしました。実際、ロゴのデザインにまで口出しをし、覚えたてのロゴジェネレーターで作成しました。

「これは、いい企画だ!」
私はそう確信して、役員プレゼンに挑みました。
ところが。
その場で言われたのは―期待とは逆の一言。

「このロゴ、誰がつくった?伊庭じゃないの?」
「うん、やっぱりな。全体を見ても、伊庭がけっこう口出ししてない?」

グサッときました。それは図星だったのです。

口出しするリーダーは、チームを殺す

役員は、私の目を見て、こう言いました。
「キャンペーンを成功させるには、内容より先に、“自分たちでつくった”という感覚が必要なんだよ」
つまり、“自己決定感”。
自分で決めた、自分でつくった、自分たちの手で動かしている―
その感覚があるから、人は本気になれるのです。

「リーダーが100点まで仕上げた完璧な企画」と、
「みんなで試行錯誤して、練りに練った70点の企画」、
どちらが、メンバーの心を動かすか。どちらなら、彼らは本気で動くか。

……答えは、明らかでした。

私の失敗は、よかれと思って「手を出しすぎた」ことでした。
その結果、「自分たちでつくった」という感覚は、メンバーから奪われていたのです。

どれだけ内容がよくても。どれだけ経験が豊富でも。
それが“リーダーの手柄”になった瞬間、チームの温度は下がります。

「自己決定感」こそが、メンバーの心を動かし、成果を生み、
そして、チームを“自走”させる原動力になるのです。

あなたのチームでも、ぜひ、試してみてください。
完璧な100点より、ちょっと不格好でも、“自分たちの70点”を大切にする―
それが、最高のチームづくりの第一歩です。

リーダーの「任せ方」の順番 部下を持ったら知りたい3つのセオリー
伊庭 正康(いば・まさやす)
(株)らしさラボ 代表取締役 リクルートグループ入社後、法人営業職として従事。プレイヤー部門とマネージャー部門の両部門で年間全国トップ表彰を4回受賞。累計40回以上の社内表彰を受け、営業部長、社内ベンチャーの代表取締役を歴任。2011年、研修会社(株)らしさラボを設立。リーディングカンパニーを中心に年間200回を超えるセッション(リーダー研修、営業研修、コーチング、講演)を行っている。実践的なプログラムが好評で、リピート率は9割を超え、その活動は『日本経済新聞』『日経ビジネス』『The21』など多数のメディアで紹介されている。Webラーニング「Udemy」でも、時間管理、リーダーシップ、営業スキルなどの講座を提供し、ベストセラーコンテンツとなっている。

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