本記事は、伊庭 正康氏の著書『リーダーの「任せ方」の順番 部下を持ったら知りたい3つのセオリー』(明日香出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。
“失敗”を定義しておく
投資になる失敗がある
リーダーが「任せきれない……」と感じる時、
その根っこには「このままじゃ、大失敗するかもしれない」という恐怖があります。
でもここで大事なのは、失敗には種類があるということ。
任せる前に、“失敗”の定義をしておくことが重要です。
・投資になる失敗
・取り返しのつかない失敗
この2つは、分けて考える必要があります。
先に答えを言いますね。
現場レベルでは、ほとんどのことは「投資になる失敗」です。
なので、「取り返しのつかない失敗ではない限り、失敗ではない。むしろ投資である」と定義しておきましょう。
たとえば、
・提案書の誤字。
・初回のヒアリングで要点を聞き漏らす。
・上司に確認せず、自分で判断して少し遠回りになる。
これらは、きちんと振り返りの機会を持てば、確実に成長につながります。
「なぜ、そうなったのか」「何が問題なのか」「今後はどうするべきか」を考える経験となり、次に活かせるものです。
言うならば、「成長コストとしての失敗」です。
ここで学んだことは、次回には改善され、むしろ精度が上がります。
では、「取り返しのつかない失敗」とは何でしょう?
・お客様の信用を失うレベルの対応ミス。
・機密情報の漏洩。
・大規模な納期遅延で損失を与えるケース。
こういったものは、「守るべき一線」として、任せる前に必ず確認しておくべき領域です。
これらは、報告のルールを最初に設けておくことで、解消できます。
「70点でよし」と言える勇気
リーダーがついやってしまいがちな罠―それは、完璧主義。
でも、覚えておきましょう。
100点を求めて任せるのは、任せていないのと同じです。
任せた結果、7割できていれば、それはOK。
残りの3割を、リーダーが手を加えて帳尻を合わせるのではなく、
「一緒に考える」のか、あえて70点のままでいくのか。
完璧を求めると、チームの温度は下がり、部下は“正しい答え”を探すようになり、挑戦を避けます。
リスクがなく、成長の投資になることであれば、70点でいくのも胆力です。
でもリーダーが求めるべきは、「正しい回答」より「正しく任せる」ことです。
自ら考え、やってみて、振り返り、また考える。
このプロセスがあるからこそ、部下は“自分の答え”を見つけ、チーム全体が“自律型”になっていくのです。
信じるには“安心”が必要です。
実は、その安心は、「失敗の定義」を明確にすることからはじまります。
「任されて嬉しい」状態にする
大事なことは、部下がどう感じるか
「そろそろ、これを君に任せてみようと思うんだ」
この一言を聞いた瞬間、部下はどのように感じるでしょうか。
ワクワクするのか、不安になるのか、それとも―げんなりしてしまうのか。
実は、この分かれ道を決めるのも、「任せる側の準備」にかかっているのです。
部下が「任されて嬉しい」と思える状態をつくること。
それが、任せる上での“スタートライン”になります。
やらされ感では、人は本気で動こうとしません。
任せる際には、「やってみたい」と思ってもらえるような関わり方が必要です。
では、どうすればよいのか。
まず、なぜその仕事を任せるのか、理由を明確に伝えることです。
表面的に「期待しているから」という言葉だけでは、部下は納得しません。
必要なのは、もっと具体的で、本人にとって意味のある説明です。
「この仕事を通じて、あなたはどのような成長ができるのか」
「この経験が、あなたの将来にどうつながるのか」
ここまで伝えて、ようやく部下の中に「自分ごと」としての納得感が生まれるのです。
ただし、注意したいのは、“出世”“昇格(=昇給)”をモチベーションにしない部下は少なくないということ。
あしたのチームの調査(20代〜40代男女の「出世に関する意識調査」)では、出世に関心がある人は男性62.7%、女性は32.3%。また、年齢が上がるほどに、出世に関心を持たなくなる傾向を示しています。
こういった価値観の違いを知り、それを認める必要があります。
なので、面談の機会を持ち、聞いておくことが任せる前には必要なのです。
「〇〇さんは、今後、どんなことに挑戦してみたいですか?」
「〇〇さんが、将来こうなっていたら理想、という姿はありますか?」
「〇〇さんが今、伸ばしていきたいと思っている力は何でしょうか?」
このように、“ありたい姿”や“伸ばしたい能力”を聞いておくこと。
それが、任せる理由づくりの第一歩になるのです。
この面談の具体的な進め方については、この後詳しく紹介しますね。
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