本記事は、小山 昇氏の著書『生成AIでわかった 経営者のための人材定着術』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

人を育てるために欠かせない3つの原則
「手は放すが目は離さない」が社員教育の基本
最近よく耳にするのが、「今の若い人たちは打たれ弱い」「ちょっとしたことで辞めてしまう」といった声です。
実際、マルコポーロやミルメなどの心理分析ツールの結果を見ても、就活生や新卒社員のストレス耐性は低い傾向にあります。
若者のストレス耐性が低下しているのは、本人の甘さや個人の資質の問題ではなく、「育て方と社会環境の問題」であると私は考えています。
親や教師が先回りして「転ばぬ先の杖」を与えすぎれば、子どもは「転んで立ち上がる力」や「自分で判断して責任を取る経験」を積む機会を失います。
結果として、少しの失敗でも「自分は否定された」と感じたり、ちょっとした困難に「耐えられない」と感じたりしてしまう。これはその人自身が弱いというより、「杖を与えてもらえる環境」で育ってきたからです。
人は、本来、困難を乗り越えることで強くなります。ある程度の失敗や挫折を経験しながら、「それでも前に進む力」を身につけていくものです。
しかし、何もかもがスムーズに与えられてきた環境では、その力が育ちにくい。本人が自分で悩み、考え、答えを出した経験があるから、「自分はやれる」「乗り越えられる」という自信が育ちます。
社員に与えすぎてはいけない。与えすぎは成長の機会を奪う
「社員に与えすぎない」が武蔵野の方針です。
2003年までは、経営計画書を私がひとりで完成させて「はい、これを使いなさい」と渡していましたが、現在では幹部社員をその作成に参画させています。毎年3月に部長職以上とチームリーダー、サブリーダーが集まって、来期の経営計画書を作成します。
また、「事業部アセスメント(年2回)」では、全従業員(パート・アルバイト含む)が参加して6カ月間の実行計画書を作成。「チームアセスメント(年2回)」では、部門横断的に編成されたチームに分かれて、6カ月間の実行計画書を作成します。
社員が自ら考え、発表し、仲間と意見を交わす。そのプロセスがあるから、当事者意識が育ち、仕事に夢と責任を持てるようになる。
社員教育でもっとも重要なのは、「手を出すこと」ではありません。
「手を放して、目を離さない」
ことです。
つい口や手を出したくなる気持ちもわかります。しかし、本人が悩んでいるときこそ、あえて距離を取り、見守る。そして、必要なときにはそっと声をかけることで人は育ちます。
「与えすぎ」は一見親切でも、実は育てる機会を奪っています。「自分で選ばせる」「自分で考えさせる」ことが働く動機につながります。
私は、社員に何かを教えるとき、「まず体験させる」ことを大切にしています。体験がなければ、何を教えても理解できません。自転車に乗ったことがない人に、乗り方を説明したところで乗れるようにはならないのと同じです。
実際に自転車にまたがって、ときには転び、痛みを知り、自分で工夫して、少しずつバランスをつかんでいく。その過程を経て、人ははじめて「できる」ようになります。失敗や痛みは、成長への通過点です。
- 与えすぎないこと。
- 見守ること。
- 体験させること。
この3つが、人を育てるために欠かせない原則であると、私は確信しています。

1948年、山梨生まれ。東京経済大学卒業後、1976年に日本サービスマーチャンダイザー(現・武蔵野)に入社。一時期、独立して自身の会社を経営していたが、1987年に株式会社武蔵野に復帰し、1989年より社長に就任。赤字続きだった武蔵野を増収増益、売上75億円(社長就任時の10倍)を超える優良企業に育てる。2001年から同社の経営の仕組みを紹介する「経営サポート事業」を展開。現在、700社超の会員企業をサポートし、400社が過去最高益となっているほか、全国の経営者向けに年間240回以上の講演・セミナーを開催している。1999年「電子メッセージング協議会会長賞」、2001年度「経済産業大臣賞」、2004年度、経済産業省が推進する「IT経営百選最優秀賞」をそれぞれ受賞。2000年度、2010年度には日本で初めて「日本経営品質賞」を2回受賞。2023年「DX認定制度」認定。2025年3月、健康経営への取り組みが評価され、健康経営優良法人「ホワイト500」に認定。
本書は、「勤続10年以上社員の退職者が10年で5名」「入社3年以内新卒社員の定着率91%」を実現する武蔵野の社内ナレッジをデータ化し、AIによって分析・検証。「人が辞めないマネジメント」の要諦をまとめたものである。『1%の社長しか知らない銀行とお金の話』『成長する会社の朝礼』『人が輝く経営のすごい仕組み』(あさ出版)、『会社を絶対潰さない 組織の強化書』(KADOKAWA)、『「儲かる会社」の心理的安全性』(SBクリエイティブ)、『改訂3版 仕事ができる人の心得』(CCCメディアハウス)など著書多数。
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