本記事は、小山 昇氏の著書『生成AIでわかった 経営者のための人材定着術』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

荷物を持ち移動するビジネスウーマン
(画像=mapo / stock.adobe.com)

しがらみのないコミュニティには、人を動かす力がある

「しがらみ」とは、古いしきたりや人間関係に縛られること

人が辞めない組織をつくる上で大切なのは、
「しがらみのないコミュニティをつくること」
です。

「しがらみ」とは、「古いしきたりや人間関係に縛られること」です。

見えない上下関係、気を遣わなければならない空気、言いたいことも言い出しにくい雰囲気――こうした目に見えない圧力が「しがらみ」です。

本来、仕事は成果を出すために行うものなのに、「誰の顔を立てるか」「あの人との関係を壊さないように」「先輩より先に帰ってはいけない」といった、本来の目的とは関係のない配慮が入り込みます。これが、しがらみです。

しがらみが積み重なると、心がどんどん窮屈になっていき、結果として、挑戦も変化も起きにくくなります。

一方で、しがらみのない職場には自由があります。自分の考えを伝えることができ、新しいことに挑戦できる。自分の力を試せる環境が整っているから、やりがいが生まれます。

若い人の多くが地方よりも東京を選ぶのも、「しがらみが少ない」からです。古いしきたりに縛られず、頑張った人が報われる環境がある。だから、地方から人が集まります。

同じ現象は海外でも見られます。たとえば、コロナ前に訪問した中国の深圳。

深圳はもともと小さな漁村で、1979年当時の常住人口は約31万人でしたが、現在では約1,800万人都市に成長しました。深圳が急成長した理由も、「しがらみがないから」です。出身地やコネに左右されず、実力で評価される場所だから、若い人財が集まり、「テンセント」や「アリババ」のような大企業が生まれました。

一番人気がなかった部署が「一番人気がある部署」に変わった理由

私は、コロナ禍の2020年に「クリーン・リフレ事業部」を立ち上げました。「クリーン・リフレ」は、北海道帯広市の農業施設メーカー「アクト」が開発した電解除菌水です。

立ち上げ当初は社内でも注目度が低く、赤字を計上し、「若手社員にもっとも人気のない事業部」でした。

ですが現在は、「若手社員に一番人気の事業部」に変わっています。

なぜ、そこまで変わったのか。

理由は明確です。現在のクリーン・リフレ事業部の営業には、若手社員しかいないからです。つまり、しがらみが一切ありません。

年功序列や上下関係に縛られることもなく、まるでクラブ活動のようにのびのびと働くことができる。そうした雰囲気が、若手の自由な発想と自発的な行動を引き出しました。

しがらみのないコミュニティには、人を動かし、組織を変え、業績さえも好転させる力があります。

クリーン・リフレ事業部に配属された社員の退職者はひとりもいません。クリーン・リフレ事業部は、2025年5月経営計画発表会で、優秀事業部賞を受賞しました。

人事異動を行うときは、元の上司と部下を切り離す

私が人事異動(社内転職)にあたって、元の上司や部下を同じ部署に送り込まないのも、「しがらみを断つ」ためです。

これまでの関係性をリセットし、新たな人間関係の中でスタートを切ることで、社員がより柔軟に考え、成長できるようになります。

この考え方(元の上司と部下をセットにしないこと)を伝えるとき、私は『安寿と厨子王』という昔話を例に挙げています。この昔話には、組織づくりにも通じる大事な視点が含まれています。 

安寿と厨子王は、京都の貴族の兄妹です。父を亡くし、母とともに故郷を目指して旅をしている途中、悪人にだまされ、人買いに売られてしまいます。

2人は丹後の国の山椒大夫のもとで、奴隷のように働かされますが、姉の安寿は弟・厨子王を逃がすため、自ら犠牲となります。逃げ延びた厨子王は、成長して役人となり、山椒大夫の悪行を糾し、人々を救います。そして、母との再会も果たします。

この物語が教えてくれるのは、
「別々の環境で、それぞれが自立することの大切さ」
だと私は解釈しています。

私は組織の中も、あえて人を切り離し、新たな場に送り出すようにしています。「あえて離れる」ことが人を成長させます。過去の関係にとらわれず、新しい環境に入ることで、自立し、新しい関係性を築き、個人も組織も成長します。

生成AIでわかった 経営者のための人材定着術
小山 昇(こやま・のぼる)
株式会社武蔵野代表取締役社長。
1948年、山梨生まれ。東京経済大学卒業後、1976年に日本サービスマーチャンダイザー(現・武蔵野)に入社。一時期、独立して自身の会社を経営していたが、1987年に株式会社武蔵野に復帰し、1989年より社長に就任。赤字続きだった武蔵野を増収増益、売上75億円(社長就任時の10倍)を超える優良企業に育てる。2001年から同社の経営の仕組みを紹介する「経営サポート事業」を展開。現在、700社超の会員企業をサポートし、400社が過去最高益となっているほか、全国の経営者向けに年間240回以上の講演・セミナーを開催している。1999年「電子メッセージング協議会会長賞」、2001年度「経済産業大臣賞」、2004年度、経済産業省が推進する「IT経営百選最優秀賞」をそれぞれ受賞。2000年度、2010年度には日本で初めて「日本経営品質賞」を2回受賞。2023年「DX認定制度」認定。2025年3月、健康経営への取り組みが評価され、健康経営優良法人「ホワイト500」に認定。
本書は、「勤続10年以上社員の退職者が10年で5名」「入社3年以内新卒社員の定着率91%」を実現する武蔵野の社内ナレッジをデータ化し、AIによって分析・検証。「人が辞めないマネジメント」の要諦をまとめたものである。『1%の社長しか知らない銀行とお金の話』『成長する会社の朝礼』『人が輝く経営のすごい仕組み』(あさ出版)、『会社を絶対潰さない 組織の強化書』(KADOKAWA)、『「儲かる会社」の心理的安全性』(SBクリエイティブ)、『改訂3版 仕事ができる人の心得』(CCCメディアハウス)など著書多数。

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