「プライベートバンク」「富裕層ビジネス」「ウェルスマネジメント」など、言い方や呼び方は違っても、ベースとなる発想は皆同じだ。手数料自由化がどんどん進み、世界中で超低金利争いとなり、従来のようにふんぞり返ったビジネスを続けられなくなった金融業界が、そのラストリゾートと見込んで突進しているのがこの方向だという話を前回お伝えした。つまり、この世界ならば未だこれからも金融業界が収益を生み出せると考えているという話だ。

さて、連載第2回目となる本稿では「金融業界の公然の秘密」でもある、この業界の基本的な考えが「性悪説」で出来ているということをお伝えしたい。後段で述べる通り、「性悪説」とは金融業界が悪人ばかりの業界という意味では無い。そもそも「性悪説」とは「人の本性は悪であり、努力することによって善を獲得出来る」という孟子の教えを源流としている。

読者の中には「何故、連載2回目に?」と思われるかも知れないが、まずはこれを知っておいて貰わないと、善良な個人投資家の人達が金融業界の新たな潮流の中で単に傷つくだけであり、真面目な金融マンが、唯々組織とお客様の狭間でストレスの塊になって擦り減っていくだけだからだ。筆者は善良な個人投資家の人達には「投資を楽しんで資産運用をして頂きたい」と考え、それをサポートする真面目な金融マンには「正しく日の目を見て貰いたい」と常々思っている。そのお手伝いをしたいというのが筆者の長年の信条であり、筆者が運営するFund Garageの基本哲学としても共通する。

金融業界の「下司野郎」と「スチュワードシップ」

富裕層,資産運用
(画像=Wanabring / pixta, ZUU online)

筆者は35年間も金融業界を歩んできたこともあり、好むと好まざるにかかわらず、多くの所謂「金融マン」と出会ってきた。その中には心の底から心酔出来るような素晴らしい人もいたし(今でも沢山いる)、反対に飛んでも無い「この下司野郎!」と心の中で罵った輩も少なからずいる。ただそれは特に金融業界に限った話ではなく、世の中どの業界でも同じことなのだろうとは思う。世の中には様々な考えの人が居るのだから。

しかし資産運用業界、取分け最近多くの金融機関がこぞって同じ方向を向いて突進している「富裕層ビジネス」に関しては、その飛んでも無い「下司野郎」のたぐいに居て貰っては困る。資本主義の総本山であるマーケット業務で綺麗ごとを言うつもりは毛頭ない。だが「勝つか、負けるか」の真剣勝負の場だからこそ、要らぬところで知らぬ間にハンディを背負って欲しくないと思っている。

金融庁もこの業界の基本的な考えが「性悪説」で出来ているのは当然背景も含めて充分把握している。だからこそ、2014年2月26日に「スチュワードシップ・コード」なるものが策定され、早くもその3年後の2017年5月29日はその改訂版を策定している。

だが残念ながら「スチュワードシップ・コード」と言われて直ぐに意味が分かる個人投資家や金融マンはそんなには居ないであろう。英語で書くと「Stewardship Code」となるが、そもそもこの「スチュワードシップ(Stewardship)」という英単語自体が多くの日本人には馴染みが薄い。

筆者も最初にこの単語を耳にしたのはバークレイズに入社してからだ。英国でイングランド銀行よりも歴史がある大手銀行のウェルスマネジメント部門だったからこそ、ISSヘッドに就任して最初に叩き込まれた考え方のひとつがこれだった。だが、この「スチュワードシップ」こそ長年モヤモヤと感じていたことの答えだと分かった。

スチュワードシップの真髄は、映画『バットマン』にも見られる