本記事は、桑原晃弥氏の著書『逆境を打ち破る イチローの名言』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

key words
(画像=AmazingArt / stock.adobe.com)

成績は出ているから今の自分でいいんだ、
という評価をしてしまっていたら、今の自分はない

『イチローに糸井重里が聞く』

ビジネスの世界に「失敗した時の反省は誰でもするが、成功した時の反省はしない」という言い方があります。失敗をしたり、大きなミスをした時というのは、「なぜこんなことが起きたのか」と落ち込むし、反省をするものですが、成功したり、大きな成果が出た時には、「良かった」「でかした」と大喜びします。みんなが喜んでいる時に、「でも、こういうミスがあったよね」などと言おうものなら、それこそ水を差すことになるだけに、たいていのミスや失敗は「結果オーライ」と見逃されることになります。

イチローはオリックス・ブルーウェーブに9年間在籍し、一軍に定着してからの7年間は7年連続首位打者を達成し、ベストナインとゴールデン・グラブ賞にも7年連続で選出されています。打率は7割7分前後で、最も低い年で3割4分2厘(1995年)、最も高い年には3割8分7厘(2000年)というのですからコンスタントに圧倒的な成績を残し続けています。

ところが、イチローは糸井重里との対談の中で、「96年、97年、98年、99年4月まで、スランプは続きました」と話しています。

96年というのはオリックスがパ・リーグで連覇を果たし、日本一に輝いた年です。イチローは3年連続のMVPにも選ばれていますが、にもかかわらずバッティングの形が見つからず、「光が見えてこなかった」というのです。

こう言うと、たいていの人は「でも、すごい成績を残しているよね」と不思議に思いますが、イチローにとってのスランプはよくある「結果が出ていない」ことではなく、「感覚をつかんでいないこと」となります。そのため周りから見ると、ちっともスランプではないにもかかわらず、イチローはそれを「スランプ」と考え、「ピッチャーが投げている途中で、もう打っている」という感覚を求めて試行錯誤していました。

イチローは言います。

「結果が出ていることと、自分が満足していることは必ずしも一致しない」

「結果が出る」のはもちろんすごいことだし、素晴らしいことですが、その過程を見ればミスもあるし、失敗もあるものです。それを無視して、「良かった、良かった」となるか、反省して次への教訓とするか。イチローは結果だけを見て満足することなく、試行錯誤を続けたからこそ結果を出し続けることができたのではないでしょうか。

ワンポイント
結果だけで満足することなく、成功した時にも反省しよう。

苦しんだからって報われると思っていたら、大間違いでしょう。
同じ苦しむにしても、考えて苦しまないと

――『日本野球25人 私のベストゲーム』

スポーツに限らず仕事でもほとんどの人が毎日、一生懸命やっているし、精一杯頑張っています。にもかかわらず、成果が上がる人もいれば、思うように成果が上がらない人もいます。一体、どこに違いがあるのでしょうか。

中には「自分はこんなに一生懸命にやっているのに成果が上がらない。なんて運が悪いんだ」

と運の悪さを嘆く人もいるかもしれません。こうした声に対し、イチローははっきりとこう言い切っています。

「一生懸命やっています、はあくまでも他の人から言ってもらうことであって、自分から言うことではない」

たしかに人間というのは自分のことは過大評価する傾向があります。そのため、自分では一生懸命やっているつもりでも、周りの人たちから見れば、「まだまだ」ということも少なくありません。周りが「あいつ、本当に一生懸命やっているよな」と言うのは、本人が思っている一生懸命の120%くらいやって初めて出てくる評価です。

では、ただ「今よりもっと」頑張ればいいのかというと、決してそうではありません。ここでもイチローはこう言い切っています。

「苦しんだからって報われると思っていたら、大間違いでしょう。同じ苦しむにしても、考えて苦しまないと。何も考えないでただ苦しんでいてもダメだということですね」

イチローは高校生の頃は「やるべきことをやり、全力を出し切った」という経験はないといいます。練習でもやれと言われたことはやらなかったとし、常に手を抜いていたといいます。

何とも厄介な生徒ですが、それでもチームを3度の甲子園に導き、3年生の予選では7割もの打率を残しています。それを可能にしたのは「自分で決めたこと、やろうと決めたことに対しては、決して手を抜くことはなかった」といいます。

ここに成果を上げる人と、そうでない人の差があるようです。

上から言われたがまま、やらされるだけの練習を繰り返すだけでは、それがどんなに苦しくつらいものでもやはり限界があります。「一生懸命にやった」という満足感はあっても、そこにイチローの言う「自分で考える」「自分で決めた」が加わらないと頑張っただけに終わるのです。頑張ることは大切なことですが、できるなら自分で考え、自分で決めて、それをやり続ける。

それがあって初めて大きな成果が生まれるのです。

ワンポイント
一生懸命は大切だが、そこに「自分で考える」が加われば成果につながりやすい。
『イチローの名言』より引用
桑原晃弥(くわばら てるや)
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。一方でスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどの起業家や、ウォーレン・バフェットなどの投資家、本田宗一郎や松下幸之助など成功した経営者の研究をライフワークとし、人材育成から成功法まで鋭い発信を続けている。
著書に『栗山英樹の言葉』(リベラル社)、『限界を打ち破る 大谷翔平の名言』『藤井聡太の名言』『世界の大富豪から学ぶ、お金を増やす思考法』『自己肯定感を高める、アドラーの名言』『不可能を可能にする イーロン・マスクの名言』(以上、ぱる出版)などがある。

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