本記事は、桑原晃弥氏の著書『逆境を打ち破る イチローの名言』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

野球
(画像=Vadym / stock.adobe.com)

日本で7年連続で首位打者を獲っていた選手がメジャーで平凡な成績で終われば、
日本の野手の評価に関わるということは常に頭にありました

――『Number』1000

今では大谷翔平を始めとしてMLBで活躍する日本人選手は増えています。それどころか日本人選手にとっては不可能と言われた本塁打王を2年連続で獲得し、シーズンMVPを2度も獲得する大谷の存在によって、アメリカのマスコミや野球界が日本人野球選手の力を否定する論調はほとんどなくなりました。

しかし、イチローがシアトル・マリナーズに入団した2001年当時は、野茂英雄によって日本人投手の力は認められていたものの、日本人野手がMLBで通用するとはほとんどの人が信じていませんでした。それは日本で数々の記録を打ち立てたイチローでさえ例外ではありませんでした。

イチローによると、初めてのスプリング・トレーニングでマイク・ハンプトンという投手と対戦した時、記者から言われたのは「彼からヒットを打てると思いますか」という質問でした。

イチローはMLBの野手に比べてどうしても小さく見えます。身長はともかく、細身の身体で非力に見えるのでしょう、「お前にこっちのピッチャーのボールが打てるのかい?」という皮肉を込めた言い方だったのでしょうか。

イチローはこの質問のことを「一生忘れない」と話していますから、それほどに「通用しない」と思われていることは屈辱であり、侮辱でした。当時を振り返ってイチローはこう話しています。

「日本から来た初めての野手として、責任と覚悟を持って挑んだことは、はっきりと覚えています」イチローは日本で7年連続で首位打者に輝き、210本という最多安打記録も樹立しています。

その選手が通用しなければ、日本人野手への評価はさらに厳しいものになり、後に続く選手はさらなる苦労を強いられることになります。2001年4月、シアトルでの開幕戦、一番ライトで出場したイチローは、「日本人野手の評価は僕で決まる」という覚悟を胸に試合に臨みます。

アスレチックスのスーパーエース、ティム・ハドソンに3打席目までは完璧に抑えられますが、投手が交代した第4打席、イチローはセンター前に抜けるヒットを放ちます。この1本のヒットがなければイチローの運命も、そしてその後の日本人野手の運命も変わっていたのではないかというほどの一打でした。

ワンポイント
自分が背負っているものは何かを意識して行動する。

自分のためにプレーするのがプロ、プロが集まればチームは勝てる

――『イチロー、終わりなき挑戦の軌跡』

「私は11人のベストな選手とではなく、11人でベストとなるチームでプレーしているのだ」は、初期のアメリカンフットボール選手で、ノートルダム大学の伝説のヘッドコーチと言われるニュート・ロックニーの言葉です。ロックニーによると、スタープレーヤーばかりを集めたからといって、必ずしも強いチームになれるとは限らず、大切なのは、全員がチームの勝利に向かって一つになれるかどうかです。

チームスポーツでしばしば課題になるのが個人の成績とチームの成績が必ずしもイコールにはならないことです。ホームラン王や首位打者を獲るようなスタープレーヤーがいれば、絶対に優勝できるかというと、必ずしもそうではありません。圧倒的なスーパースターはいないものの、チームとしてのまとまりが抜群でいい成績を上げるチームもたしかに存在します。

シアトル・マリナーズはイチローが加入した2001年こそMLBのシーズン最多勝利記録に並ぶ116勝を上げて、リーグ優勝を果たしていますが、次にポスト・シーズンに出場したのは2021年と長い低迷期に入っています。このようにチームが勝てない中でもイチローはMLBのシーズン最多安打記録を更新したり、10年連続200本安打など数々の記録を更新します。

そんなイチローに対し、マリナーズの選手の中から「自分の記録しか考えていない」と批判する声が聞こえてくるようになったのです。イチローの考え方は、「自分のためにプレーするの がプロ、プロが集まればチームは勝てる」というものです。「自分さえ良ければ」ということではありません。イチローは言います。

「チームが勝って、自分の成績も良かったというのが理想です。でも、自分の結果が全然なのにチームが勝ってそれでいい、というのならそれではプロの選手として魅力がないと思う」

イチローを批判する選手たちは、口では「チームのために」「勝つために」と言うものの、では自分のできるベストを尽くしているかというと、そうは見えない選手がいたのです。プロ野球選手の理想は、大谷翔平がよく言うように「打って、投げて、走って、そしてチームが勝つ」

ことです。プロである以上、常に自分のベストを尽くす。そしてチームが勝つためには時にエゴも捨てられる。それが本物のプロなのです。

ワンポイント
まずはベストなプレーヤーであれ、そして時に献身的であれ。
『イチローの名言』より引用
桑原晃弥(くわばら てるや)
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。一方でスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどの起業家や、ウォーレン・バフェットなどの投資家、本田宗一郎や松下幸之助など成功した経営者の研究をライフワークとし、人材育成から成功法まで鋭い発信を続けている。
著書に『栗山英樹の言葉』(リベラル社)、『限界を打ち破る 大谷翔平の名言』『藤井聡太の名言』『世界の大富豪から学ぶ、お金を増やす思考法』『自己肯定感を高める、アドラーの名言』『不可能を可能にする イーロン・マスクの名言』(以上、ぱる出版)などがある。

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