本記事は、桑原晃弥氏の著書『逆境を打ち破る イチローの名言』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

MLB
(画像=Констянтин Батыльчук / stock.adobe.com)

安心させるためには、ミスをしない、
当たり前のことを怠らない、
バックアップに回る、そういうプレーをきっちりやることです

――『イチローイズム』

野球に限らず、ほとんどの仕事は人と人が一緒に取り組み、人から人へと受け継がれていくものだけに、そこにお互いの信頼は欠かせません。こうした信頼は一朝一夕にできるものではなく、日ごろの地道な努力も必要になってきます。

イチローの武器は圧倒的なヒットを打つ力であり、走る力ですが、もう一つ忘れてならないのが「レーザービーム」に代表される卓越した守備力にあります。イチローの守備率は日本時代が9割9分1厘と極めて高いものがありますが、MLBではさらに高く9割9分3厘を記録しています。

28年間の失策数が56個ですから、年平均わずか2個という鉄壁の守備を誇っていました。

現在、MLBには何人もの日本人選手がいますが、野手として内野や外野の定位置をつかんでいる選手は1人もいません。登録は外野手でも守備力を疑問視されているケースが多く、DHを務めることになりますが、イチローほどの守備力があれば、仮に少しくらい打てなくてもレギュラーとして使われます。それほどにMLBは守備力も求められるわけですが、イチローは外野手としては歴代でもトップレベルでした。

それほどの守備力を誇るイチローですが、常に心がけていたのが「味方が安心できる外野手である」ことでした。イチローによると、時々はいいプレーをするものの、プレーにムラがあり、チョンボをする恐れのある選手では投手を始めとする味方は安心することはできません。では、安心できる選手とはどういうものでしょうか?

イチローによると、「安心させるためには、ミスをしない、当たり前のことを怠らない、ゴロが飛んだらそのバックアップに回る、そういうプレーをきっちりやること」が大切になります。

さらにゴロを捕る時にはグラブを立てるなど、当たり前のことを当たり前にしっかりとできる選手というのは、相手から見てもスキがなく、味方から見ると安心できることになります。まずはこうした基本がしっかりしていることが大前提で、そうしたプレーを日ごろからやっているからこそ、トリッキーなプレーも生きてくるし、レーザービームでランナーを刺すといったスーパープレーも可能になるのです。

仕事でもそうですが、「あいつは信頼できる」というのは、時折の派手なプレーよりも、当たり前のことを当たり前に徹底してできる人のことです。そういう人は信頼できるし、いざという時も頼りになるのです。

ワンポイント
派手さを求めず、当たり前のことを当たり前に徹底してできる人であれ。

1年だけなら、とんでもない記録を残せる人って、いるんです。
これが10年続けるとなると、偶然ではあり得ない

――『Number』1000

プロ野球の世界というのは厳しいもので、たとえばメジャー1年目の選手が一時期ホームランを量産したり、あるいは勝ち星を重ねたとしても、2、3ヵ月も経つとほとんど打てなくなったり、簡単に打ち崩されるということがあります。その選手の調子が悪くなったというよりも、ライバルチームの研究が進み、それまで通用していた技術が通じなくなったということのようです。

同様に1年間は驚くような活躍をしたものの、次の年からは思うように打てなくなったり、勝てなくなったりする選手もいます。1年の活躍を経てライバルチームの研究が進むだけに、当人がそれを意識してさらなる進化を続けない限り、2年目は平凡な成績に終わることがよくあります。あるいは、ケガなどで試合に出られないこともあり得ることです。そう考えると、イチローのように10年連続200安打を続けたり、10年連続のゴールドグラブ賞を獲得するのはまさに驚異の記録と言えます。

1年だけの圧倒的な成績より、10年もの間、安定した成績を残し、記録を更新し続けるというのはとても難しいことです。イチローは言います。

「1年だけなら、とんでもない記録を残せる人って、いるんです。これが10年続けるとなると、偶然ではあり得ない。それをイメージできる人にしか達成できない。262本は、イメージしなくてもひょっとしたらできるかもしれない。がむしゃらにやっていれば、そこへ行き着く可能性はある。でも、がむしゃらで10年は続きません」

イチローは早い時期から「太く長くやりたい」と考えていました。「細く長く」や、「太く短く」という考え方はあっても、「太く長く」という言い方をする人はいません。しかし、イチローは「太く短く」は、コンスタントに力を出すことへの自信がないからこその言い方であり、「細く長く」は、抜きん出たものがなく、平々凡々と、しかしできるだけ長くやっていきたいという消極的な考え方と見ていました。

同様に別項でも触れたように「記録より記憶」も、記録をつくれない人間の考え方だと嫌っていました。イチローが目指したのはすごい記録をつくりながら、なおかつそれを可能な限り長く続けていくことでした。そしてそのためには技術を磨くだけでなく、長く活躍できるだけの体力や準備も欠かすことができません。長く活躍し続けるためには絶えざる進化と、心身の鍛錬が必要なのです。

ワンポイント
「細く長く」でも、「太く短く」でもなく、「太く長く」を目指す。
『イチローの名言』より引用
桑原晃弥(くわばら てるや)
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。一方でスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどの起業家や、ウォーレン・バフェットなどの投資家、本田宗一郎や松下幸之助など成功した経営者の研究をライフワークとし、人材育成から成功法まで鋭い発信を続けている。
著書に『栗山英樹の言葉』(リベラル社)、『限界を打ち破る 大谷翔平の名言』『藤井聡太の名言』『世界の大富豪から学ぶ、お金を増やす思考法』『自己肯定感を高める、アドラーの名言』『不可能を可能にする イーロン・マスクの名言』(以上、ぱる出版)などがある。

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