本記事は、澤上 龍氏の著書『長期投資家の思考法 資産を増やし、社会を豊かにする』(明日香出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

長期投資家の思考法 資産を増やし、社会を豊かにする
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日本には本当の意味での投資がない?

資産運用とは、おカネを上手に働かせること。言葉のとおり、資産をどのように用いて運ぶかが重要で、時間が経つにつれて結果に大きな差がつく。大切なおカネを寝かせていてはモッタイナイ…… 運用するのだ。
投資・運用という言葉。一緒くたにされがちな両者だが、実は別物。それぞれの意味を知ると印象も行動も大きく変わるはずだ。
投資と運用はどう違い、どんな意味を持つのか。こうした疑問を紐解いていく。

「博打」「投機」「投資」「運用」の違い

投資・運用と聞くと、博打・投機・投資・運用のすべてを含むと考えられがちだ。共通するのは「最初におカネを出す」ことと「おカネを増やすのが目的」だということ。それだけであれば全部一緒だと考えられても仕方がない。しかし視点を変えると違いが見えてくる。
分かりやすいのは時間軸。結果が出るまでに求められる時間は博打が最も短く、投機、投資と増えていき、運用が最長となる。そして、それぞれの違いの決定打となるのが「何におカネを出しているか」、つまりおカネを出す相手・対象だ。それぞれ詳しく見ていこう。

【博打】
博打をするとき、人は何に対しておカネを出しているのだろうか。パチンコとは? 競馬とは? どれだけ考えても正しい解答が見当たらない。あるとすれば運となるか。パチンコなら当たりそうな台を選んだり、宝くじなら買い方を工夫したり、そして競馬なら血統や人馬一体の調子を観察したり…… しかし勝ち負けを決める絶対的な要素は存在しない。つまり最後は運任せだ。
ちなみに博打の面白いところは、開始の合図でゲームがはじまり、終了の合図で勝ち負けがはっきりと決まること。プレーヤーは常にゲームのなかにいて、プレーヤー内で勝敗という序列が決まり、そして儲けをプレーヤー同士で奪い合う。リアルな社会・経済とは違う、異空間にいるみたいだ。

【投機】
次に投機。FXや暗号資産のようなものもあれば、株式や債券、金(ゴールド)などの商品、そして投資信託と、一般的な金融商品のほとんどが投機の対象となる。では投機の場合、何におカネを出しているのか。それは価格変動だ。
安値など最良のタイミングでエントリーし、価格上昇を売り上がっていけばリターンを得られる。もちろん読みを間違えれば損失も発生する。価格変動があるから損得の機会があり、価格が動かないものは投機の対象外となってしまう。つまり投機とは「価格さえ動けば相手は何でもよい」という考えだ。
実際、投資と勘違いして投機に勤しむ自称・投資家は、おカネを出す相手の本質を知らないことが多い。「トルコリラが儲かりそうだって!」と飛びつく人に限ってトルコに行ったこともなければ、地図上で正確にトルコの位置を指差すこともできない…… そんな事態も珍しくない。

【投資】
投資の正体とは何だろう。投資家は一体何におカネを出しているのだろうか。答えは、相手(対象)の成長だ。成長を期待するためには相手を深く知らなければいけない。未来に対して努力をし続けられるか、時代と適合するか、外部環境との相性はどうかといったことをイメージする必要がある。成長の結果は、もちろん価格として現れる。株式であれば株価、投資信託であれば基準価額だ。
なお、本物の投資家は間違っても価格のみにおカネを出すことはしない。価格の裏付けとなる相手の価値の上昇を願うのだ。面白いことに、投資家は相手の成長に寄り添うことができる。投資家の意思や行動で、相手に対して良い影響も悪い影響も与えられるのが投資の特徴と言えるだろう。

【運用】
最後に運用となるわけだが、これは議論のテーブルから除外しなければならない。先述のとおり、運用とは用いて運ぶことであり「上手に働かせる」ことだからだ。

パチプロや競馬のプロは博打が仕事。つまり博打を運用していると考えられる。自分の生活費からいかほどの博打資金を捻出し、仮に大きく外したら夕飯を抜くなどして資産の帳尻を合わせる。プロであればメンタル管理もしているだろう。そしてパチンコと競馬と宝くじの割合を決め、上手にバランスさせるのもまた運用。したがって運用とは全体管理・最適化という意味合いが強く、それゆえに博打も投機も投資も含んでしまうのだ。
余談だが、世にある運用会社の責務は、受益者(顧客)の資産を方針どおりに上手に働かせることにある。言い換えると、顧客に委託されて資産管理を行うことだ。目論見書や約款(顧客との契約)に「何でもありで増やします」と記載があれば、それこそ法令の許す範囲で投機や投資などあらゆる手段をとってもかまわないこととなる。

長期投資家の思考法 資産を増やし、社会を豊かにする
(画像=長期投資家の思考法 資産を増やし、社会を豊かにする)

投資と運用の違いについては、それぞれの頭に「自己」という言葉を付けるとその違いが分かりやすくなる。

「自己投資」は、将来になりたい自分をイメージし、それに向かって時間やおカネを費やす(投資する)行為。「10年後には世界で活躍する人物に」と願って語学を勉強するのも、「半年以内に恋人を見つけるんだ」と容姿や人間性を高めるのも自己投資だ。

それに対して「自己運用」とは(そのような言葉はあまり聞かないが)、あえて意味を持たせるなら、「自分の価値を最適に使えるようコントロールすること」となるだろうか。体調管理はもちろん、アスリートであれば大事な試合に向けてコンディションを高めていくことがそれに当たると思われる。

つまり自己投資は自分という価値を高めることであり、自己運用は自分を管理することだ。投資と運用のみが自分の意志と行動を結果に反映できるということであり、博打と投機は完全に制御不能なのだ。

投資と運用のそれぞれの頭に「システム」という言葉を乗せるとさらに分かりやすい。将来の事業拡大のために開発する行為を「システム投資」とするならば、「システム運用」は完成したシステムを安定的に動かすこととなる。

「自己」であろうと「システム」であろうと、投資は価値創出・成長促進という要素が主であり、運用は管理・最適化であることが分かる。
こうして言葉を定義してみると、日本には「おカネを増やそう」という意思や行動はあるものの、相手の成長を支えよう、寄り添おうといった「投資」の要素が少ないように思う。成長を共に歩む本当の意味での投資が日本に根付けば、資産も社会も質量共に再現性をもって大きくできるはずだ。

長期投資家の思考法 資産を増やし、社会を豊かにする
澤上 龍(さわかみ・りょう)
日本初の独立系直販投信、さわかみ投信代表取締役社長。1975年千葉県生まれ。2000年5月にさわかみ投信株式会社に入社後、ファンドマネージャー、取締役などを経て2012年に離職。その間、2010年に株式会社ソーシャルキャピタル・プロダクションの創業、2012年に関連会社の経営再建を実行し、2013年にさわかみ投信株式会社に復帰、同年1月に代表取締役社長に就任。現在は、「長期投資とは未来づくりに参加すること」を信念に、その概念を世の中に根付かせるべく全国を奔走中。コラム執筆や講演活動の傍ら起業や経営の支援も行う。

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