本記事は、澤上 龍氏の著書『長期投資家の思考法 資産を増やし、社会を豊かにする』(明日香出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

長期投資家の思考法 資産を増やし、社会を豊かにする
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

個人が企業を選ぶと、社会の質は高まっていく

選ばれた企業が成長を遂げた先には、一体どんな未来が待っているのだろうか。

企業が個人を向き、その恩恵を享受する

消費や投資において個人が企業を選ぶようになると、それだけで社会の質が変わってくる。もちろん選ばれない企業による努力もまた経済の質を上げる効果がある。そもそも選ばれる企業になるためには、価格に見合う価値、または価格以上の価値でモノ・サービスを提供しなければならない。「あったらいいな」を追求し、社会が受け入れられる価格を提案するためには不断の努力が欠かせない。独りよがりではなく、社会を研究し、モノやコトを訴求し、さらには売れ続けるよう改善を重ねるのだ。

タレントを起用して一瞬だけ売れるという商売もある。ほとんど水でつくられたような化粧品などがそれ。開発費をかけず、広告費だけで売上を稼ぎ、半年もしないうちに消えていってしまうようなもの。それらは社会に必要とされているわけではなく、単に流行を生み出しただけの存在である。そういったものに対して、伊藤園のおーいお茶、大塚製薬のオロナミンC、赤城乳業のガリガリ君、花王のアタック、象印の魔法瓶、トンボのMONO消しゴム、ホンダのスーパーカブなど時代を超えて万民に愛され続ける商品だってある。もちろん、それらも発売当初より改良を重ねられ成長してきているのだ。

もっとも選ばれた企業だって喜んでばかりいられない。称賛もあればクレームだって寄せられる。そういった個人の声に真剣に耳を傾け、その後も選ばれ続ける努力をすれば、あるいは世界がそのモノ・サービスを求めるようになるかもしれない。本質的に人々の生活に必要なモノは、どの国でも変わらないからだ。
人々に必要とされるモノ・サービスを提供できる企業は強い。そして、そうした努力のできる企業ばかりで構成されるような社会を望むならば、まずは個人が選ぶことに真剣にならないといけない。選ばれた企業が日本の需要を満たし、いずれは国外の需要を獲得していく。そうして外貨を得た日本全体はさらに強くなる。

企業の成長は企業任せでは果たせない。ここまでクドクドと話してきたとおり、消費する個人の存在があってはじめて企業成長も成り立つ。消費者として、そして投資家として企業とどう向き合うべきか。できれば企業を育む方向での付き合いが理想だ。
成長した企業がもたらすモノ・サービスを利用するのは、私たち個人だ。したがって企業の成長は、結果的には未来の自分のためだと考えられる。個人の側から言うと、将来に豊かな生活をしたいなら、モノ・サービスの提供者である企業に成長してもらわないと困るのだ。そしてさらに、理想の未来をイメージするならば、それを消費者・投資家として企業に求めていくと良い。企業は個人なくして存在できない。よって企業は個人を無視するわけがない。

日本企業に魅力はないのか?

話は逸れるが、2024年からはじまった新NISA(新・小額投資非課税制度)は多くの、特に若年層の投資家を増やすことに大いに貢献した。
実際、新NISAが生まれた2024年の一年間で個人のおカネは15兆円以上も投資に向かった。ただし、その約半分が国外へ行ってしまったのは極めて不本意なことである。日本経済の身を削って促した税制が米国を中心とする海外の株式市場を押し上げ、そして米国の通貨を押し上げた。得られるリターンは日本国民のものとなり、それをもってして日本全体の経済充実につながるのは間違いないが、最初からそのおカネが日本の株式市場に向かっていたらどれほどのインパクトがあっただろうか。

日本人の目から見て日本企業は魅力的に映っていないらしい。日本は人口減少でこの先の経済に期待ができないからなど理由を並べることは簡単。
しかし、実はそれは少しおかしな観点だ。日本を代表する企業のビジネスはもはやグローバルとなっている。大手企業から順に100社並べたならば、おそらく日本以外の売上が全体の6割とか7割までに高まっているだろう。日本企業に投資をすることは日本経済に投資をすることとは別次元のこと。日本発のグローバル企業に投資をしていることになるのだ。だとすると、新NISAを通じて半分のおカネが国外へ流れていってしまったのは、日本経済に悲観してなのか、または単に米国市場の盛り上がりにタダ乗りしただけなのかは別にして、未来を選ぶ、未来を創造するといった観点はないものと思われる。残念極まりないことだ。

長期投資家の思考法 資産を増やし、社会を豊かにする
(画像=長期投資家の思考法 資産を増やし、社会を豊かにする)

また、資金が国外、特に米国市場に流れることで円安をもたらした側面もある。現在および将来の生活苦を取り除こうと資産形成に励んでいるのに、自らがもたらした円安によって自分たちの首を絞めていることに気が付いていない。輸入大国の日本にとって円安は、たとえば食料品や原油を中心としたエネルギーの価格を引き上げる。その結果、仮に資産形成に成功しても国力の低下した日本での生活は楽にはならない……部分最適を追って全体がおかしな状況になることを合成の誤謬と言うが、まさにそれが起こっていると思われる。
自分たちの今、そして老後を豊かに過ごすためにも、自分たちの住む日本全体を皆の力と想いで良くしていきたい。そのためにおカネがどのように社会をつくっているのかを今一度考える必要があるのだ。

長期投資家の思考法 資産を増やし、社会を豊かにする
澤上 龍(さわかみ・りょう)
日本初の独立系直販投信、さわかみ投信代表取締役社長。1975年千葉県生まれ。2000年5月にさわかみ投信株式会社に入社後、ファンドマネージャー、取締役などを経て2012年に離職。その間、2010年に株式会社ソーシャルキャピタル・プロダクションの創業、2012年に関連会社の経営再建を実行し、2013年にさわかみ投信株式会社に復帰、同年1月に代表取締役社長に就任。現在は、「長期投資とは未来づくりに参加すること」を信念に、その概念を世の中に根付かせるべく全国を奔走中。コラム執筆や講演活動の傍ら起業や経営の支援も行う。
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