本記事は、澤上 龍氏の著書『長期投資家の思考法 資産を増やし、社会を豊かにする』(明日香出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

長期投資家の思考法 資産を増やし、社会を豊かにする
(画像=takasu/stock.adobe.com)

運用成績と応援投資を両立し、長期投資のリズムをつくる

戦略を駆使して価格差をしっかりと捉えるのが効率的に運用成績を上げる方法だと言える。しかし大きな相場の波で冷静な自分を保てるだろうか。いや、企業やそこで働く人々と出会い、その理念や想いに共感したならばドライでなんていられない。
では、ウェットに企業を応援するのだと運用成績を捨ててかまわないのか。そもそも資産づくりが目的であるため、情に振り回されて目的を見失ってはダメではないだろうか。
相場や人気を見極めてタイミングを狙う重要性を踏まえつつも、ウェットに企業と付き合う方法がある。企業を応援しつつ、しっかりと運用成績を収めるのだ。それがつみたて投資ならぬ「つみあげ投資」だ。

つみあげ投資の実践法

株式投資では、キャピタル・ゲインとインカム・ゲインの2つのリターンがある
キャピタル・ゲインとは、安く買って高く売ることで売買差益を得るというもの。インカム・ゲインは企業の身を削って出した配当金を受け取るものだが、株式を売らなくても金銭リターンが返ってくるため、一定の存在意義がある。とは言え、やはりメインのリターンは、キャピタル・ゲインだ。

「安く買って高く売る」とは、たとえば、企業業績が悪化するような不景気などに株式を買いはじめ、景気が良くなり企業業績が上向きになる過程で徐々に利益確定の売りを出すといったことで可能になる。
できれば暴落時など株式市場全体が大きく下げたときに買えればなおよし。
しかし売りに関して、株価のピーク前後で全部の株式を売る必要はない。すべての株式を売り切るのではなく、一部を残しておけばその企業に対する付き合いもアンテナも、そして応援も維持できるのだ。どのみちすでに、安く買って高値で一部売ることで多少のリターンを確保できたのだから。そこで確保したキャッシュは次の暴落まで持っておけばいい。そしていざ下がったら再びその応援したい企業に投資をしよう。

つみあげ投資のイメージは次のとおりである。

長期投資家の思考法 資産を増やし、社会を豊かにする
(画像=長期投資家の思考法 資産を増やし、社会を豊かにする)

① 株価100円のときに10,000株購入=投資資金は100万円。
② 株価が200円に値上がる=評価額は200万円。このタイミングで100万円分の株式を売却すると手元には100万円のキャッシュと5,000株(①に投資した10,000株の半分)が残る。
③ 過熱感が消えて株価が120円に下がる。保有するキャッシュ100万円をすべて突っ込む。100万円÷120円で8,333株。すでに保有する5,000株と合わせて13,333株となる=評価額は約160万円(13,333株×120円)。
④ 株価が再度上昇し240円になる=評価額は2倍の約320万円。次は株価が大きく下げそうだと予測し、保有する13,333株のうち思い切って10,000株を売却。手元には240万円のキャッシュと3,333株が残る。
⑤ 予想どおり株価が150円へと下がった。そのタイミングで240万円のキャッシュすべて用いて買い向かう。保有株数は16,000株増えて合計19,333株へ=評価額は約290万円。
⑥ 株価に勢いが戻り300円まで上昇する=評価額は580万円。
初期の投資資金100万円が、株価変動サイクルを繰り返しリズムよく乗ることで結果的に6倍近くまで膨らんだ。
このような成功例は絶対ではないが、しかし決して空論でもない。

変動サイクルを押さえた応援投資

株価上昇局面で売却するのは理解できるが、なぜ下がったところで再び買い戻せるのか。それは、企業に対する応援の気持ちがあるからだ。

株価が安いときは、誰かに買収されないよう長期投資家が支える出番である。企業理念を信じ、企業成長を応援するのだ。その結果、企業の努力もあって株価が上昇する。そうすると人気を目当てにした投資家が群がりはじめる。それが株価を持ち上げる。そのタイミングで応援の気持ちを残しつつ、企業とは少し距離を置く。いつも最前席で見ていたライブパフォーマンスを、後ろの席で静かに楽しむ感じだ。前列席はにわか応援団で一杯だろうし。

ここですべての株式を売り切らないのには理由がある。
末席であろうが常にライブには参加し、パフォーマンスが変わっていないかチェックするためだ。にわか応援団は他のアイドルへ目移りし、いずれいなくなってしまう存在だ。そのとき、自分が応援する相手が何も変わらず、むしろ次なる成長を目指しているというなら、改めて最前列で応援する…… つまり再投資をする(買い増す)のだ。
もともと実力はあるから、再び、にわか応援団が戻ってくる。そのタイミングでまた末席から静かなエールを送る。それを長期にわたって繰り返すのだ。
なお実は、相手もこちらがいつもライブに来てくれていることを知っており、いつの日か対話ができる日が来るかもしれない。

応援したい投資先企業を複数見つけて平行させるのが理想。できればさまざまな業種から見つけられるといい。複数企業への投資で、タイミングや業種をズラすことでリスク軽減が可能だからだ。
企業成長が長期で安定していれば、その株式を永久保有することでキャピタル・ゲインに加えてインカム・ゲインも期待できる。
しかし相場の波が消えることはないので、投資リターンの最大化を狙うならば変動サイクルを押さえるのが合理的なのだ。しかも、企業をしっかりと応援できる。

これぞ運用成績と長期応援投資の両立だ。

長期投資家の思考法 資産を増やし、社会を豊かにする
澤上 龍(さわかみ・りょう)
日本初の独立系直販投信、さわかみ投信代表取締役社長。1975年千葉県生まれ。2000年5月にさわかみ投信株式会社に入社後、ファンドマネージャー、取締役などを経て2012年に離職。その間、2010年に株式会社ソーシャルキャピタル・プロダクションの創業、2012年に関連会社の経営再建を実行し、2013年にさわかみ投信株式会社に復帰、同年1月に代表取締役社長に就任。現在は、「長期投資とは未来づくりに参加すること」を信念に、その概念を世の中に根付かせるべく全国を奔走中。コラム執筆や講演活動の傍ら起業や経営の支援も行う。
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